第54話
俺は米の炊けた鍋を手に持ち、テーブルへと持って行った。
その後をミュラとコヨミが追いかけてきて、近寄ってくる。
「開ける」
鍋の蓋を開けると、湯気とともに白い米が姿を見せた。
「うわ~! きょうも、おいしそう~!」
米を見たミュラが目を輝かせる。
スプーンで無理やりご飯全体を、まんべんなく返してやれば準備完了。
「よし、じゃあ おにぎり 作る」
「わ~! おにぎりおにぎり!」
ミュラが、その場でぴょんぴょんと跳ねる。
「ミュラちゃん、落ちつくっスよ」
コヨミはそんなミュラの肩を掴んで止めた。
「じゃあ 具材 作る」
昨日ゆでておいたエビとチキンをそれぞれ器へと入れる。
そして、マヨネーズを……。
「わあああああああ! マヨネーズだああああ!」
マヨネーズを取り出した瞬間、今度はコヨミがその場でぴょんぴょんと跳ねた。
「…………おねぇちゃん、おちつくっす」
「――はっ! ご、ごめんっス……」
ミュラの冷静な声に、コヨミが恥ずかしそうに顔を伏せた。
本当にマヨネーズとなるとテンションが上がるな。
そんなコヨミを横目に、マヨネーズ適量を加えて混ぜる。
これでエビマヨとチキンマヨの完成だ。
「じゃあ 握る」
「……にぎる……」
「……で、どうやってっスか?」
ミュラとコヨミが同時に首をかしげる。
ああ、そうか。
2人が握り方を知るわけもないか。
「やる。見てる」
俺は手を水で濡らし、塩を少量掴んで手になじませた。
そして、炊けたばかりのご飯を手のひらいっぱいに取った。
「あつっ! あっつ!」
炊き立てのご飯は相当熱い。
だが、おにぎりは熱いうちに握るのが鉄則だ。
熱さを我慢しつつ、強くも弱くもない絶妙な力加減で三角形のおにぎりを1個作った。
「こう する」
2人に出来上がりを見せると、小さく拍手をした。
「すごいすごい! さんかくだ!」
「なるほど……その形にするっスね。よし、ミュラちゃん! ウチらもやってみるっス!」
「うん!」
2人は手を水で濡らし、塩を少量掴んで手になじませた。
そして、ご飯を手に取った。
「あつつつ!」
「よっほっ!」
2人は慣れない手つきで、必死にご飯を握った。
そして、出来たのは以下のモノだ。
ミュラ作、手の大きさの都合上おにぎりが小さく、今にも崩れてしまいそう歪な形のおにぎり。
コヨミ作、大きさはいいが、力を入れ過ぎた様で、ガッチガチにご飯が固められた三角のおにぎり。
「「「……」」」
ミュラとコヨミは、無言で自分の作ったおにぎりを見つめていた。
流石に2人とも、これは失敗作だと思っているのが表情でよくわかる。
「えと……2人 そぼろ ご飯に 混ぜて……」
「「……はい……」」
俺がそう言うと、ミュラとコヨミは何も言い返せずご飯とそぼろを混ぜ始めた。
作業している2人の背中には哀愁が漂っていた。
『……さっさと握ってしまおう』
まず普通に握って塩おむすび。
次はエビマヨを中心に入れたエビマヨおにぎり。
そしてチキンマヨを中心に入れたチキンマヨおにぎり。
「ゴブ~、これでいい~?」
ミュラの声に顔を向けると、ご飯とそぼろが良い具合に混ざっていた。
「ああ、ありがとう」
混ざった器を受け取り、握る。
これで、そぼろおにぎりの出来上がり。
『……んー』
俺は握ったそぼろおにぎりをジッと見つめた。
「? ゴブ、どうしたの? これだめだった?」
「いや……駄目 じゃない が……」
そぼろだけだと、なんか見た目が物足りないな。
あ、そうだ。そぼろと言えば……。
「ちょっと 待つ」
「?」
俺は急いで厨房へと向かった。
そして、卵1個を器に割り入れて溶き、油を引いたフライパンへと流し込んだ。
弱火でゆっくりかき混ぜて、卵そぼろの完成。
卵そぼろを器に移し、2人のところに持って行った。
「すまない。これを 混ぜて」
そぼろの混ざったご飯を半分に分け器に移し、卵そぼろと一緒にコヨミに手渡した。
「これをっスね。わかったっス」
コヨミは卵そぼろを器に入れ、混ぜる。
「わ~! なんか、はなやかになった!」
「2色そぼろ だ」
やはり、黄色が入るとまた違うな。
「よし、出来た」
塩おにぎり。
そぼろおにぎり。
2色そぼろおにぎり。
エビマヨおにぎり。
チキンマヨおにぎり。
どれもこれも、単品で食べても抜群にうまいだろう。
「わあああ! ねぇねぇ! おにぎり、たべていい!?」
良い訳あるか。
「それは 駄目。ピクニック 楽しみ なくなる」
「え~……」
ミュラはしょんぼりと肩を落とした。
「だとすれば、さっさとお弁当に詰めてピクニックに行くっスよ!」
コヨミは2個の木製のお弁当箱をテーブルの上に置いた。
大きさも十分、1個はおにぎり専用、もう1個はおかず専用にすればいいな。
「じゃあ 詰め よう」
「は~い!」
「了解っス」
卵焼き、唐揚げ、ミニハンバーグ、タコさんウインナー、ポテトサラダ、いろんな種類のおにぎり。
お弁当箱の中がどんどんとにぎやかになっていく。
「ここに、たこさんをおくとかわいい……いや、こっちのほうがいいかな……ん~……でも……」
ミュラはブツブツと言いつつ、配置で謎のこだわりを見せた。
まぁ色どりは大事だが、そこまでこだわらなくてもいい様な気がするが……。
最後のおにぎりも詰め、お弁当作りも無事に終わった。
「よし。 これで 完――」
「ちょっとまった!」
――成と言いかけた時、ミュラが大きな声を上げて待ったをかけた。
「ど、どう したんだ?」
いつもなら、わ~と騒ぎ立てるはずなのに。
どうして止めるんだ。
「――っ!」
ミュラはポケットから、しわくちゃになった紙とペンを取り出した。
そして、テーブルの上に置いて紙を伸ばした。
その紙にはミュラ文字が書かれていた。
「たまごやき……よ~し! からあげ……よ~し! ハンバーグ……よ~し!」
そして、ミュラは指をさしながら、紙に書かれた文字を線で消していく。
そうか、全部そろっているかチェックしているのか。
ある意味すごい執念だな。
「…………おにぎり……よしっ! これで、ぜんぶ!」
全ての文字を消したミュラが両腕を高らかにあげた。
「おべんとう! かん! せい!」
「わ~!」
それに合わせて、コヨミが歓声をあげながらパチパチと手を叩いた。
俺も合わせて手を叩く。
「おべんとう、いいかんじだね~」
「そうっスね」
「……ああ」
俺達3人は、しばらく弁当箱を見つめた。
そして、コヨミがパンと手を叩く。
「さて、出かける準備をするっスよ!」
「うんっ!」
「ああ」
コヨミの号令に、俺達は出かける支度へと移った。
俺は中身がこぼれないよう、しっかり布でお弁当を包んだ。




