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第9話事件は唐突に襲い掛かる。③

「手紙でもお伝えしましたよね。無理です」

「そんな余裕はうちにはありません」


 最終手段『直談判』の結果は、ただ傷が増えただけ。

 

 他の領地にアポなしで突撃なんて失礼極まりない行為なのは重々承知の上だったが、それでも門前払いされる覚悟で遠出した意味はなかった。



 

「八方塞がりってこういうことを言うのね」


 バーガンディ領への帰り道、リテネロエは思わず呆れ笑いが出てしまった。

 さすがのルクシンドも少し焦っているようで、それに辛口な突っ込みをすることはせずに腕を組んで考え込んでいる。


「王都に支援願いも出しましたが、あそこはすぐに答えを出せないでしょうし期待は出来ません」


「そうよね……」


「とりあえず俺は伝手があるところ全てに駆け寄ってみます。リーティは今の正確な残りの食料を把握してください。予備の食料庫や卸業者が持っている分までです」


「わかった。お父様からの返事ももうすぐ来るはずだし、届いたら伝えるわね」


「お願いします」


 本当にどうして、父と母がいない時に限ってこうやって問題事ばっかり起こるんだろうか。

 神は一体どんな試練を私に与えたいと言うのか。そんなに悪いことをしながら生きて来た訳ではないと思うのだが。


 バーガンディ領に生屍なんかここ数年出たことないのに、このタイミングで大量の霊気を持った個体が食料庫を荒らすなんて、運が悪いにも程がある。


――でも、運が悪いからって父の民を苦しませるのは嫌だ。絶対に。


 

■□■□■□



「あれ? リテネロエ様どうしたんですか?」

「ちょっと在庫確認に」

「そうですか。お疲れ様です」



「どちら様ですか?」

「最近不作なので食料の蓄えはどれくらいあるか調べに来ました」

「ふうん、手短にしてくださいね」



 顔見知りの小さな予備食料庫にも、初めて訪れる民家の卸業者にも今起こっている事態は隠しまま、平然とした顔でどれだけ在庫があるかの確認をする。


 何の解決策も見つかっていない今、むやみに危機を伝えるのは良くない。人伝に誇張して話が広まり、不安だけが募ってしまうから。

 

 何でもない顔をして何でもない会話をするのは、心にずっしりと何かが圧し掛かった。




「――だめだ」


 一通り確認が終わり、リテネロエは川辺の原っぱにポンと足を投げ出して座り込んだ。


 立ち寄った果物屋や八百屋は二日仕入れがないだけで棚がスカスカになってるし、食料の備蓄なんてほとんどないに等しかった。

 それもそのはず、領地内で作物を作れないのだ。せいぜい採れるのは小動物の肉や木になった果物くらいで、輸入に九割頼っている土地で潤沢な食料を備蓄しておくことなんてできない。

 そのせっかく買ったものが全て一瞬でなくなってしまったのだから、いくら狭いと言っても山の中にある小さな町とは話が違うのだ。少しずつ配って行ったら底をつくのはあら不思議、あっという間である。


 途中で、買い物に来た家族と店主が不安な顔をしながら話し込んでいるのを見た時、もう色々と手遅れなのが分かった。


「いっその事、王都に突撃して土下座するか」


 ここら辺の領地はみんな特別裕福なわけではないし、そこから無理やり高額で食料を買い取るくらいなら、恥を忍んで王に直談判した方が良い。


 既にバーガンディ家の名誉のキャンパスは真っ黒なんだから、ちょっとくらい黒色の絵具を落としたってわからないし、痛くもかゆくもないんだから。




「――あれ? こんなところで何をしてるんですか、リーティさん」


「うわっ!」


「すみません……驚かせてしまいましたね」


 灰色に染まっていた視界に突然金色の宝石が飛び込んできて、リテネロエはバタバタっと飛び起きる。


 落ち着いて声の主の方を見るとそこには、その一角だけ作画が違うのだと錯覚してしまう程にこの凡庸な草原に似つかない美貌のユートがにっこりと佇んでいた。


「ご、ごごごめんなさいっ! ぼーっとしていて」


「大丈夫ですか? あまり顔色が良くないように見えますが……この前会った時はもっと表情がなんというか、こう、子犬みたいでした」

 

 「子犬ってどんな表情だよ」と眉を顰めたが、すぐにリテネロエは先週のことを思い出した。

――それは、ユートにさらした失態の数々。

 

「――――ああ! この説は大変申し訳ありませんでした!!」

 

 二度としないと心に決め、記憶の奥底にしまい込んだ醜態だが、ユートの姿を見ると共に鮮明に掘り出され、迷惑をかけてしまった彼にこれでもない程深く頭を下げる。


「私は全然大丈夫ですよ。あ、今日も酒場に行くんですか? 良ければ私もこれから行くところなので一緒にどうでしょう」


「あっ、いえ今日は行くつもりはなくて……ちょっと仕事が大変なことになってるので」


 そう言えば、酒場で潰れた日からちょうど一週間。今日はユートもあそこでバイトなのだろう。

 しかし、そんなところで油を売っている暇はない。

 誘いは嬉しいものの、リテネロエは首を横に振った。


「――本当に顔色が悪いですよ? 心配なので一緒に来てください。リフレッシュにもなるでしょう?」


「えっ、でも今お酒はちょっと」


「温かいミルクでも飲めばいいんですよ。少しは体の力が緩みます」


 ほらほらと手を引っ張られて、リテネロエは渋々ユートの後に着いて行く。


 いくら超絶イケメンに心配してもらったからと、領地の危機をほっぽり出すのはさすがにできないと思うリテネロエだが、あの酒場の在庫状況を知ることも個人経営の飲食店がどうなっているか知る上で役立つだろうと、無理やり手を払うことは止めた。



☆★☆★☆



ご覧いただきありがとうございます!次回も来週月曜日更新です。


バーガンディ領にだけは住みたくない!

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