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第57話

 食堂の定休日の昼下がり。

 薄暗い食料保存庫の中、俺は今日も薬草の棚を漁っていた。


『……ふむ。この味はコーヒーに近いな……コーヒーか、この世界に来てから飲んでないなー』


 そんな事をぼやきつつ、乾燥した花びらの詰まった瓶を元の位置に戻す。


『次は……あれを味見してみるか』


 ひまわりの様な種の入った瓶を手に取り、一粒を指でつまみ口に放り込む。


『カリカリ…………ん? この味っ……もしかして……!』


 俺は確信を得るために、もう一粒つまみ口に入れた。


『カリカリ…………やっぱり! 間違いなくアレだ! となればっ!』


 俺は急いで棚から別の瓶を手に取った。

 乾燥して砕いた葉、細く切った根、それに種の入った瓶を持って大急ぎで食料保存庫を飛び出した。


「コヨミさん! コヨミさん いる!?」


 扉を開けると同時に大声を上げた。

 すると、テーブルで帳簿を書いていたコヨミの肩がビクリと跳ねる。


「わっ! び、びっくりしたっス! な、なんっスか!? 何かあったんっスか?」


 俺はコヨミに向かって走っていき、瓶をテーブルの上に置いた。

 コヨミはきょとんと瓶を見つめる。


「この 3種類 混ぜて 問題 ないか?」


「へ?」


 俺の質問にコヨミが目をぱちくりさせる。


「この 3種類 混ぜて 問題 ないか!?」


 これはかなり重要な事だ。

 薬草でも混ぜ方によっては毒になる可能性があるからな。


「こ、この3種類をっスか……? え~と…………うん、何も問題ないっスよ」


 よし、ならいけるぞ。


「じゃあ 乳鉢! 乳鉢 貸して ほしい!」


「へっ?」


 俺の言葉にまたコヨミが目をぱちくりさせる。


「だから 乳鉢 貸して ほしい!」


「にゅ、乳鉢をっスか? い、いいっスけど……何を作るつもりなんっスか? これらを混ぜても、特に効能のある薬にはならないっスよ?」


 それは問題ない。

 俺が作りたいのは薬じゃないからな。


「それは いい。とにかく 混ぜたい」


「わ、わかったっス……ちょっと待っててほしいっス」


 コヨミは立ち上がり、2階へと上がっていた。

 と同時に、ミュラが眠そうに目をこすりながら階段からおりて来た。


「ふあ~……どうしたの~? ゴブ……おおきなこえ、だして……」


 昼寝をしていたミュラを起こしてしまったようだ。

 そんなに大きな声を上げてしまっていたのか。


「す、すま ない。起こ して……」


「ううん~……べつにいいよ~……で、どうかしたの?」


「ああ、俺の 世界の 料理 1つ 作れる かもしれない」


「……えっ!? それほんと!?」


 俺の言葉にミュラの眠気が一瞬で吹き飛んだようだった。

 細かった目が見開き、キラキラと輝いている。


「はやく! はやくつくって!」


 ミュラが小走りで俺との距離を縮めて来た。


「はやくはやく!」


「ま、待て。かも だ! かも!」


 そんなやり取りをしていると、乳鉢を持ったコヨミが2階からおりて来た。


「これで、いいっスか?」


「あ、ありがとう!」


 俺はコヨミから乳鉢を受け取り椅子に座る。

 そして、3種の瓶の蓋を取り、材料を乳鉢の中に入れて、すりこぎ棒を握りしめた。


「よし、いくっ」


 ゴリッ、ゴリッと音を立てながら3種類の材料を混ぜていく。


『……もっと細かく……もっと……』


 すりこぎを握る手に力が入り、すり潰された粉が徐々に滑らかさを帯びはじめた。

 やがて、乳鉢の底が鮮やかな黄色の粉で染まった。


「――よしっ、出来た」


 さあ、俺の思い描いていた物ができただろうか。

 恐る恐るひとさし指に粉をつけ、ペロリと舐めた。


『――っ!!』


 粉が舌に乗った瞬間、全身に電気が走ったような衝撃を受けた。


『……こ、これだ…………これだああああああああああああ!!』


 食堂が揺れるかと思うほどの大きな声をあげてしまう。


「ひっ!」


 その声にミュラは飛び上がり……。


「な、なんっスか!?」


 コヨミは後ずさった。


「ど、どうしたっスか……? そんな……大声をあげて……」


「――はっ! す、すま ない……」


 いやはや、この世界に来て一番テンションが上がってしまった。

 恥ずかしいところを2人に見せてしまったな。


「えと、そのこながゴブのせかいのりょうりなの? それ、さけぶほどおいしいものなの?」


 ミュラが乳鉢に指をさし、首をかしげる。


「……あ……いや、ただ 興奮 しただけ……この状態 まだ完成 じゃない」


 そう、完成はしていない。

 基本が出来ただけ……俺が求めてるもの、作りたいアレには程遠い。

 ある意味、ここからが本番になる。


「かんせいしていないのに、よろこんでたの? ん~? よくわかんない……」


「えと……それは……まあ、楽しみ してる」


「ぶ~! なにそれ! ミュラもそれたべたい!」


「駄目! 完成 してから!」


 今ここでこれを味見すると、勿体ない気がするんだよな。

 どうせなら完全な完成品を2人に食べてもらいたい。


「……材料 足りない。買い 行く。必要なもの 全部 そろえる」


「今からっスか? ウチにある物じゃ無理なんっスか?」


 コヨミの質問に、俺は頷いた。


「ああ。要るもの 数種類 ある。ここに 無いも ある」


 食堂の食料保存庫にあるのは薬草メイン。

 俺が求めているのは調味料関係だから、どうしても足りない。


「ねぇざいりょうそろったら、ほんとうにおいしいものができるの?」


「ああ……期待 していい」


「やったあああ! たのしみ~! じゅるり」


 ミュラの喜びっぷりに、コヨミが苦笑する。


「……はぁ。結局何を作るかはわからないっスけど、買い物に付き合えばいいっスね」


「助かる」


「じゃあ準備してくるっス」


 コヨミはミュラを連れて、街へ向かう準備を整えるために2階へとのぼっていった。


『ふぅ……ぐふふ……楽しみだ……』


 俺の好物で、この世界では食べられないと思っていた料理だ。

 まさに夢の食べ物……。

 しかし、その夢の食べ物が今、ここで実現しようとしている。

 絶対に成功させてみせる。

 絶対に……な。

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