後日談:遺されたものが、すべてを壊す
それは、本編の終わりから四百七十年後のことだった。
世界は、表面上は平和だった。
国家間の大規模戦争は記録の中にしか存在せず、兵器の研究は厳しく制限され、子どもたちは「兵になる可能性」を想定されずに育っていた。
人々はそれを「成熟した文明」と呼んだ。
だが、遺跡の発掘は、いつの時代も慎重さより好奇心が勝る。
旧戦域の地下深く――かつて複数陣営が壊滅した地点で、二つの武器が発見された。
一振りは剣。
簡素でありながら、どの記録にも一致しない構造を持ち、起動すると周囲のエネルギーを“始動”させる特性を示した。
人々はそれを呼んだ。
**「全ての始まりの剣」**と。
もう一つは槍。
あらゆる力の干渉を拒絶し、触れたものの機構を“停止”させる性質を持つ。
こちらは、
**「全てを終わらせる槍」**と名付けられた。
解析が進むにつれ、学者たちは気づき始める。
この二本は、同一の源を持つ。
そして、その源が――かつて、名を消した二人の少女であったことを。
記録は断片的だった。
名前はない。
思想も、動機も、完全には残っていない。
ただ、「選ばなかった存在」「管理不能となった力」という記述だけが、冷たく並んでいた。
最初は、研究目的だった。
次に、防衛利用の検討。
やがて、「もし敵が持ったら」という仮定が語られる。
その瞬間、すべてが決まった。
剣を確保する国。
槍を管理下に置こうとする連合。
両方を否定し、破壊を主張する勢力。
かつてと、何も変わらない構図だった。
戦争は、宣言なしに始まった。
誰も「戦争を始めよう」と言わなかった。
ただ、「取られる前に取るべきだ」と、皆が思っただけだ。
剣が起動するたび、新たな兵器が生まれた。
槍が振るわれるたび、都市が沈黙した。
人々は再び、力を「希望」と呼び、同時に「抑止」と言い換えた。
その過程で、誰も思い出さなかった。
――なぜ、その力が封じられていたのかを。
廃墟となった資料館の片隅に、かつての手帳が眠っている。
署名のない、古い言葉。
――私たちは世界を救わなかった。
――ただ、選ぶ自由を壊さなかっただけだ。
だが、後の時代の人々は、その一文をこう解釈した。
「だから、次は正しく使おう」と。
剣と槍は、今日もどこかで狙われている。
かつて少女だった二人の意志とは、無関係に。
人は変わらない。
力があれば、必ず意味を与えようとする。
意味を与えれば、必ず奪い合う。
そして、また誰かが言うのだろう。
「これは、仕方のないことだ」と。
世界は再び、混沌へと歩き出す。
それが、
名前を捨てた二人が残した“最後の結果”だった。




