第十二章:追う者たちの名
足音は、ひとつではなかった。
地下坑道の奥で、アリスは即座に察知する。
軍の処理班とは違う。動きが静かすぎる。
「……隠れて」
エリスを背後に庇い、剣を構える。
次の瞬間、闇の向こうから聞き覚えのある声が響いた。
「――アリス・ヴァルド。まだ生きてたんだね」
光源が灯る。
現れたのは、三人の少女兵だった。
マリア・クレイン。
かつて、隣で眠り、隣で戦った仲間。
その両脇に立つ二人も、第三中隊の生存者だった。
だが、目が違う。迷いが削ぎ落とされ、代わりに命令への忠誠が刻まれている。
「回収じゃない。今回は“処理”だってさ」
マリアはそう言いながら、銃を構えた。
声は平静だが、わずかに震えている。
「……マリア」
アリスが名を呼ぶと、彼女は一瞬だけ目を伏せた。
「昔の話だよ。
生き残った私たちは、選ばれた。
――あなたたちは、選ばれなかった」
銃声が坑道に反響する。
アリスは剣で弾き、エリスを連れて後退した。
戦いながら、理解する。
彼女たちは“追跡者”にされたのだ。
逃げる自由と引き換えに、命令に従う存在に。
その時、坑道の別方向から、別の影が現れる。
軍服ではない。装備も統一されていない。
「おやおや、先客がいましたか」
軽薄な声。
男が笑いながら拍手する。
「反軍組織《灰の輪》です。
あなたたちの力、ぜひ我々のために使ってほしい」
さらに、上方から通信音が降り注ぐ。
『こちら独立都市連盟。保護を提案する。
条件は一つ――力の提供だ』
次々に重なる声。
軍、反乱組織、独立勢力。
誰もが同じものを見ていた。
――二人の“不完全な力”。
薬に依らず、命令にも縛られない力。
制御不能だが、再現できれば価値は計り知れない。
「……全部、敵だね」
エリスが、静かに言った。
アリスは頷く。
もう幻想は捨てた。
「利用させない。
誰にも、奪わせない」
マリアが引き金に指をかける。
「ごめん。
でも、私は――生き残る方を選ぶ」
その言葉に、アリスは剣を構え直した。
「私もだ」
銃声と魔力と刃が交錯する。
かつての仲間、現在の敵、未来の捕食者。
世界そのものが、二人を奪い合いに来ていた。
エリスの手が、微かに光る。
不安定で、脆く、それでも確かな力。
「……姉さん」
「大丈夫」
アリスは前に出る。
「私たちは、誰のものでもない」
それを証明する戦いが、始まった。




