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第78話

 夜……なんだか今日は、いつもより静かに感じる。


『……』


 俺は横にならず、布団の上で座っていた。

 そして、窓から夜空を見上げていた。


『……ふぅ』


 静寂の中、俺の吐息だけが部屋に響く。

 起きている理由はただ一つ。

 ヒヅキは帰らず、今日は食堂に泊まり、明日の朝出発する……。

 コヨミと姉妹なのだから不思議なことではない。

 けど……俺は確実に、あの話があると思っているからだ。


 そう思っていると、コンコンと、部屋の扉を叩く音がした。


「……入っていいっスか?」


 そして、コヨミの声がする。

 俺の予想は的中したな。


「いい」


 そう言うと、扉が静かに開いた。

 コヨミと、その後ろからヒヅキが部屋の中に入ってくる。


「寝ていませんでしたか?」


 ヒヅキの問いに、俺は首を振った。


「まだ」


 コヨミとヒヅキはお互いに目配せをして、2人同時に床へ腰を下ろした。


「少し、お話をよろしいでしょうか」


「ああ、問題 ない」


 俺はゆっくりと頷いた。


「もうわかっていると思うっスが、前話した王国の伝手はヒヅキの事っス」


 やっぱりな。


「後はヒヅキ、お願いっス」


「はい。えと、先に言っておきますが、任務上詳しいところまで話せません。ご理解を」


 それは当然だ。

 むしろ、それでも話してくれるのがありがたい。


「大丈夫。問題 ない」


「ありがとうございます。それでは……人身売買の組織ですが、王国はその存在を把握しています」


 ヒヅキの言葉に空気が、少しだけ重くなった気がした。

 コヨミもヒヅキの方をジッと見つめる。


「潰そうと動いてはいます。しかし、尻尾がつかめないのです」


「尻尾……」


「はい。組織の末端は捕まります。ですが、肝心の本体へ辿り着けないのです。どうしても、情報が途中で途切れるのです」


 なるほどな。

 所謂、トカゲの尻尾切り……使い捨ての駒ってところか。


「今回捕縛された者たちも、組織の詳細は知りませんでした。ただの運び役……その程度です」


「そう か……」


 となると、結局進展はないのか。


「……じゃあ、ミュラ 両親……行方は……」


 俺は肩を落とし、視線を床に向ける。


「ガッカリするのは、早いっスよ」


「っ」


 コヨミの言葉に、俺は視線を上げた。


「今まで捕まえた連中の証言には、ひとつ共通点があるみたいっスよ」


「……共通……点?」


「はい。それは生きたまま捕まえると、報酬が2倍近く上がり、死体だと報酬はなし……だそうです」


「どういう 意味?」


「奴隷は商品。商品として売るのだから、殺すな、雑に扱うな、出来るだけ傷をつけるな……もし傷をつけた場合、治せるようなら治療せよ……そういう指示があったらしいです。ほぼ全員が、そう証言をしているので信憑性は高いです」


「じゃ……じゃあ……」


「断言はできません。しかし……ミュラちゃんのご両親が、生きている可能性は、かなり高いと考えられます」


「――っ!」


 俺はヒヅキの言葉に、目頭が熱くなるのを感じた。


「現在、騎士団は売られた人々を救出するために、吐き出した情報を元に、各地を回って確認している最中なんです」


 なるほど。

 任務で港町の近くまで来た……そう言っていたな。

 任務内容はそれだったのか。


 ……ミュラの両親が生きている……か。

 これほど喜ばしいことはないぞ。


「……このこと ミュラに――」


「まだ言わない方がいいっス」


 俺の言葉を遮り、コヨミが即答する。


「え? なん で?」


「確かに喜ぶと思うっス。でも、まだ可能性っス……ぬか喜びになるのは……酷っスよ」


 コヨミの言葉に、ヒヅキも頷く。


「わたしも同意見です。生存の確証が取れてから、お伝えすべきでしょう」


 2人の言葉にミュラの笑顔が浮かぶ。

 そして、同時に大粒の涙を流して泣いている顔も……。


「……わかった」


「これは3人だけの秘密っスね」


 コヨミが人差し指を立てる。


「……必ず、見つけます」


「お願いっスね」


「頼む」


 俺たちの言葉に、ヒヅキは力強く頷いた。

 そして、コヨミとヒヅキが立ち上がった。


「それじゃあ、今日はもう寝るっスね」


「ああ、おや すみ」


 2人は静かに俺の部屋から出て行った。

 ……静寂。

 俺はまた窓から、夜空を眺めた。


『…………あっ』


 そのとき、ひとつの光が、夜空を横切った。

 流れ星だ。


『っ!』


 それを見た瞬間、俺は心の中で強く祈った。

 ミュラの両親が、生きていますように――と。




 翌朝。

 食堂の前で、ヒヅキは旅装を整えていた。


「……忘れ物は……無いっスか?」


 コヨミの問いかけに、ヒヅキは頷く。


「うん、大丈夫だよ」


 それを聞き、コヨミは少し寂しそうに笑いつつ口を開いた。


「そっスか……道中、気をつけるっスよ」


「うん、大丈夫」


「ヒヅキおねぇちゃん……」


 ミュラは、ヒヅキの前に立つと、両手をぎゅっと握った。


「またね」


 ヒヅキはその場にしゃがみ、ミュラと視線を合わせる。


「ええ。また会いましょう」


 ヒヅキが笑顔で答える。

 そして、一瞬だけ俺とコヨミを見た。


「よし、それじゃあ……行きますね」


 ヒヅキはそう言うと、立ち上がり歩き出す。


「またね~!」


 ミュラが大きな声を上げ、両手をぶんぶんと振った。

 ヒヅキは振り返らず、片手を高く上げてそれに応える。


 ヒヅキの姿が小さくなり、やがて角を曲がって見えなくなった。

 それでも、ミュラはしばらく手を振り続けるのだった。

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