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第59話

 翌朝。

 俺達は食堂から外へと出た。


「……行く ぞ」


「うんっ」


「了解っス」


 向かうは朝市。

 最高のカレーを作るには、新鮮な野菜や肉を使わないとな。

 じゃないとカレーに失礼だ。


「きょうもひとがいっぱ~い」


 朝市はいつものように活気で溢れていた。


『……さて……いい食材に出会える事を祈らないとな』


 昨日作ったカレー粉の香りと味を思い出してしまう。

 あれに野菜、米、肉……すべて揃ったときに、俺の夢のカレーが完成する。


「まず 野菜 買う」


「野菜っスね。何を買うっスか?」


 玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ……これは必ず入れないとな。

 後はトマト、ナス、きのこ類、ほうれん草、ブロッコリー、オクラ……と色々とあるが……。


『うーん……』


 俺は腕を組んでしばらく悩んだ。

 そして……。


「玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ だ」


 俺は定番の3種類のみにする事にした。

 他の物を入れてもおいしいが、今日はシンプルにいこう。

 この世界で、最初に食べるカレーはその方が良い気がする。


「その3個でいいっスか?」


「ああ」


 俺達はいつもの八百屋へと向かった。



「おっ、3人とも、おはようさん」


 俺達の姿を見た八百屋のおばちゃんが挨拶してきてくれた。


「おはよ~」


「おばちゃん、おはようございますっス」


「おはよう ございます」


 俺は挨拶をそこそこに、並べられた玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモを一つ一つ手に取り、品定めを始めた。


『……これは形がいまいち……これは……ちょっと萎びてるな……こっちは……』


「…………な、なんだい? ゴブ君の様子が、いつもと違うような気がするんだけど……」


 俺の様子に八百屋のおばちゃんが眉をひそめてコヨミに質問をする。


「あ~…………ウチらも、何であんな風になったのかよくわからないっス」


「はあ?」


「あのね、あのね! かれーをつくるんだって!」


 ミュラの答えに、ますますおばちゃんの眉間のしわが濃くなっていく。


「かれー? なんだいそりゃ?」


「おいしいたべものみたい!」


「ふ~ん……おいしい食べ物ねぇ……」


「これ これ これ これ 買う」


 玉ねぎ3個、ニンジン1本、ジャガイモ2個、リンゴ1個を買い、次の店へと向かった。



 次は米だが……こっちの世界の米は、実の中に入っている種。

 どこをどう見ればおいしいのかわからないので、とりあえずコヨミにまかせて購入した。



 残りの肉。

 俺は肉屋の前に立つと、足を止めた。

 これも定番のにしたい……したいが……。


『豚、牛、鶏のどれかにしよう……』


 そう、カレーの定番の肉といえば豚、牛、鶏だ。

 俺は腕を組み、じっと肉を見つめた。


『うーん…………き、決められない……』


 豚、牛、鶏。

 どれを選んでもハズレは無いし、味わいも変わってくる。

 いつもカレーを作る時は、その時の気分で決めていた。

 そして今の気分はどれも食いたい。


『うーん……これはどうしたものか……』


「ゴブ、そんなになやんでどうしたの?」


 ミュラが俺の顔を覗き込んで来た。

 ああ、そうだ。

 こういう時は、人任せ作戦だ。


「ミュラ。どの 肉 いい?」


「え?」


 ミュラが俺の言葉にきょとんとした。


「豚、牛、鶏。どの 肉 食べたい?」


「ミュラがたべたいおにく? う~んと……」


 ミュラは少し悩み、満面の笑みで答えた。


「ぜんぶ!」


「…………はあ?」


 ミュラの声に、俺は思わず声が漏れ出た。


「だから、ぜんぶたべたい!」


「……3つ……だと……」


 俺は頭を抱えてしまった。

 牛と豚、豚と鶏、牛と鶏。

 2種類までなら味は十分整う。

 しかし3種類だと、それぞれが主張し合って喧嘩してしまう。


「えと ミュラ……2つに しないか?」


「ぜんぶがいい!」


 ミュラは満面の笑みで即否定した。


「あー……そうか……」


 俺はもう一度、並べられた肉を見つめた。

 まさか、余計に悩む状況になるとは思わなかった。

 どうするべきか、俺は必死に頭を回転させた。


 その時だった。

 ふと視界の端に、アイス屋が目に入った。

 その店は、アイスの上にチョコを振りかけていた。


『……あっ!』


 その時、いい方法を思いついた。


『……そうだ……全部、同じに扱う必要はないじゃないか』


 これなら3種類にしても問題ないぞ。


「わかった。全部 買おう。コヨミさん、豚、牛、鶏 買って くれるか?」


「その3種類っスね」


「やった~! ぜんぶだ~!」


 ミュラが喜びで飛び跳ねる。

 俺たちは肉を買い込み、

 これで必要な物は全部そろった。

 俺達は食堂へ戻った。



 俺は買って来た材料を厨房に並べ終えると、しばらくその光景を眺めた。

 野菜、肉、米。

 そして、スパイス。


『……全部 そろったな』


 これでカレーを作れるぞ。


「ねぇ~ゴブ」


「……? 何 だ?」


「このびんのなかって、なんなの?」


 ミュラが、クミンの瓶を指さす。


「クミン……ちょっと 苦くて 香ばしい。これ ないと、カレー 食べてる 感じ しない」


「ふ~ん……じゃあこれは?」


 今度はコリアンダーの瓶に指をさした。

 クミンの瓶を置き、小さな葉の入った瓶を見せる。


「コリアンダー……少し 甘い 味だ。全体 まとめる」


「ふんふん、じゃあ……」


「ちょっちょっと 待つ。説明 する から」


 これは聞かれる前に1個1個説明をしていった方が早そうだ。

 スパイスの入った瓶を1個ずつ手に取り、説明しながら並べ始めた。


「ターメリック……味 ほとんど ない。基本 色 つけるため。この 3種類が カレーの 元 なる」


 ターメリックの瓶を置き、次は赤い粉末の入った瓶を見せる。


「チリパウダー……唐辛子 だな。辛さ だす。カレー 辛い 食べ物」


 チリパウダーの瓶を置き、次に白っぽい粉末の入った瓶を見せる。


「ガーリック……ニンニク、カレーの味 はっきりする」


 ガーリックの瓶を置き、粒状の入った瓶を見せる。


「カルダモン……食べた あと、口の中 香り 残る。ちょっと 大人っぽい 味 なる」


 カルダモンの瓶を置き、少し色の濃い粉の入った瓶を見せる。


「フェネグリーク……苦い。が、入れると、コクが出て、味 締まる」


 フェネグリークの瓶を置き、枯れた木の枝を見せる。


「シナモン……ほんのり 甘く 感じる。辛さ 角 取れる」


 シナモンを置き、黒く小さな粒の入った瓶を見せる。


「クローブ……ピリッと 痺れる ような 辛味」


 クローブの瓶を置き、乾いた根の入った瓶を見せる。


「ジンジャー……これも 辛い、けど 唐辛子粉より 辛さ 残らない」


 ジンジャーの瓶を置き、最後に乾燥した葉を1枚だけ端に置いた。


「ベイリーフ……料理全体 風味を ぐっと 引き立てる」


「「……」」


 俺の説明が終わった後、厨房は一瞬静けさに包まれた。

 ミュラとコヨミは目を丸くしたまま、その列を見つめていた。


「え~と……あの……ゴブくん……こんなに味がバラバラなのを混ぜて、本当においしいっスか……?」


 コヨミが困った表情をしつつ、首をひねった。

 完全に半信半疑って感じだ。


「……なる。絶対 に」


 その半信半疑、吹き飛ばしてやる。


「……ふぅ……よしっ!」


 俺は深く息を吸い、包丁を強く握った。

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