表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

第十一章:存在してはならないもの

潜伏先は、地図から消された集落だった。

 かつて鉱山として使われていた地下坑道の名残。崩落を免れた一角に、二人は身を潜めていた。外界の音は遠く、湿った空気だけが時間の経過を告げている。


 エリスは壁にもたれ、浅い呼吸を繰り返していた。

 顔色は悪く、魔力の気配も不安定だ。


「……私、もう前みたいには動けない」


 その言葉は、静かだった。

 だが、アリスの胸には重く落ちる。


 研究施設で与えられていた薬は、単なる抑制剤ではなかった。

 肉体を酷使し、限界以上の出力を引き出すための――代償前提の薬。


 エリスの力は、外付けの“装置”によって成立していたのだ。


「薬が切れた今、力は戻らない。むしろ……使うたびに壊れていく」


 エリスは自分の手を見る。

 かつて兵器として完成しつつあったその身体は、もうどこにも向かっていない。


「それでも、生きてる」


 アリスは即答した。

 迷いはなかった。


「それだけで、十分だ」


 その時、遠くで微かな振動が走る。

 追跡者だ。


 ――同じ頃。


 前線司令部地下、非公開通信室。

 白衣の研究主任が、端末に表示された二つの識別番号を見つめていた。


「対象AとBの同時逸脱……想定外だが、理論上は成立する」


 軍人が眉をひそめる。

「何が問題だ。戦力が落ちただけだろう」


「違う」


 研究主任は淡々と続けた。


対象Aエリスは、外部制御を失ったことで“自己決定”を獲得した。

 そして対象Bアリスは、それを守るために命令系統から逸脱した」


 端末に表示される解析図。

 二人の行動は、単独では不完全だった。


「二人が一緒にいる限り、予測不能になる。

 兵器でも、兵士でもない――“選ばれなかった存在”だ」


 軍人は理解した。

 だからこそ、回収ではなく排除なのだ。


「存在自体が、制度の否定になる」


 ――再び、地下坑道。


 アリスは剣を手に、出口の方を見据えていた。

 逃げ場は少ない。だが、隠れる意味はあった。


 エリスが、かすかに微笑う。


「ねえ……私、怖い。でも」


「でも?」


「姉さんと一緒なら、命令より、薬より……ちゃんと、選べる気がする」


 アリスは振り返らずに答える。


「それでいい。

 選ぶのは、私たちだ」


 足音が、確実に近づいてくる。

 追跡者たちは、もうすぐここに辿り着く。


 だが二人は、もう戻らない。


 兵器でも、兵士でもない。

 国家の計画にも、研究の理論にも属さない。


 ただ――生きると決めた存在として。


 世界がそれを許さなくても。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ