1 糸目の亡妻は天涯孤独の孤児院育ち
俺は酒場の店主。客もはけてきて、年の近そうな中年男が酒1杯でまだ居座っている。近くで殺人事件があったばかりというのに、よく酒なんか飲めるもんだ。
「はぁ……」
男は憂う気に写真見ている。なんだコイツ……はよう店じまいして帰りたい。そろそろ帰ってくれんか?
そんな黄昏れたワンシーンにこれまた似合いの赤いドレスのブロンド女が入って来る。
「あの、お写真もう一度見ても!?」
「あ、ああ」
「私の……生き別れた妹……かもしれませんわ」
感動の再会? こんな場末の酒場でやらないでくれ!
「信じていただけないかもしれませんが、病床の父から生前私には母譲りの黒髪の妹がいると聞かされていて」
「妻は天涯孤独で孤児院で育てられた。家族がいるかどうかは聞いていなかったが」
「妹の……そうでしたか! その指輪……素敵な赤ですね」
チラリと目視した男の指輪はルビー色で、婚約指輪のように石がでかい。結婚指輪は常につけても邪魔にならないようにシンプルなデザインのはずなんだがな?
「妻を想って体の一部、髪か眼の色で迷ったんだが……」
「妹の瞳を思い出しますわ」
「……なぜ妻が赤眼だと……貴女は病床の父親に聞いて知ったなら赤ん坊の頃の妹、妻のことを見ていないのではないか?」
キナ臭い雰囲気になってきた。
「ごめんなさい! 既婚者とは知らなくて。髪は黒だから指輪に使った色は赤じゃないかと思っただけで!」
「兵士には突き出さない」
「本当にごめんなさい……」
「こんな、嘘をついてまで近づく真似は二度としないほうがいい。妻が生きていれば笑っていられたが、こんな悲しい想いをするのは……耐えられん」
「お二人さん、悪いが店じまいだ……」
翌日、酒場には常連が訪れた。昨日の二人は来ていない。
「おーい、こんなの落ちてたぞ」
客が拾ったものを受け取る。
「写真?」
写真にうつる黒髪の女は、眼をとじている。写真に失敗したのか、糸目なのか、地味だ。
「そういや昨日、女が殺されたんだとよ!」
「金髪の美女だってさ……もったいねえ~」