第十三章:選ばれた者の引き金
銃声は、迷いを切り落とす音だった。
坑道に反響する一発目を皮切りに、マリアの部隊は一斉に動いた。連携は完璧だった。かつて訓練所で、血と汗の中で叩き込まれた動き。そのすべてが、今はアリスへ向けられている。
「左右から来る!」
アリスはエリスを背後に押し、剣で弾丸を逸らした。火花が散る。マリアは距離を保ち、確実に包囲を狭めてくる。感情を排した戦術――それが彼女の“生存の代価”だった。
「まだ逃げるの?」
マリアの声が響く。「あなたは、ずっとそう。守るって言いながら、選ばれることから逃げてた」
「選ばれる?」
アリスは踏み込み、瓦礫を盾に銃火をやり過ごす。「選別のことを、そう呼ぶのか」
一瞬、マリアの手が止まった。だが次の瞬間、引き金は引かれる。迷いは消えた。
「私は、生き残った。だから従う。そうしないと――」
言葉は続かなかった。爆音が会話を断ち切る。
エリスの魔力が、不安定に揺れた。光が走り、天井の岩盤が崩れる。制御できていない。代償が近い。
「エリス、下がれ!」
アリスは前に出た。剣を低く構え、一直線にマリアへ向かう。距離が詰まる。互いの息遣いが聞こえるほどに。
「……ごめん」
マリアは囁くように言った。「私には、これしかない」
「違う」
アリスは剣を止め、刃を逸らした。「選ばなくても、生きられる」
その隙を、マリアは撃たなかった。引き金にかかった指が、わずかに震える。
――次の瞬間。
別方向からの狙撃。第三者の介入だった。反軍組織か、独立勢力か。弾丸が二人の間を裂く。
「散開!」
マリアは叫び、部隊を後退させる。
崩れ落ちる坑道の中、アリスはエリスを抱えて走った。背後で、マリアの声が最後に響く。
「次は……次は迷わない」
アリスは振り返らなかった。振り返れば、剣が鈍る。
こうして、決定的な一線が引かれた。
同じ夜を越えた仲間は、もう戻らない。
選ばれた者と、選ばない者。
その違いが、戦場で初めて明確になった瞬間だった。




