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第8話

 翌日、窓から入って来た朝日の光で目を覚ました。


『んん…………朝か……ん?』


 ふと、横を見ると何故かミュラの両足があった。

 不思議に思い、下の方を見るとミュラの寝顔が見える。


『……すごい寝相の悪さだな』


 ミュラを回転させて元の位置に戻し、ベッドから降りた。

 そして暖炉に火を入れてから、まずは服の乾き具合を確認する。


『湿り気は無し。これなら着られるな』


 次に、床に置いてあった鍋を覗き込んだ。

 昨日の鍋の中に水を入れて、大豆を浸しておいた。

 硬くてほぼ真ん丸の状態だった乾燥豆は、水を吸って約2倍ほど膨らみ楕円形になっている。

 その大豆を1粒掴みちょっと指に力を入れてみた。

 硬かった大豆は、形が潰れそうなくらいに柔らかくなっている。


『よし、うまく戻っているな。よっと……』


 俺は鍋を持ち、沢へと向かった。

 顔を洗い、口の中に水を入れて何度もゆすいだ。


『ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……ガラガラガラ……ペッ。んー……全く綺麗になった気がしないが、何もしないよりはマシ……だよな?』


 昨日の夜は疲れていてすぐに寝てしまったが、せめてミュラには口をゆすがせるべきだったな。


 鍋の水を捨て、新しい水を入れ替えた。

 この豆の戻し汁に関しては人それぞれだ。

 水に栄養が溶け込んでいるから使う人、苦味や渋み等を取り除く為に替える人。

 ちなみに俺はそのまま使う派なんだが、今回は捨ててしまう。

 理由は簡単、蓋が出来ない状態で一晩置いてあったからホコリが中に入っている可能性があるからだ。


『よっ』


 入れ替えを済ませたのち鍋を持ち上げ、家へと戻った。




 家の中に入り、そのまま鍋をクッキングスタンドへ乗せた。

 後はこのまま大豆を煮て、出て来たアクをスプーンでとっていく。


「ふあ~……ゴブ~……おはよ~……」


 半開きの目で、フラフラとしながらミュラが起きて来た。


「おはよう」


「……なんか……マメのいいにおいがする~……じゅるり」


 起きて早々それかよ。


「まだ 完成 かかる。今のうち 顔 洗って来る」


「……うん、わかった~……」


 ミュラはフラフラと外へ出て行った。

 大丈夫かな……でも、このまま大豆を放っておくのも――。


「きゃああああああっ! ――あいたっ!!」


『っ!? ミュラっ!』


 ミュラの声に、俺は慌てて外へ出た。

 沢の方に向かうと、坂の一部に一直線状の氷の道が出来ており、その先にはお尻を擦っているミュラの姿があった。

 なるほど、すべり台の様に滑ったけど着地に失敗したわけか。


「ミュラ 大丈夫か?」


「あははは~だいじょぶだいじょぶ~……あてて」


 ミュラは苦笑いをしつつ、よろよろ立ち上がり沢の方へ向かった。

 見たところ、怪我はしていなさそうだ。


『まったく……』


 俺は胸をなでおろし、家の中へと戻った。



 アクを取り続けて約30分。

 大豆がふっくらとして柔らかくなったら大豆の水煮の完成だ。


『水煮しか作れないが悲しいな』


 調味料や他の食材を使って、もっと味のついた物を作りたい。

 が、今出来るのはこれで限界だから仕方ない。

 スプーンで大豆をすくい、器へと入れた。


「ほら、ミュラの 分」


「わ~い! あさごはんあさごはん~!」


 ミュラは器とスプーンを受けとり、椅子に座った。


「あ~ん……ハフハフ……もぐもぐ……ん~! ほくほくでおいし~、モグモグ……」


 とりあえず、ミュラは満足している様で良かった。


『それ 食べたら 港町 行く』


「モグモグ……ゴックン……。あのまちにいくの?」


『ああ 生活 必要な物 買う』


「なるほど、わかった! さっさとたべちゃうね!」


 ミュラは大豆を掻き込み始めた。


『……』


 本当は生活に必要な物を買いに行くわけじゃない。

 ミュラを…………あの港町に置いて行く為だ。

 あの大きさなら人も多く、ミュラをまける事が出来るだろう。

 そして、その後すぐに冒険者ギルドに行って、ミュラの事を知らせて保護してもらう。

 ミュラには酷な思いをさせてしまうが、これもミュラの為だ。


「ふぁふぇふぉふぁっふぁ!」


 もぐもぐと口を動かしながら、ミュラが立ち上がる。

 そこまで急がなくてもいいのに……。

 俺は乾いた服を手に取り、ミュラに見せた。


「好きな服 着る」


「すきなふく……? ん~…………ゴブがきめて」


「へっ? 俺が?」


「うん、どれがいいとおもう?」


 どれって、そういうのは自分で決めた方が良いと思うんだが。

 まあいいや、選べと言うなら選ぼう。


「この白シャツ どうだ?」


 こういう時は無難な白だ。


「じゃあそれにする~」


 ミュラは白のシャツを受けとると、ボロボロの服を脱ぎ始めた。


「ちょっちょっと 待つ!」


「? どうしたの?」


「着替え 奥の部屋!」


 いくら異世界でゴブリンの姿であっても、ちゃんと線引きはしないといけない。


「え? ここでいい――」


「奥の部屋!」


「む~……わかった」


 ミュラは頬を膨らませて奥の部屋へと入って行った。


『ふぅ……俺もさっさと服を着よう』


 出来る限り目立たないようにしたいから……この茶色のシャツでいいか。


「ゴブ、どうかな? にあ……」


 奥の部屋から白いシャツを着たミュラが出て来た。

 大人の男性用の服の為、ミュラが着るとワンピースの様になってしまっている。

 ミュラでこうなるという事は……。


「ぷっ! きゃはははは! ゴブ、おんなのこみたい!」


 同じくらいの背丈の俺も、当然ワンピースの様になってしまう訳だ。

 ゴブリンのワンピース姿って、見た目も精神的にもきつすぎる。

 いやいや、それよりも……これだと俺の肌の色が丸見えの方がまずい。


『どうにかしないと…………仕方ない、あれを着るしかないか』


 俺はタンスを開け、冬に使う黒いフード付きマントを取り出した。

 これは冬服だから使わないと思っていたのに、まさか着る羽目になるとはな。

 マントを羽織り、残った服で顔をスカーフの様に巻く。

 これで全身隠れたはずだ。


「肌 見えてないか?」


「ん~……めのまわりと、あしのさきがみえるね」


 そこを隠すのは無理だな。

 出来る限りフードを深く被って、足が見えない様に歩幅を狭くして歩く事を意識しよう。


「ねぇゴブ、そのかっこうあつくない?」


 すごく暑いし、すごく息苦しい。

 だが我慢するしかない。


「ゴブリンの姿 港町 入れない」


「あ~そっか。おいだされちゃうもんね」


 追い出されるどころか、その場で処分されてしまうわ。


「だから 俺の事 ゴブリン 言わない」  


「うん、ミュラぜったいいわないよ!」


 ミュラが自分の口を両手で押えた。

 命がかかっているから、本当に頼むぞ。


「じゃあ 行く」


「うん! おかいもの~! おかいもの~!」


 嬉しそうなミュラの顔。

 その顔を見て、俺は心身ともに苦しさを感じた。

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