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第58話

 港街を、俺は早足で歩いていた。

 ミュラとコヨミも速足で俺の後について来る。


「ゴブ~……あるくの、はやいよ~……」


「……」


 俺は無言のまま、ひたすら歩く。


「む~……ん? ……いいにおいがする~……」


 ミュラが匂いに釣られ、串焼き屋の方へフラフラと吸い寄せられていく。


「ねぇゴブ。これ、かってもいい?」


「駄目! そんな 暇 ない!」


「ひっ……!」


 俺の声にミュラがビクリと肩を震わせ、ササッとコヨミの背後に隠れた。


「ゴ、ゴブ……なんか……こわい……」


 それを見たコヨミが、怖がっているミュラの頭を優しく撫でた。


「よしよし……えと、ゴブくん? そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないっスか」


「え? あ……す、すま ない」


 いけない、いけない。

 アレが作れるかもと思うと、つい気持ちが高ぶってしまって声に出てしまっていた。

 流石に今のは俺が駄目だよな。


「わかった……買って 行こう……」


「……うん……」


 俺は平謝りしつつ串焼きを買い、少し歩く速度を落として再び歩き始めた。



 通りの端に建っている、香辛料店の前で俺達は立ち止まった。

 店先には小さな樽が多数積み上がり、乾燥した葉や植物の根が並んでいる。

 店内に入ると、様々なスパイスの入った小瓶が棚に並び、スパイスのいい匂いがしていた。


「いらっしゃい……お、コヨミちゃんと子供達じゃないか」


 座っていた男性の年老いた店主が、低い声で話しかけて来た。


「今日は何を買いに来たんだい?」


「さあ~? ウチもよくわからないっス」


「……はっ?」


 コヨミの曖昧な答えに、店主が眉をひそめた。


「お爺さん スパイス 味見 して いい?」


 俺が質問すると、店主が頷く。


「ああ、いいよ」


「あり がとう!」


 俺は棚に並ぶ瓶を1つずつ手に取って、中身の確認をし始めた。


『……この香りは……違うな…………これは……味が違う…………こっちは……これだと味が強すぎる……なら、これは……』


「……なんか、ゴブ……すごいしんけん……」


「ここまで集中してるゴブくん、初めて見たっス……」


 俺は2人に反応する余裕もなく、黙々と確認作業を進めた。



「……これ これ これ 買う」


「わかったっス。にしても多いっスね……」


 必要な瓶を3種類選び、コヨミに手渡した。

 コヨミは代金を払い、俺達は香辛料店を出た。


「必要な物は買えた様っスね。それじゃあ食堂に……」


「まだ 必要」


「「えっ?」」


 俺の言葉に2人が固まる。


「次 別の 香辛料店 行く」


 ここでは、俺の欲しい物が揃わなかった。

 しかし、香辛料店はまだ他にもある。

 それでも見つからなかったら、薬草屋に置いてある物も確かめるまでだ。


「別のって……いやいや! これだけあれば十分じゃないっスか! そもそも3種類も混ぜると味がめちゃくちゃになっちゃうっス!」


「ミュラ、おいしくないのはたべたくないよ!」


「問題 ない。おいしく なる!」


「「……」」


 2人の不安そうな顔を無視して、俺は次の香辛料店へ向かった。

 確かに混ぜ方によってはめちゃくちゃになってしまう。

 だが、俺はそんな失敗はしない……いや、してはいけないんだ。



「いらっしゃいませ。お探しの物は……?」


「味見 して いい?」


「え? ええ、構いませんよ」


 若い女店主との会話を簡単に済ませ、俺は棚に一直線に向かい、乾燥粉末や葉を手に取って確認し始めた。


『……これは違う…………これは……香りが弱いな……こっちは……んー……』


「ゴブが…………ゴブじゃないみたい……」


「わかるっス……別人みたいっス……」


 2人が小声で何やら話しているが、今の俺には関わっている暇はない。

 目の前にある香辛料に集中するのみだ。



 結局、その店では目当ての物は見つからず……。

 その後は3店舗の香辛料店を周り、2件の薬草屋にも足を運んだ。

 流石に薬草屋に行った時はコヨミに怒られたが……何とか目的の物を見つけて、俺達は食堂へと戻った。




「さあ 始める!」


 食堂に戻るなり、俺は袋をテーブルに置き、中身をテーブルの上に置き始めた。

 買った物はカルダモン、ガーリック、ジンジャー、ナツメグ、フェネグリーク、クローブ、ベイリーフだ。


「ゴブ……またやるの?」


「……ああ。ここから……本命」


 まず必要な物は基本となる3種のクミン、コリアンダー、ターメリック。

 これらを乳鉢の中に入れて、すりこぎ棒で混ぜてベースを完成させる。

 次に塩、コショウ、チリパウダー……唐辛子粉だな。

 そしてシナモン。

 後は、買って来た香辛料を慎重に加えて混ぜれば……。


『っ!』


 乳鉢から、懐かしい香りが漂って来た。

 その瞬間、俺の全身に鳥肌が立ってしまう。


「……出来た……」


 俺は指先に粉をつけ、そっと舐める。


『――っ!!』


 そう、これ……これだ。

 俺の求めていた味だ。


「……明日……作る……ぞ」


「ん? なんていったの、ゴブ?」


「何か……作るって言ったっスか?」


 2人が首をかしげる。


「明日っ!」


 俺は拳を握りしめ、勢いよく叫んだ。


「カレー 作る!」


「かれー?」


「カレーって……なんっスか?」


 ミュラとコヨミが同時に首をかしげた。


「……ふっふふ……明日 わかる。楽しみ してて いい!」


「「ええ……」」


 ミュラとコヨミは不安そうな顔つきで、お互いを見つめ合う。


『……ついに……明日……食べられるんだな……カレーをっ!』


「……やっぱり今日のゴブくん、なんか変っス……」


「うん……でも……なんか……うれしそう……」


『絶対に……絶対に成功させるぞ……!』


 俺は拳と決意を強く固めるのだった。

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