第二十章(最終章):それでも、選ぶ
夜明け前、風は静かだった。
アリスは高台に立ち、遠くで動く灯りを見下ろしていた。正規軍、反軍、独立勢力――もはや区別はない。すべてが、二人の存在を中心に集まり、壊れ、また形を変え続けている。
エリスは隣で、まだ完全には立てない身体を支えながら空を見ていた。力の後遺症は残っている。以前のように無尽蔵には使えない。だが、それでよかったと、二人とも思っていた。
「世界は、私たちを兵器にしたい」
アリスは静かに言った。「でも、それはもう選ばない」
背後で足音がした。
マリアだった。銃は下げられ、敵意はない。ただ一人の少女として立っている。
「追う理由が、なくなった」
彼女はそう告げた。「排除も、管理も……答えじゃない」
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
かつて同じ訓練を受け、同じ夜を越えた仲間だった。
「私たちは逃げない」
エリスが言った。弱々しいが、はっきりと。「でも、従わない」
その言葉が、すべてだった。
世界を救う義務も、壊す権利も引き受けない。
ただ、生き方だけを選ぶ。
やがて、追跡の灯りが遠ざかり始めた。壊滅的被害の記録と恐怖が、簡単な決断を許さなくなったのだ。誰もが、次に踏み出す一歩を躊躇している。
「終わりじゃない」
マリアは背を向けながら言った。「でも……今日は、ここまでだ」
彼女は去り、二人は残った。
アリスはエリスの手を取る。
かつて姉妹として、仲間として、そしてそれ以上の絆として結ばれた温度が、確かにそこにあった。
選ばれなかった力。
選び続ける意志。
それだけを携えて、二人は歩き出す。
世界がどう呼ぼうと関係ない。
彼女たちはもう、番号でも災厄でもない。
名前を持つ存在として、
今日を、自分たちで選ぶために。




