第七章:砕けた装甲の下
戦闘は、もはや会話の余地を残していなかった。
エリスの放つ魔力は正確で、冷酷だった。機械兵の支援を受けながら、彼女は迷いなく前へ出る。アリスは剣で応じ、紙一重で攻撃をかわし続けていた。
「くっ……!」
衝撃が走る。
エリスの一撃が、アリスの肩装甲を粉砕した。金属片が弾け、地面に散る。
次の瞬間、アリスは息を呑んだ。
砕けた装甲の下から露わになったエリスの腕。
そこには――無数の痕があった。
注射痕。規則性のない内出血。皮膚の色が不自然に変質した箇所。
一目で分かる。治療ではない。管理でもない。
「……なんだ、それ……」
声が、震えた。
エリスは無言で距離を詰める。
だが動きが、わずかに乱れた。
さらに一撃。
今度は胸部の軽装甲が割れ、白衣のような下地が裂ける。
その下に刻まれていたものを、アリスは見た。
拘束具による擦過痕。
押さえつけられた痕跡。
消そうとして、消しきれなかった“扱われた証”。
――理解してしまった。
訓練でも、実験でもない。
これは、人を壊すための行為だ。
「……誰が……こんなことを……!」
叫びは、返事を得られなかった。
エリスの瞳は揺れ、歯を食いしばるように唇が歪む。
その時、彼女の口から、かすれた声が漏れた。
「……命令、だから……」
次の瞬間、エリスは自分の頭を押さえ、苦しげに身を屈めた。
薬の副作用だ。感情が浮かぶたび、抑え込む仕組み。
アリスは剣を投げ捨て、前に出た。
「違う! そんな命令、聞かなくていい!」
だが、エリスの体は再び立ち上がる。
震えながら、銃口を向ける。
「……姉、さん……」
呼びかけは、それきり途切れた。
再び戦闘が始まる。
だがアリスの中で、何かが完全に壊れていた。
――守るために戦ってきた。
――その結果が、これなのか。
国家も、戦争も、正義も。
妹の身体に刻まれた痕の前では、すべてが無意味だった。
アリスは誓う。
この戦場から、必ず妹を連れ出すと。
たとえ――
世界を敵に回すことになっても。




