第十八章:追う者の理由
夜の森は、異様なほど静かだった。
葉擦れの音すら、張り詰めた空気に呑み込まれている。
アリスは剣を下げたまま歩いていた。振り返れば、エリスが必死に足を運んでいる。暴走の後、彼女の力は不安定で、長く走ることもできなかった。
「……来る」
エリスの声が小さく震えた。
次の瞬間、木々の間から複数の人影が現れる。
かつての戦友たちだった。
同じ訓練を受け、同じ命令に従い、同じ恐怖を知った少女たち。今はそれぞれ異なる陣営の腕章をつけ、追跡者として立っている。
「投降しなさい、アリス」
マリアの声だった。
彼女の目は揺れていた。敵として命令を受けているが、感情までは消えていない。
「私たちは、逃げてるだけじゃない」
アリスは答える。「選び直してる」
だが、その言葉は届かなかった。
追跡者たちの背後には、軍、研究組織、反政府勢力――無数の思惑が重なっている。彼女たちは“個人”ではなく、“役割”として動かされていた。
戦闘が始まる。
銃声、魔力、刃。
アリスは防ぎ、退き、殺さないことだけを選び続けた。
その姿に、追う側の動きが一瞬、鈍る。
「まだ……戻れると思ってるの?」
誰かが叫ぶ。
「戻らない」
アリスは断言した。「最初から、間違ってた場所には」
その瞬間、遠くで爆発が起きた。
別陣営同士の衝突――二人を巡る争奪が、制御を失い始めていた。
追う理由は、もう崩れ始めている。
それを、全員が薄々理解していた。




