番外編⑧ あなたと二度目の恋を
「君は……」
鼓膜を震わせる声は、揺れていた。頼りないもののように思えてしまって、私は自分を抱く腕にそっと手を添え、撫でる。
「いつも、誰かのために動ける人だと思う」
ぽつりと呟かれた言葉が、しんとした玄関ホールに反響して、消える。私は身を預けながら、次の言葉を待つ。
「私のことも、諦めずにずっと追いかけていてくれた」
二度目のことを言っているのだと、すぐにわかった。顔が見たいと思うのに、拘束されていて身動きがとれない。
「それは、私がしたかったことですから。ただ諦めが悪かっただけです」
「君に他人行儀に接して傷付けたのに?」
「そんなの、もう大丈夫です」
貴方が私を守ろうとしてくれた結果だってことを、ちゃんと今の私は知っているから。あの時の心の痛みがなくなった訳ではないけれど、今の私は傷以上の、十分すぎる幸せを貰っている。
これ以上、望むものなんかない。そう思っていたのに――
「今度は、私が追いかけたい」
予想外の言葉に私が目を瞬かせた時、ふっと腕の力が緩み、私は解放される。振り向くと、リオネル様は顔を赤くしていた。その眼差しの熱だけで、また胸が高鳴る。
「君に、恋をしているんだ。……この上なく」
飾らない、真っ直ぐな言葉が、私を貫く。
「やっと言えた。……順番を間違えたな」
リオネル様の手が私の顔に触れ、輪郭を確かめるように撫でられる。
「ふふ。はい。リオネル様はいつも、先に結婚を申し込んでくれますよね」
私が微笑むと、リオネル様はふいっと視線を逸らしてしまった。
「それは……忘れてくれ」
「嫌です。嬉しかったし、貴方らしいなって思いましたから」
慈しむような優しい手。恥ずかしくて堪らないのに、逃げたいとは思わなかった。
だって――
「私も、同じ気持ちです」
目を閉じて、大きな手に顔をすり寄せる。
「一度目からずっと、貴方が好き。貴方だけに恋してます」
自分から手を伸ばして、リオネル様の頬に触れる。もっとよく見たい。もっと近付きたい。こみ上げる衝動のままに、私は彼の顔を覗き込む。
「もう一回、恋をやり直しましょう」
「ああ」
私たちはどちらからともなく抱き合い、唇を重ねる。甘く柔らかい感触にくらくらする。
キスが終わっても、リオネル様は私を放してはくれなかった。
「リオネル様?」
「……離したくない」
不貞腐れたように言われて、驚いてしまう。
「この前、一緒に暮らすわけにはいかないって言ったのはリオネル様なのに」
むっとしてみせると、リオネル様は明らかに慌てた様子で口を開く。
「あれは……君の兄に心配をかけるのはいけないと思ったんだ」
リオネル様はしゃがみこみ、魔道書を拾って私に手渡した。
「帰るまでは一緒にいよう。ずっと」
それをリオネル様から言ってくれたことが嬉しくて、胸が高鳴る。
「はい!」
私たちは微笑み合い、連れだって邸の中へと歩を進めた。
夫婦から他人へ。他人から婚約者へ。
そして今ここから、私たちは二度目の恋をやり直す。
これで後日談も終了となります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ブックマーク、評価、感想など頂けますと嬉しいです。




