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第72話

「はあああっ!!」


 コヨミが鋭い叫びと同時に、踏み込んでくる。


『――っ!』


 俺はとっさに、その場から横に跳んだ。

 受け身も取れず、ゴロゴロと床を転がってしまう。


 直後、背後でカコーンと薪が割れるような乾いた音が鳴り響く。

 音のした方を見ると、振り下ろされた剣が、床に突き刺さっていた。


『…………マジかよ』


 とっさに回避してなかったら、今頃俺の体は薪のように真っ二つになっていただろう……。

 そう思った瞬間、全身に鳥肌が立ってしまう。


「ゴブ! にげて!!」


 ミュラの叫びに、俺は跳ね起きた。


『くそっ!』


 逃げるったって、どこに逃げればいい。

 入り口は閉まっているし、2階に逃げるのなんて論外だ。

 裏庭も木の板の柵があって、俺の身長じゃ飛び越えられない。

 ……あれ、これって……積んだんじゃないか。


「待て!」


 背後から、コヨミが追いかけてくる。


『ひいいいい!』


 俺は食堂の中を走り回った。

 幸いにも、コヨミの動きはいつもより圧倒的に遅い。

 おそらく、鎧と剣の影響だろう。

 いつもの様に体術だったら、とっくに俺は死んでいる。


『ぬおっ! ひっ! うおっ!』


「この! この! この!」

 

 俺は必死に斬撃をかわした。

 身をひねったり、床を這いずりまわったり、とにかく生きようと逃げまくる。


『ひぃ! ひぃ! ひぃ……!』


 しかし、どんなにかわせても、俺の体力が問題だ。

 息も絶え絶え、足も限界に近づいてきているのがわかる。


「そこっ!」


 刃が肩をかすめ、服が裂ける。


『あっぶねっ……!』


 だが、止まって休憩なんてしていられない。

 そんな事をすれば……俺の頭と胴体がお別れすることになってしまう。


「ま、待て!  俺、ゴブ!」


 俺はコヨミに向かって声を上げながら、食堂内を逃げ回る。


「はあっ!」


 しかし、コヨミは止まる気配を見せず斬撃を繰り返す。


「コヨミおねぇちゃん! やめて!」


 ミュラも叫ぶが、その声も聴いてくれない。


「もうおおおおおお!」


 ミュラが走り出し、コヨミの前に立ちはだかる。


「だめっ! きっちゃだめ!」


 だが、コヨミはミュラを見ていなかった。

 その視線は、俺だけを捉え続けている。


「邪魔……しないでっ!」


 コヨミは低く、感情ない声でミュラに言い放つ。


「っ!」


 その圧に、ミュラが思わず一歩下がってしまう。

 コヨミはミュラをすり抜け、こちらに走ってくる。


 食堂は完全に戦場と化していた。

 倒れたテーブル、壊れた椅子、割れた皿。


『……っ、くっ……くそ……!』


 もはや体力の限界。

 一瞬足元がふらついてしまう。


「そこっ!」


 その隙に、剣が振り下ろされる。

 俺は間一髪で避け、床を転がり……頭を打った。


『あだっ! ……つー……あっ……まずい……』


 食堂の隅、俺は角に追い詰められていた。

 これではもはや逃げる事はできない。


「もう……逃げられません……」


 コヨミが剣を上段に構える。

 その瞳は、獲物を狙うハンターのようだった。


『――!』


 俺は死を覚悟し、ぎゅっと目を閉じる。

 その時――。


「やめてっ!!」


 ミュラが叫び、バンと両手を床に叩きつけた。

 それと同時に、床が一瞬で凍り付いていく。


「覚悟っ!」


 その氷は、踏み出したコヨミの足元まで伸び……。


「えっ……? あっ!? ハブッ!」


 コヨミの足が滑り、盛大にすっころんだ。

 マヌケな声と同時に、コヨミの手から剣がすっぽ抜ける。


『へっ?』


 直後、俺の顔の真横で、ズンッと凄まじい衝撃音が鳴った。


『……』


 俺は恐る恐る、横目で音のした方を見た。

 剣に映った、俺自身と目が合う。


『……』


 頬の真横……ほんの数センチの先に剣が突き刺さっていた。

 その数センチずれていれば、刺さったのは壁にではなく俺の頭だっただろう。


『……ああ……』


 それを想像して、今度は一気に血の気が引いていくのがわかった。


 その時……。

 がちゃりと音を立てて食堂の扉が開いた。


「ただいま~……っス!? なんっスか、これ!?」


 聞き慣れた声に、俺は反射的に扉の方に視線を向けた。

 そして、完全に凍りついた。


『……な……なな……?』


 そこに立っていたのは……驚いた顔をしたコヨミだった。

 普段着のコヨミだった。


『……え? ……え?』


 目の前で倒れているコヨミと、入り口の前で驚いているコヨミ。

 俺はその2人に、何度も視線を行き来させる。


『コヨミさんが……2……人いる……?』


「え? え? どういうこと? おねぇちゃんが……ふたり……?」


 ミュラもまた、2人のコヨミを交互に見て、きょろきょろと首を動かしていた。


「…………ああっ! そういう事か! もうっ!」


 入り口のコヨミが一瞬で状況を把握したらしい。

 叫ぶと同時に、コヨミが倒れているコヨミに向かって駆け出した。


「やめるっス、ヒヅキ!!」


 そして、鎧のコヨミを床に押さえつけた。


『ヒヅキ……?』


「むぎゅっ!? な、何!? ……って、姉さん!?」


 押さえられた方のコヨミが叫んだ。

 そして、そのまま抜け出そうと、じたばたと抵抗する。


『……姉さん?』


「離して! ゴブリンが! ゴブリンがそこに!」


「違うっス! 勘違いもいいとこっス!」


 押さえつけているコヨミが、俺の方を指さした。


「このゴブリンが! 話してた、ゴブくんっスよ!」


 その一言で、鎧のコヨミがぴたりと止まる。


「…………へ? 今……なんて……?」


「だから! 話していたゴブくんが、このゴブリンっス!」


「……この、醜い顔をしたゴブリンが……例の……?」


「そうっス!」


 おい、その一言は余計だし、肯定も余計だ。

 とはいえ……それを否定できないのが悲しい。


『……しかし、ヒヅキに姉さん……か。瓜二つで、このやり取りってことは……』


「……え? ……なに……? どういうこと? ぶんしんのまほう?」


 ミュラは、まだ理解が出来ず首をかしげるのだった。

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