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ゴブめし!~ゴブリン料理の隠し味は異世界転生者~  作者: コル
第7章 3人のピクニック
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第49話

 暖かい昼下がりの光が、食堂の中を照らす。

 昼ごはんを終え、俺はコヨミが買ってきた美味しいお茶を飲みながらくつろいでいた。

 ミュラもお茶を飲みながら、椅子の上で足をぶらぶらさせていた。。


「んくんく……ふぃ~……おちゃがおいし~……」


 ミュラの台詞が非常に年寄りくさい。

 だがまぁ、そうなってしまうのもわかる。


「そう だな……ふー……なんだか 穏やかな 気分に なる」


 ポカポカ陽気も相まって、このまま寝てしまいそうだ。


「ゴブ~……きょうのおひるごはん、おいしかったよ~……」


「そうか。なら 良かった」


「よるごはんもたのしみだな~……」


「さっき 昼 食べたのに もう 夜の こと かよ……」


 2人で、のほほんとした会話をする。

 それを見て、コヨミが微笑みながら口を開いた。


「ふふ、2人とも、とろけそうっスね」


「そう だなー……」


「かも~……ふあ~……」


 ミュラが大きなアクビをした。


「ミュラちゃん、今寝ちゃったら夜寝れないっスよ」


 コヨミがそう言いつつ、テーブルの上に置いてあった回覧板を手に取る。

 そして、軽く回覧板をめくるとコヨミの視線が、ある箇所でぴたりと止まった。


「……そっか……そういえば、もうそんな時期っスか」


「どうしたの?」


 ミュラの質問にコヨミが答える。


「この時期、サラク丘から見える景色がすごく綺麗っスよ」


 その言葉にミュラがすぐ反応した。


「そうなの? そんなにきれいなの?」


「そうっスよ。めちゃくちゃ綺麗で、今が見ごろっス」


「なら、みにいきたい!」


 ミュラは椅子から身を乗り出し、目を輝かせる。


「サラク 丘……?」


 そんな名前の丘、聞いたことがないな。

 という事は、港町周辺の丘じゃないみたいだな。


「そこ 遠い のか?」


 コヨミに質問しつつ、お茶を一口含む。


「歩いて半日くらいっスね」


「――ブフッ!? 半っ!?」


 コヨミの答えに、思わずお茶を吹き出してしまう。

 いやいや、流石にそれは遠すぎる。

 俺とミュラが歩けるわけがないぞ。


「じゃあ 諦め よう」


 諦める事も肝心だ、うん。


「え~……いきたいな~」


 ミュラが口を尖らせた。

 無茶を言うな。


「そんな 距離、俺とミュラ 歩けるわけ 無い」


「問題ないっスよ? ウチが、2人を運べばすぐっスよ」


「はこぶ?」


 コヨミの言葉に、ミュラがきょとんとする。


「そうっス。ウチが2人を両脇に抱えるっス」


 すんごいことをサラッと言ったよ、この人。

 まぁコヨミなら簡単にできそうだけど……。


「……えっ! またはしるの!?」


 ミュラの顔がひきつった。

 なんで、そんなに怯えて……ああ、肉を買いに行った時の事か。

 確かに帰ってきたミュラは、真っ白な顔してたものな。

 俺もそれは勘弁してほしい。


「大丈夫っスよ。あの時みたいに、全速力で走らないっスから」


 そう言って、コヨミが右手をひらひらさせる。

 ミュラは少し考え……。


「じゃあ、いきたい!」


 と、元気な声を上げながら手をあげた。

 それを見て、コヨミが嬉しそうに笑った。

 ……これはもう、行くしかなさそうだな。


「だったら、見るだけじゃなくてお弁当を持って行こうっス」


「おべんとう?」


 ミュラが首をかしげる。


「そうっス。明日はサラク丘へピクニックに行くっスよ!」


「えっ!? 明日!?」


 いやいや、いくらなんでも急すぎるだろ。


「わ~い! ピクニックだ!」


 ミュラが両手をあげて喜び……。


「ちょっ、まっ――」


「楽しみっスね!」


 コヨミがミュラの両手を軽く叩く。


「……はあ……」


 これも、もはや止められんな。

 まぁ……別に予定はないしいいか。

 それにしてもピクニックか。

 子供の時以来行ってないな。


「ねぇゴブ、おべんとうのおかずってなぁに~?」


 今行くと決まったところだから、中身を聞いても仕方ないだろう。

 何も決まってないよ。


「お弁当のおかず……か……」


 コヨミが顎に指を当てて考える。


「ねぇ、ゴブくん。異世界のお弁当って、どんな物が入ってるっスか? 気になるっス」


「ん? ああ、そう だな。定番 だと……おにぎり、サンドイッチ、唐揚げ、たこさんウインナー、卵焼き、ミニハンバーグ……」


「からあげがはいってるの!? あとあと、たこさんウインナーってなに!? たこやきとまたちがうの!?」


 ミュラの目が輝く。

 こいつは本当に食べ物の話になるとテンションがあがるな。


「ウチは、おにぎりが気になるっス!」


 ミュラが右手をあげた。

 2人して質問攻めかよ。


「わかった、わかった。答えから 落ちつく。えと、まずたこさんウインナーだが、ウインナーを タコのような 形にするだけだ」


「へ? ウインナーをタコのかたちに……? ん? あんなにあしがいっぱいあるのを、どうやって?」


 ミュラは全く想像できない様で、腕を組み首をひねる。


「おにぎりは……あー……すまん、この世界 無理 だ」


 そうだよ、おにぎりといえばのアレが無い。


「材料がないっスか?」


「そうだ。米 ないと おにぎり 作れない」


 米そのものが、おにぎりだからな。

 無ければ作れるわけもない。


「米? コメって、あのコメの事っスかね?」


「……へ? ある のか?」


「ゴブくんが言っているのと同じ物かはわからないっスけど……東洋で作られている植物の事っス。ここは港町だから、市場でちょいちょい売られてたっス」


 マジかよ。

 全然気がつかなかっ……いや、この世界の食材は見た目が全然違うからな。

 店に並んでいても、気付けるわけがないか。


「ねぇ~ねぇ~ゴブ、そのおにぎりもおいしいの?」


「ああ、俺 思っている のと 同じ ならな。唐揚げ との 相性 すごく いいぞ」


「ええっ!? からあげにあうの!? じゅるり」


 どんな想像をしたのかわからないが、ミュラの口から涎が垂れる。


「よし、いまゴブがいったのぜんぶいれよう!」


「は? 全部?」


 俺は思わず聞きなおしてしまった。


「そう! ゴブがいったものぜんぶおべんとうにいれて、ピクニックにいくの!」


 何を言っているんだ、こいつは。


「「……そんな 量、箱に 入らない」


「じゃあ、おおきいはこにすればいいじゃん!」


 じゃんって……。

 そういう問題じゃないっての。


「ん~……ミュラちゃん……申し訳ないっスけど、お弁当の大きさにも限界があるっス……」


 コヨミが申し訳なさそうな顔をしつつ、右手で自分の頬をポリポリとかいた。


「……ええ…………む~だったら!」


 ミュラがバタバタと2階へ駆け上がって行った。

 そして、紙とペンを持って1階へと降りてきた。


「いまから、かいぎをします!」


「「会議?」」


「そう! なんのおかずを、おべんとうにいれるか、みんなできめるの!」


 ミュラは鼻の穴を大きくして、フンスと鼻息を出す。

 俺とコヨミは、そんなミュラの姿を見てただただ茫然とするのだった。

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