第三章:選ばれる者、捨てられる者
四日目の朝、点呼の列は目に見えて短くなっていた。
昨夜まで隣にいたはずの顔が、いくつも消えている。誰もその理由を口にしない。質問すること自体が、ここでは「不要」とみなされるからだ。
「本日より、適性選別を行う」
監督官の言葉は淡々としていた。
兵士たちは小隊ごとに分けられ、武装も告げられぬまま演習区画へと押し込まれる。
そこに待っていたのは、想定外の敵だった。
――複数の機械兵。しかも実弾使用。
「聞いてない……!」
誰かの悲鳴が上がった瞬間、銃声が空気を裂いた。
金属の弾丸が肉を穿ち、血が砂地に飛び散る。訓練ではない。これは、間違いなく本番だった。
「散開! 固まるな!」
アリスは叫び、地面を転がりながら遮蔽物に飛び込む。
心臓が耳元で暴れていた。恐怖で足が震える。それでも、体は勝手に動いた。
マリアが前に出る。
敵の注意を引きつけ、ローズが背後から射撃する――即席だが、確かな連携だった。
「アリス、今だ!」
呼ばれた瞬間、アリスは踏み出す。
剣を振り抜き、機械兵のセンサー部を叩き割る。火花と共に、機体が崩れ落ちた。
勝った。
だが、振り返った先で、ローズが膝をついていた。脚から血が流れている。
「……大丈夫、まだ撃てる」
そう言って笑おうとする彼女の顔は、蒼白だった。
戦闘終了を告げる笛が鳴る。
生き残った者だけが整列させられ、負傷者は別方向へ連れていかれる。
「治療、ですよね……?」
誰かが縋るように呟いた。
監督官は答えない。ただ、冷たい目で名簿に線を引くだけだった。
その夜、ローズの寝台は空のままだった。
「連れていかれた先、戻ってきた人を見たことがない」
小声で誰かが言う。
マリアは唇を噛みしめ、何も言わなかった。
アリスは、拳を強く握りしめる。
生き残るほどに、何かを失っていく感覚があった。
ここでは、強さだけが価値だ。
弱さは罪で、負傷は死刑宣告に等しい。
――それでも。
妹の顔を思い浮かべる。
守るべき存在がある限り、立ち止まるわけにはいかなかった。
翌朝、次の命令が下る。
「選別通過者は、前線投入準備に入る」
それが、救いなのか。
それとも、より確実な死への片道切符なのか。
その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。




