episode.1 『記憶』
カタ、という物音が聞こえ、ぼくはゆっくりと目を開けた。ぼやけた視界はだんだんと晴れていき、見知らぬ天井を見つめた。
家だ。誰の家だろう? あのお師匠という人の家なのだろうか? でも、ぼくはあそこに……。
…あれ。あそこって、どこだろう? 最後、どこに居たんだっけ…?
自分の名前すらも思い出せない。思い出そうと頭を捻っても、逆に頭痛がするばかりで手がかりは何も無い。覚えてるのは、あの言葉だけ。
とりあえず起き上がって、辺りを見渡そう。
そうしていると、その音で気づいたのか、あ!という声が聞こえた。そこには、猫のような被り物をした男性がいた。
「おはよう! 目が覚めたんだね!」
「…だれ?」
ぼくは彼にそうなげかける。すると、彼はくすりと笑うと、ぼくの側へ近づき、椅子に座った。
「僕はライ。君の救世主、ってとこかな〜。君、2日前にここの近くの川で流されてたんだよ。覚えてる?」
二日前…? 川で流された…?
彼はぼくの表情をみて察したのか、えっとね。と話を切り出した。
♦︎
昨日、とても強い雷雨が発生した。朝に情報を確認したところ、近くの森では雷が落ち、一部の木々が燃えてしまったらしい。雨が強く降っていたため火災の広がりは防げたが、森の近くの家では、川の洪水により汚水が流れて来たらしい。
今日、昨夜から行方不明になった女の子を探して欲しいという依頼が届いた。もう暫くこの街に滞在する予定だし、森の調査を念入りにしていれば、次何かあったとき対応できるだろう。そう思い、僕は快く依頼を受けた。
「うっわー、ここが例の雷が落ちた場所か…。これは酷いな、こんなのにあたったら一溜りもないや」
木の幹は真っ二つに裂けていたり、木の根から上が全て燃えていたり。森の出入口では茂っていた雑草も、ここらでは焼け野原になっていた。
1日経って、雨でも洗い流されたと思っていたが、まだ火災臭が残っている。好きな匂いなわけではないため、吸い込まないように鼻を袖で覆った。
「…特に異変はなさそう。エネミーの気配も感じないし、ここらの作業は任せても大丈夫そうかな。よし!
早速依頼の女の子探しますか〜!」
グッと伸びをして、その場を後にする。
どうやら、その女の子は森で動物と遊ぶのが好きだったようだ。きっと心配で見に行ってしまったんだろう。
雷の影響や川の増水を考えると…こっち側には近寄れなかっただろう。反対側か、あるいは上流の方だ。
「そうだ、川の様子もついでに見とこ!」
もしかしたらなにかいい物が流れてきてるかもしれない。この川の上流は洞窟を通って流れるから、フローライトの原石が流れてきてるかも。
洞窟まで行くの大変だから行ってないけれど、あったらラッキーだな〜。
「…あれ、」
反対側の川岸に人が倒れている。もしかして、あの子が依頼の子?
僕は飛び石を使い反対岸へと渡る。傍に駆け寄り、声をかけた。
「君! 大丈夫!?」
息は……してる。けどか細い。川で流されたみたいだ。体も冷えているし、所々怪我をしている。
可愛らしい顔つきだが、体格をみるに女の子ではない。とりあえず早く連れて帰って暖めないと…!
僕は彼を背負い、走り出した。
「大丈夫、もう少しの辛抱だよ! 絶対助けてあげるから!」
♦︎
「と、大体はこんな感じかな! どう? なにか思い出せたかな」
…駄目だ、やっぱりなにも思い出せない…。そもそも、なんでぼくは川なんかで溺れてたんだ?
「…んー、駄目みたいだね。そうだ、もう熱は下がった? ちょっとおでこ触るね」
男性はぼくへ手を伸ばしてくる。
どうすればいいんだろう、この人の事信用していいのかな? 考えなきゃ、考えなきゃ…。
__ 俺や俺の仲間以外がお前に触れようとした時は、容赦なく''殺せ''。
…殺さないと。さっきも混乱しててつい話してしまった。なにが本当で、なにが正しいのかは分からないけれど、ぼくが持っている記憶はこれだけだ。
それなら、殺さなきゃ。なにか、なにか殺せそうなもの……!
辺りを見渡すと、机に置かれたティーポットに目が吸い込まれた。すぐ近くにあって、殺せそうなものはあれしかない。殺せなくても、逃げられればそれでいい。
手を伸ばしてそれをとる。彼は驚いたように目を丸くしていた。
殺さなきゃ、約束だから…!
ぼくはそれを、彼めがけて振り下ろした。
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スクロールお疲れ様でした!
episode.1、どうだったでしょうか?楽しめましたか?
挿絵も頑張りました、上手くかけてるといいな( ;ᵕ; )♡
それではまた次のお話をお楽しみに!