第二章:鉄と血のキャンプ
訓練キャンプは「人を兵器に作り替える場所」だった。
アリスが最初に感じたのは、土と油と血の混じった臭いだった。広大な平原に張り巡らされた鉄柵の内側では、何百人もの若者が無言で整列し、監督官の怒号に晒されている。
「遅い! ここは墓場だと思え!」
木剣で殴られ、倒れた者は踏み越えられる。助け起こすことは禁止。倒れる=役立たず、という単純な論理が支配していた。
アリスは歯を食いしばり、剣を握る手に力を込める。妹の顔が脳裏をよぎるたび、足は自然と前に出た。
夜になると、簡易寝台に押し込められた女兵士たちの間に、低い嗚咽が広がる。
その中で、気丈に振る舞っていたのがマリア・クレインだった。
「泣くなとは言わない。でも、生き残るために目は逸らすな」
彼女の声は震えていたが、芯があった。
ローズ・シモンは無言で銃を分解し、再組立てを繰り返している。眠る代わりに、手を動かし続けることで正気を保っているようだった。
三日目、初の実戦形式訓練が始まる。
標的は旧式の機械兵。だが「旧式」という言葉に油断した兵士から、次々に倒れていった。
鋼鉄の腕が人体を殴り潰す音は、骨が折れる音と同義だった。
「距離を取れ! 関節部を狙え!」
アリスは叫びながら突撃する。刃が機械の膝関節に食い込み、火花が散った。
返ってきた反撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。肺から空気が抜け、視界が暗転しかけた。
――それでも、立つ。
その夜、アリスは一人、柵の向こうを見つめていた。
妹は今、どこで何をしているのか。
この戦争は、本当に「守るため」のものなのか。
遠くで、処分場に運ばれる遺体袋が積み上げられていく。
その数は、昨日よりも確実に増えていた。
アリスは気づき始めていた。
ここは訓練所ではない。
選別場なのだと。




