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番外編② 魔法学園の優等生


※ブレディ視点です



 リオネルはいつの間にか、俺のすぐ隣に立っていた。そちらに顔を向けても、視線は合わない。先ほどまでの俺と同じように、リアたちを見つめていた。


 表情はいつもの仏頂面。なのに、彼女たちを見つめる視線には、確かな温度が宿っている。


「貴方は、元気ですか」


 彼の発言に、耳を疑った。

 もっと他に言うことがあるんじゃないか。咄嗟にアメリアに視線を走らせる。彼女のこと。過去のこと。あの塔の上であったこと。話すべき話題などいくらでもあるのに、なぜそんな話題を選ぶのか。


 わからなすぎて、俺はふっと息を吐いた。口角がほんの僅かに上がっているのがわかる。リオネルがこちらを見た。俺は努めてリアたちを見続けた。


「お陰さまで」


「……なら、いいです」


 それで、会話は途切れた。中庭に、子供たちの楽しげな声が響く。俺はもう一度笑いそうになってしまって、慌てて腹筋に力を込めた。


 本当にリオネルは、あの頃と何ら変わらないのだと思った。いつもは難なくできるのに、今日に限って笑いを堪えることがとても難しい。気を張り続けてきた心から、見えない何かがするりと抜け落ちたような気がした。


「貴方だよね。今回のことを提案したのは」


 返事の代わりに、春の優しい風が吹く。リアの髪がぼさぼさになり、彼女は泣きそうな顔をした。アメリアがさっと背後に回って、リアの髪を結い直し始める。


「どうして、そう思うのですか」


 抑揚のない声だった。


「イルゼが言うわけないから」


 もしもう一人の妹が言い出したことなら、必ず彼女は面白がって、着いてこようとするだろう。彼女のひねくれた性格は、昔からのもの。だから、よくわかっている。


「それに、貴方はこういう事を人任せにしない」


 何より、彼がここにいることが証拠だった。リオネルは返事をしない。


「リアのことも、気にしてくれているし」


 妹が座る、世界にひとつだけの魔力を使って動く椅子。あれがあるから、リアは世界を自分の目で見ることができている――


「あれは……殿下のために考えたものではありません」


「それでも、リアは助かってる」


 俺が言葉を被せると、リオネルは今度こそ押し黙った。この偉い魔法使い様を言い負かすことができた気がして、心の中だけで笑った。


「ありがとう」


 感謝の言葉と共に、空を見上げた。

 やっぱり、返事はなかった。


 話が終わったと判断したのか、リオネルがリアたちの方に歩いていく。俺は彼の背中を、黙って見送った。


 リアたちがいるのは目と鼻の先なのに、見えない壁があるような、自分だけ違う場所にいるような感覚がした。


「そろそろお体に障ります」


「……そう、よね」


 リオネルの言葉に、リアがしょんぼりと肩を落とす。その拍子に、彼女はこほんとひとつ咳をした。

 一度始まると、次から次へと止まらなくなる。


「リアーナ様!」


 真っ先に反応したのはアメリアだった。苦しげなリアの背を擦る。その手には、僅かな魔法の光が見える。

 アメリアの治癒魔法のおかげか、リアの苦しげな表情は少しだけ和らいだ。けれど咳は続いている。魔法は万能じゃない。咳を止める、つまり病気や生まれついた体質を治す魔法は存在しない。


 子供たちが心配そうにリアを見つめている。


「せめて、教会の中には入りましょう」


 有無を言わせない口調で、リオネルが告げる。彼が魔法の椅子を押して、アメリアが魔法を維持しながら、リアは教会の中へと入っていく。子供たちがその後に続いた。すっかりリアと仲良くなっている。


 俺だけが、その場から動けなかった。


(……俺は)


 なにもできないのだろうか。

 リアやリオネルは自分の役割を理解している。アメリアは自分の未来を掴もうとしている。


 俺は服の上から、ロケットペンダントをぎゅっと握りしめた。







 *






 リアたちが帰った後。

 

 俺はひとりで自室にいた。引き出しから古い教本を引っ張り出し、選別し、机の上に並べていく。

 魔法学園の優等生は、科目に好きも嫌いも、必要も不要もなかった。そもそも魔法学園に通っていたのも、幼なじみと一緒にいたかった、ただそれだけの理由。

 目の前にあるものを、漠然とこなしていただけだった。


 そんなことを正直に言ったら、大切な幼なじみや、やかましい友人たちに怒られてしまいそうだ。彼らの顔を思い浮かべて、苦笑いをする。


 机の上に並んだのは、魔法医学や魔法薬学の教本。


 胸元からロケットペンダントを引っ張り出した。青い石が、窓からの光を反射してきらりと輝く。そこにもう、星の光は宿らない。

 

 今までは毎晩、これの中身を確認して過ごしていた。だけど今日は、開かなくてもいい。 


 蓋を優しく、指先でなぞった。


「俺にできることは、これから探すよ」


 もう、縛られる理由はなくなったから。


 自分にそう宣言して、ロケットペンダントの鎖を外した。金属が擦れてちゃり、と音を立てる。

 その音に胸がざわついたのは、ほんの一瞬のこと。


 

 

 俺は空いた引き出しの一番奥に、ロケットペンダントをそっと仕舞った。

 



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― 新着の感想 ―
とても綺麗に「苦味」を残していく、素晴らしい特別編でした!
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