表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第7章 3人のピクニック
55/66

第55話

「じゅんび、かんりょ~!」


 ミュラが満面の笑みで、布で包んだお弁当をぎゅっと胸の前で抱えた。

 淡い青色のワンピースのスカートがふわりと揺れ、結んだハーフツインも跳ねるように動いた。


「ミュラちゃん、そんなに力をこめると駄目っスよ」


 コヨミはというと、いつもの三つ編みのお団子ヘアを解いて、髪を下ろしていた。

 長い栗色の髪が肩をつたって流れ、いつもの活発な雰囲気とはまた違う落ち着いた感じに見える。

 ロングスカートも相まって、どこかのお嬢様みたいだ。


『……』


 そして、俺はフードを深めに被って、スカーフで顔を隠すいつもの格好だ。

 息苦しいから、これなしで外を歩きたいものだ。



 3人で食堂から外へ出ると、雲一つない晴天だった。

 ピクニック日和って奴だな……夕立さえ来なければの話だけど。


「鍵よし……さて、行くっスよ」


 コヨミが大き目の皮のバッグを肩にかけ、にこりと笑う。


「は~い!」


 ミュラは元気いっぱい返事をし、お弁当を持ちながらスキップを始めた。


「ちょっ! ちょっと待つっス」


「?」


 コヨミに止められ、ミュラが不思議そうな顔をする。


「ミュラちゃん、お弁当はウチが預かるっスよ」


「え~……ミュラが、もちたい」


「いや スキップ 危ない。中身 こぼれる」


「だいじょうぶ! ぜったいにゆらさないから!」


 あ、これ頑固モードに入ったな。

 俺とコヨミがお互いの顔を見る。

 どうやら、同じ事を思ったらしい。


「はあ……わかったっス。けど、港町から出たら預かるっスからね。ミュラちゃんが持ったままだと、走れないっスから」


「む~……わかった……」


 そう言ってミュラが再び歩きだす。

 が、今にもスキップをしそうなくらい足取りが軽い。

 本当にわかってくれたのだろうか。



 そんな不安もありつつ、俺達は無事に港町から出た。


「ミュラ、お弁当 渡す」


「うう……くっ! このこたちを……よろしく……」


 ミュラは悲しそうな顔をしつつ、プルプル震えながらコヨミに渡した。

 なんで、そんな今生の別れみたいな事をしているんだ、こいつは。


「はいはい、任せるっスよ」


 コヨミはお弁当を丁寧にカバンの中へ入れ、その流れで俺とミュラを両脇に抱えた。


「……なぁ……背中 乗る 駄目か?」


 なんか、荷物みたいな感じで嫌なんだよな。


「流石に2人を背負って、走れないっスよ……」


「そう……だよな……」


 諦めるしかない様だ。


「おねぇちゃん……ぜったいに、ぜ~ったいにはやくはしらないでね」


 コヨミに念押しをするミュラ。

 コヨミの服を力強く握っている所を見るに、本当にトラウマになっているのだろう。


「大丈夫っスよ。じゃ、行くっス!」


 次の瞬間、コヨミの脚が地面を蹴った。


 目の前の景色がどんどんと流れていく。

 コヨミの走る速度は、原付バイクが出すくらいの速さだろうか。

 俺とミュラを脇に担いで走っているのにもかかわらず、このスピード。

 そして、揺れをほぼ感じない上半身の安定感……さすが獣人といったところだな。


「きゃっ、きゃっ、きゃ~!」


 先ほどの不安そうなミュラはどこへやら。

 このくらいの速度だと、問題ないのか大喜びしていた。


「ミュラちゃん、楽しいっスか?」


「うん! このまえとぜんぜんちがって、じめんをはしってるからこわくないよ!」


 地面を走っているから怖くない……。

 その言葉だけで、あの時はとんでもないところを走っていたのがよくわかる。


「近道をした上に、急いでたっスからね~」


「きのえだをわたっていくのは……ちかみちと、おもえないよ……」


 その時を思い出したのか、ミュラの顔が青ざめる。


「いやいや。幹を避けるより、枝を渡っていく方が直進になるっス。だから近道っスよ」


 そんなミュラを知ってか知らずか、コヨミがケラケラと笑った。

 つくづく、その時に俺がいなくて良かった。



 潮の香りがだんだん薄れ、草の香りが強くなる。

 森を抜け、川を越え、ちょっとした山を登ってもコヨミのペースはまるで乱れない。


「コヨミさん……疲れ ない?」


「全然っス! なんなら、もっと速くてもいけるっスよ?」


「いや……いい……」


 それで、木の枝を渡りだしたら困る。


「――あっ!」


 ミュラが声をあげ、手を伸ばした。

 そして、空中に舞う何かをパシっと受け止める。


「どう した?」


「……おはなだ」


 ミュラの手のひらには赤い花びらがあった。

 コヨミはその花びらを見て、小さく笑った。


「その花びらが流れて来たって事は……そろそろ着くっスよ!」


 走る速度がわずかに上がり、数分もたたぬうちにちょっとした丘のふもとでぴたりと止まった。


「到着っス」


「このうえ?」


 ミュラの問い掛けに、コヨミが頷く。


「そう、この上っス」


 コヨミが、俺とミュラを地面に下ろした。

 その瞬間、ミュラは弾かれたように丘へ走り出した。


「わあああああああい!」


「お、おい! 走る な!」


「ミュラちゃん、危ないっスよ~」


 俺とコヨミも慌てて後を追う。



 丘の上に着いたミュラが、両手を広げて叫んだ。


「すごおおおおおおおおい!!」


「はぁ……はぁ……ミュ、ミュラ……少し……は…………」


 俺も丘に着いた瞬間、言葉を失った。

 丘の向こうに広がる花畑は、赤、青、緑、黄、桃色……と様々な色が層をなして、まるで虹の様だった。

 風が吹くたび、花びらが舞い上がり、その花びらがふわりふわりと落ちてくる。


「今年はまた見事っスね……」


 コヨミが見惚れたように言う。


「……これ、すごい」


「うん! うん! きれ~い!」


 ミュラはその場でくるくる回り、コヨミはその様子に笑みを浮かべた。


「ふふ……さっ、準備するっスよ」


 コヨミがバッグを下ろし、折りたたまれた布を取りだした。


「あっミュラがひろげる~!」


 ミュラが布を受け取り、ぱさっと広げた。

 が、ミュラだけでは広げきれず、結局3人がかりで布を広げた。

 布の端に石を置き、風で飛ばされないように固定すれば……これで場所の準備は整った。


 布の上に座り、腰を下ろした。


「よし、主役の登場っス」


 コヨミがバッグの中からお弁当を取りだし、そっと布の中央に置いた。

 そして、包んでいる布を解き始める。


「はやく! はやく!」


 ミュラが興奮気味に急かす。


「お弁当は逃げないっスよ……よっと」


 包みが解かれ、お弁当箱が顔を出す。


「ねぇねぇ! ミュラが開けていい? いい!?」


 俺とコヨミは同時に頷いた。


「きゃは!」


 それを見たミュラがお弁当の蓋に手をかける。


「……じゃあ、あけるねっ! ばあああん!」


 掛け声と同時に、ミュラが蓋を開けた。

 その瞬間、食べ物のいい匂いが俺達を包んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ