後日談: 名前の残らない未来
それから、三百十二年が過ぎた。
歴史書には、あの時代をこう記している。
「兵器国家連鎖崩壊期」。
兵を量産し、力を管理し、命を資源として扱った文明が、自壊的に終焉へ向かった時代だ。
原因について、学説は割れている。
ある者は経済破綻を挙げ、ある者は思想の変化を言う。
だが、必ず脚注に添えられる一文があった。
――正体不明の二名の存在が、複数陣営の軍事・研究体系を同時に無力化した可能性。
名前は残っていない。
意図的に、消されたのだ。
兵士を「造る」技術は、その後急速に廃れた。
適性選別、人体実験、薬物制御。
すべてが“禁忌技術”として封印され、再現は法律と倫理の両面で否定された。
代償は大きかった。
短期的には防衛力を失った国家が滅び、無秩序な時代が続いた。
救えたはずの命も、確かにあっただろう。
それでも、人は学んだ。
力を「選ばせない」社会は、必ず破綻するということを。
辺境の資料館に、古い手帳が一冊だけ残っている。
署名はない。
ただ、最後のページに、短い言葉が記されていた。
――私たちは世界を救わなかった。
――ただ、誰かが選ぶ自由を、壊さなかっただけだ。
二人がその後どう生きたのかを知る者はいない。
英雄にも、災厄にもならず、記録から静かに消えた。
だが今も、兵士を育てる学校では、最初の授業でこう教えられる。
「力より先に、意志を問え」と。
それが、
名前を捨てた二人が、未来に残した唯一の痕跡だった。




