日常雑貨で魔王を倒す方法
「おのれ勇者……ここまで来たか……」
玉座の奥。禍々しい魔力をまとう魔王は、鋭い眼差しで俺を見下ろしていた。
ついに、ここまで来た。あとは――。
「だが、我の弱点など見抜けまい!」
だが、俺は知っている。
「ふふふ……魔王、詰めが甘いぞ」
「な、なにっ!?」
俺は、手に持っていたそれを魔王に差し出した。
「なぁ魔王、苦手なんだろう?これが」
「あ、あぁぁぁぁ!そ、それだけはぁ!」
俺が持っていたもの――それは、「使いすぎて手の間をすり抜けるような大きさになった石鹸」だった。
「俺は知り尽くした――お前の弱点を」
「この石鹸は、もうだめだ!使うたびに手や容器をすり抜けていくうざい存在なんだ!」
やれやれ――。せっかく俺がかっこいい決め台詞を口にしたというのに、全く聞いていないじゃないか。
「まだまだぁ!弱点を知り尽くした俺は、こんなところでは止まらない!」
そして、俺は自分の足を保護していた特別製の長ズボンをまくり上げ、それを魔王にみせつけた。
「どうだ!家を出る時に靴下が片方見つからなかった俺は、今日片方の靴下をはいていない!」
「な、なにぃ――?なんということだ!なんという靴下への冒涜!これは許されるまい、というか単純に臭い!」
臭いという言葉はちょっとぐさっときたが、気にしないこととする。
――臭くないよな、俺。臭くないよな?
「次は、これだ!」
気を取り直した俺は、遠征カバンの中から取り出したものを魔王へとかかげる。
「そ、それは……!」
それを認識した瞬間、一気に怯え始める魔王。ふははは、想像通りの反応だな。
「それは、『出すときに真ん中で半分に裂けるティッシュ』!」
そう、なぜかひっかかって裂ける、アレだ。
「魔王、恐ろしいか。やめてほしいか。やめてほしいのならば、今すぐ降参するのだな、ふはははは!」
「恐ろしいが……ちょっと面白いから降参しない。っていうか、『ふはははは!』とかいう台詞は我のほうが似合うのに……」
ぬぅ。こんなに弱点をついているのに、「面白いから降参しない」だと……?
「それでは――見よ、我が相棒、魔法使い・ニャストラの魔導書を!」
そう言って俺は、持ってきていたニャストラの魔導書を取り出した。
「な、なぬっ!?そ、それは――『カバンに入れてたら端っこが折れたけどどうやってもなおせないやつ』じゃないか!き、効くうっ」
そして、魔王は胸の傷を押さえている。そういう経験があるんだろうか。あるんだろうな。
「わ、我が間違っていた。降参する、させてくれ!」
「軟弱なものだな」
そう言い、俺は魔王へ降参する旨を書いた紙とペンをさしだした。
それを受け取った魔王は言った。
「こ、これは、『まだインクは残っているのに全然でないペン』じゃないか!」
絶対こいつら仲いいだろ。