第60話
『おっと、忘れてはいけない物があった』
米がなければ話にならない。
「すまない。2人 米 炊いて ほしい」
「米っスね、わかったっス」
「まかせて~」
ミュラとコヨミは米の実を手にし、炊く作業に入った。
それを確認し、俺も下ごしらえを始めた。
鶏もも肉を大きめの一口サイズ、3〜4センチ角に切る。
そして、鍋を1つ、先にかまどの上に置き火にかける。
その鍋の中に切った鶏もも肉を入れて、肉が浸るくらい水を注ぐ。
そこにベイリーフを1枚と、塩をひとつまみ入れる。
後は弱火でじっくり約30分ほど煮ていく。
アクをすくいつつ、煮ている間に別の作業だ。
まずは牛の肉を切っていく。
小さめの一口サイズ、2〜3センチ角。
豚の肉も同じサイズで切り揃える。
こちらは、無駄な脂身部分だけ落としておく。
肉の次は野菜だ。
玉ねぎ2個を、縦に薄くスライスする。
残りの玉ねぎ1個は、くし切りにして4〜6等分にしておく。
薄くスライスしたものは炒めてペースト状にし、くし切りは後で加える。
ニンジンは乱切りに。
大きすぎず、小さすぎず、噛んだとき歯応えが残るように切るのがコツだ。
ジャガイモは大きめの乱切りに。
ニンジンと同じくらいの大きさでもいいが……俺は、ジャガイモが大きくゴロゴロと入っている方が好みだったりする。
『……よし、材料は終わり。次だ』
かまどに鍋を置いて、油を大さじ2杯入れる。
そこに薄くスライスした玉ねぎ2個分を鍋に入れて、中火で混ぜながら炒める。
玉ねぎがしんなりして、透明感が出てきたら弱火に落とす。
更に混ぜて、玉ねぎの色が飴色になって形が崩れればペーストの完成。
んー……この玉ねぎの焼けた独特の甘い匂いがたまらん。
『そして、ここに牛と豚の肉を入れる』
中火に戻して牛と豚の肉を入れる。
すると、肉の焼けるいい匂いが一気に食堂に広がった。
「うわ~……いいにおいがして、おなかがすくよ~……じゅるり……」
「うんうん……ミュラちゃん、その気持ち……よくわかるっスよ」
2人がクンクンと匂いをかぎながらこちらを向いた。
まずい、玉ねぎと牛と豚の炒め物が2人に食われてしまう。
それじゃあ何の意味もない、俺が作っているのはカレーなんだからな。
「まだ 途中! だからな!」
念のために、俺は2人に向かって強めの声で威嚇をする。
「わかってるよ~」
「わかってるっスよ~」
同時に腑抜けた声での返事。
本当だろうな……心配だが、2人に注意しつつ次の作業へと入った。
肉が焼けたらくし切りにした玉ねぎを入れる。
ここで注意したいのは、この入れた分の玉ねぎは炒めすぎない事だ。
シャキシャキの食感を残した方がおいしいからな。
『……こんなもんかな?』
炒めた食材に、小麦粉大さじ2の量を加える。
弱火のまま、小麦粉の粉っぽさが完全に消えるまでとにかく混ぜる。
最初に炒めた玉ねぎが小麦粉となじみ、鍋の中身がもったりと重くなれば完成だ。
『……ふぅ……よし、スパイスを入れるか』
俺は瓶を一つずつ、手に取って鍋の中に入れていった。
クミン小さじ1……コリアンダー小さじ2……ターメリック小さじ1っと……。
カレーの基本3種で鍋の中が、一気に黄色く染まった。
『おお……この時点の見た目で、もうカレーって感じがするな』
「わあ……またいいにおいがするよ~」
ミュラが目をキラキラとさせ、鍋を覗き込んだ。
「わっきいろい! すごくおいそう! ねぇねぇ! このままたべても、いいんじゃない?」
「ウチもそう思うっス」
「はあ!? ええっ!?」
ミュラはともかく、コヨミまでそんなこと言うとは思いもしなかった。
そうやらカレー特有の香りで、2人の食欲が増してしまったか。
カレーの香り……恐るべし。
「まだ だ! 完成 まだ! ここから どんどん スパイス 入れる!」
そう、この状態はいわば家の土台部分。
それが出来たにすぎん。
メインの一軒家が建つのはこれからなんだからな。
『チリパウダー小さじ1……いや、小さじ2分の1がいいか』
俺は辛口派で、このくらいの量がおいしいと思っている。
しかし、ミュラは甘口にした方がいいだろうし、コヨミはどこまでの辛さがいけるのかわからない。
ここは無難に中辛くらいの辛さにしておいた方がいいだろう。
『ガーリック小さじ1……ジンジャー小さじ1……カルダモン、クローブ、シナモン、ナツメグはひとつまみ。フェネグリークだけ、気持ち多めにっと……』
パッパッとスパイスを入れた後、水を入れる為に鍋を持ち上げた。
すると、それを見ていたミュラがポツリと言った。
「なんか、こんなにいろいろいれると、りょうまちがえそうだね」
「――っ!」
ミュラの何気ない言葉に俺は固まってしまった。
量は大丈夫なはずなんだが、改めて言われると急に不安になってきた。
何せ、レシピは俺の頭にしかないからな。
「……」
「ゴブ?」
「ゴブくん? どうしたっスか? まさか……本当に……」
「そ、そんな わけ ない! 間違い してない! ……と、思う」
思う部分を小声かつ早口でいったのち、鍋の半分くらいの水の量を入れた。
そして、すぐさまかまどの上に戻した。
『慌てるな……大丈夫……間違っていない……大丈夫だ……安心しろ……大丈夫だから……』
ブツブツと必死に自分に言い聞かせた。
『ふぅ……よし』
水を入れた鍋に、おたま1杯分の鶏もも肉の煮汁を入れる。
これがブイヨンの代わりになって、味に旨味が足されるというわけだ。
そして、ニンジンとジャガイモを投入。
弱め中火でじっくりコトコト煮込む。
「「「ふわあ……」」」
カレーの煮込む匂いで俺たちは顔をほころばせた。
懐かしい……なんだこの実家にいるような安心感は。
『…………はっ! いかんいかん』
まだやることがあるのにすっかり腑抜けてしまっていた。
俺はおたまで鍋のカレーを半分、別の鍋へと分けた。
「へっ?」
それを見てコヨミが驚く。
「どうして分けるっスか?」
「こど……甘口 辛口 2つ する」
危ない危ない。
子供用と大人用って言ったら、ミュラが……。
「ミュラ、こどもじゃないもん! おねぇさんだもん!」
……ってギャーギャーと騒ぐところだった。
そうなると、意地になって辛い大人用しか食べないだろう。
せっかくのカレーなんだから、おいしく食べてもらわねば意味がない。
「どうして、あまいのとからいのにわけるの?」
「カレー 辛い。当然 辛い 苦手な 人 いる。だから 甘口。2人 初めて 味見して どっち 食べるか 決める」
「なるほど、それで2つってわけっスね」
「じゃあ、ミュラりょうほうたべる!」
果たしてミュラは辛口を食べられるのだろうか。
こど……甘口には、すりおろしたリンゴとハチミツを少し入れる。
そして、両方に煮た鶏もも肉をほぐしながら入れて、コーヒーに近い粉末をひとつまみ入れる。
最後に、塩とコショウで味を調えれば……。
「……カレー、完成 だ!」




