第53話
「よし……卵焼き いく」
俺はフライパンをかまどの上に置き、器と卵を手に取った。
「たまごやき! どんなのかな~?」
「期待っスね」
ミュラとコヨミが俺を期待の眼差しで見つめて来る。
やめてくれ……卵焼きは本来、長方形の小さいフライパンで作る。
しかし、ここにあるのはよくある丸いフライパンのみ。
この丸いので作ったことが無いから、うまく出来るかわからないんだ。
俺は卵を2個割り入れ、砂糖小さじ2、塩ひとつまみ入れてかき混ぜた。
そして、出来た卵液を油を引いた丸いフライパンへと流し込んだ。
「おお……なんか、いいにおい……」
「……まさか、そのまま完成って事は……無いっスよね?」
そんなわけが無い。
この状態だと、オムライスに乗せる卵になってしまうだけだ。
「まだ だ……半熟 なったら……こう して……」
無理やり端に寄せて無理やり一巻きして、芯を作る。
そうしたら、その横にまた卵液を流して、芯の下にも入る様に軽く芯を持ち上げてフライパンを傾ける。
卵が固まって来たら、芯の方から巻いていって、さっきの寄せた位置まで戻す。
それを卵液が無くなるまで繰り返せば……。
「……完 成」
形は歪になったが、厚みは十分ある。
まぁこの世界では卵焼きは知られないみたいだし、形はどうでもいいか。
「おお! なんかたまごのぼうができたよ!」
「確かに、目玉焼きとは全然違うっス」
俺は卵焼きをまな板の上に乗せ、包丁で一口サイズに切り分けた。
「味見 する。2人も 食べる?」
「いいの!? たべるたべる!」
「ウチも貰うっス」
特に歪な部分の端を切り分け、ミュラとコヨミがそれぞれつまんで口へと入れた。
そして、俺も同様に口へと入れた。
……うん、卵と砂糖の甘さがしっかり出ていて、おいしい。
この味も懐かしいな。
「もぐもぐ……んっ! あまい! けど、おかしとまたちがう!」
「……本当っスね。これはこれで美味しいっス」
2人の反応もいい感じ。
よし、それじゃあ次はしょっぱい方を作るか。
フライパンを洗い、もう一度かまどの上に乗せた。
卵を2個割り入れ、昨日作っておいたあごだしを小さじ1、塩を小さじ4分の3を入れてかき混ぜた。
そして、先ほどと同じ様にして巻いて行けば……。
「……しょっぱい 完成」
「ゴブ~......もちろん、それも……?」
ミュラのあの目、まるで獲物を狙う獣のようだ。
「ああ もちろん」
卵焼きをまな板の上に乗せ、包丁で切った。
そして、2人に渡すためにまた端の部分を切り分けた。
......うん、卵にだしのうま味と塩気がマッチして、卵本来の甘みがほんのり感じられる。
甘い方とはまた違う旨さだ。
「もぐもぐ……うわ~……こっちは、かんぜんにおかずみたい~!」
「……そうっスね。ウチはこっちのほうが好みっスよ」
これでおかずの一品目、卵焼きの完成だ。
「次 唐揚げ」
「まってました! からあげ!」
言葉を聞くなり、ミュラが飛び上がって喜んだ。
この前の祭りの時とは違い、昨日の夜から鶏肉を漬け込んである。
あの時以上に美味しい唐揚げになるだろう。
深型のフライパンに、揚げる為の油をたっぷり入れ、この前同様に衣に必要な片栗粉と薄力粉を半々で混ぜて、皿の上に広げた。
粉をまぶし、油に投入する。
じゅわぁ、と唐揚げの音と匂いが食堂に広がった。
「うわぁ……いいにおい~……すんすん……」
「……ん? おわっ!」
ふっと横を見ると、匂いに釣られたミュラの顔がフライパンの近くにあった。
「ちょっ! ミュラちゃん!!」
コヨミが慌ててミュラを引き戻す。
「危ないっスよ!」
「――はっ! ミュラはいったい……」
「油が跳ねて、顔にかかったらどうするっスか!? まったくもう!」
「ごっ、ごめんなさい……」
コヨミに怒られ、シュンとするミュラ。
今の、無意識で近づいてしまったのか。
これは今後気を付けていかないといけないな……。
そう思いつつおかずの二品目、唐揚げの完成。
「次 ミニハンバーグ 焼く」
すでに成形しておいたものをフライパンへ並べた。
こちらも、肉の焼けるいい匂いが食堂に広がっていく。
「ふわ~……いいにおい~」
ミュラが匂いに釣られて歩き出した。
……おいおい、さっき怒られたばかりなのに、もう忘れたのか。
「――うぐっ!?」
コヨミがミュラの襟を掴んだ。
「駄目っスよ?」
「けほっけほっ! も、もうちかづかないってば!」
いや、さっき明らかに近づいてきそうだったよな。
『はあ……まったく……よっと』
俺はミニハンバーグをひっくり返し、もう片面を焼いた。
しっかり焼き目がついたら、ミニハンバーグを皿に並べてケチャップをつければ……。
おかずの三品目、ミニハンバーグの完成。
「次 たこさん ウインナー」
「ねえ~……それのどこがたこさんなの?」
ミュラはまだこの姿に納得いっていないらしい。
まぁ、驚くのはここからだ。
俺は熱湯で消毒した針をウインナーの真ん中あたりに2ヵ所小さな穴をあけ、そこに黒ゴマを押し込んだ。
そして、ウインナーをフライパンに入れて炒め始めた。
すると切れ目が開き、タコの足が出て来た。
「おおおおおっ! たこさんだあああああ! ちゃんとめもあるよ!」
たこさんウインナーのちょっとしたテク。
この黒ゴマがタコの目になって、よりウインナーがタコっぽく見えるわけだ。
「すごいっス! 本物のタコみたいっス!」
「うんうん! ここまでたこになるなんてすご~い!」
2人はここ一番の反応をするな。
確かに、タコっぽくしたけど所詮はウインナー。
そこまで本物って言うのは、おかし……あっ、そうだった。
この世界のタコって……タコさんウインナーのような形をしていたんだった。
つまり、2人からしたら本物そっくりに作った事になる。
それは驚くわ。
「ゴブって、ほんとうにすごいね!」
「本当っスよ!」
「え? あ、そ、そう……かな……ははは……」
俺は複雑な気持ちになりつつ、ウインナーを焼き上げた。
これでおかずの四品目、たこさんウインナーの完成だ。
お弁当のおかずはこれですべて完成。
残すは……。
「さあ 一番 メイン 作るぞ!」
「「お~!」」
このお弁当の1番のメイン……おにぎりだ。




