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第48話

 1階におりると、コヨミは厨房へと向かい、パン粥の鍋に指をさした。


「ウチもパン粥を食べていいっスか? 気になっちゃって」


「かまわ ない」


「やったっス。ゴブくんはどうするっスか?」


「じゃあ 俺の分も」


「わかったっス。椅子に座って待っててほしいっス」


 コヨミはパン粥の残りを温め直し始めた。

 俺は言われた通り、椅子に座ってパン粥が温まるのを待った。


 そして、コヨミは温まったパン粥を器に入れ、席に並べ椅子に座る。


「ん~……おいしそうっス。じゃあさっそく……」


 コヨミはスプーンでパン粥をすくい、口へと運んだ。


「あむ……はふはふ」


 俺もスプーンでパン粥をすくって一口食べる。

 柔らかく煮込まれたパンの塊が、舌の上でとろりと溶けた。


「……うん おいしい」


 我ながらうまくいったものだ。


「思ったよりパンの食感、残ってるもんっすね……けど……う~ん……」


 コヨミの手が止まり、小首を傾げた。

 何か考えている様子だ。


「どう した?」


 何かおかしなところがあったかな。


「なんかちょっと……足りないっスね」


「物 足りない……?」


 ふむ……まあ、パン粥の主な味付けは砂糖のみだ。

 そういう胃に優しい料理だから、そう思っても仕方ないか。


「……ん~……そうっス! そういう時は……」


 コヨミは立ち上がると、厨房の方へと向かった。

 調味料の何かを足すみたいだな。

 これだと塩コショウ辺り……いや、待て。

 厨房にはアレも置いてある……まさかっ。


「おい もしかして……」


「これを混ぜてみるっス!」


 コヨミの手に、見覚えのある小瓶があった。

 そうあれは……。


「マヨネーズっス!」


『やっぱりかあああああああ!』


 誇らしげに掲げたコヨミの笑顔とマヨネーズの瓶が、やたらと眩しく見える。


「えと……パン粥に マヨネーズは どうかと……」


「そうなんっスか? ウチは合うと思うっスけど? ゴブくんの世界には、入れる人はいなかったっスか?」


「え? いや……それは……その……」


 それに関したら言い返せない。

 俺もパン粥の味付けに関して詳しくない。

 ましてや、パン粥にマヨネーズを入れてはいけないなんて聞いたこともない。

 もしかしたら、世界のどこかで入れている人もいるかもしれない。


「いる……かも……」


 俺はそれだけしか答えられなかった。


「じゃあ、入れてみるっス! さてさて、どんな味になるっスかね~?」


 コヨミは勢いよくマヨネーズをパン粥の上へと落とした。

 そして、スプーンで混ぜ合わせはじめる。


「…………ふむ、見た目はあんまり変わらないっスね」


 そりゃあどっちも白色だからな。

 色が変わったら、それはもう化学反応だよ。


「こんなもんかな? どれどれ?」


 コヨミがスプーンでパン粥をすくい、一口食べた。


「もぐもぐ……」


「……」


 俺はそれを黙って見つめる。

 そして、しばしの沈黙が流れた。


「……っ!?」


 突如、コヨミの咀嚼が止まる。

 あの感じ......流石のマヨラーコヨミでも駄目――。


「おいしい! ゴブくん、これおいしいわ!」


 コヨミの顔がぱあっと笑顔になった。


「はあ!?」


 マジかよ。


「マヨネーズの酸味が、ミルクの甘さを引き締めてる! これ、ゴブくんも食べて見てよ!」


 そう言うと、コヨミがマヨネーズ入りの器を俺の前へと持って来た。


「……ええ」


 コヨミの言っている事は、本当なんだろうか。

 でも反応からして割と有りなのかもしれない。

 なら一口だけ味見してみよう。


 俺はスプーンでパン粥をすくい。


「……っ!」


 意を決して口の中に入れた。


「…………」


 甘い牛乳の味の中に、マヨネーズの味が顔を出してくる。

 ……それ以外、言いようがない。


「どう? どう!?」


 コヨミが期待の眼差しで俺を見る。

 そんな目で見ないでくれよ……。


「……まぁ 食えなく ない……」


「そうっスよね!」


「……が もう いらない」


「なんでっスか!?」


 俺の言葉に、コヨミはショックを受けた顔をした。


「……胃 もたれる」


 胃に優しい料理なのに、マヨネーズが完全にそれを潰している。

 色んな意味で良くない。


「え~? ……おいしいと思うっスけどねぇ……はむっ」


 コヨミは納得いかない様子で食事を進めた。



「今回も、いいんっスか?」


 食後、器を洗い終えるとコヨミが俺に聞いて来た。

 治りかけとはいえ、風邪をひいているミュラとコヨミを同じ部屋で寝かせられない。

 その為、この前同様に俺の部屋で寝てもらう事にした。


「気に しない」


「…………わかったっス。ありがとうっス」


 そう言うと、コヨミは2階へと上がって行った。

 自分の家なんだから遠慮なんてする事ないのにな。

 そう思いつつ、俺はランプを消して毛布に包った。




 翌朝。


『コケコッコー!』


 外からニワトリの鳴き声と共に、食堂の窓から朝日がさしこんで来た。

 そして――。


「おはよ~! ゴブ!」


 明るい声が響くのと同時に、腹部に強烈な衝撃が走った。


『――ぐふっ!? な、なんだ!?』


 目を開けると、そこには満面の笑みを浮かべたミュラが馬乗りになるような姿勢で乗っかっていた。

 見るからに元気そうではあるが……。


「ミュ、ミュラ。大丈夫 なのか?」


「うん! ぜんぜんへいきだよ!」


 嘘を言っている様には到底見えない。


「そうか……良かった……」


 と安心する俺の腹の上で、ミュラのお腹がぐぅ~と鳴った。


「はうっ!」


 ミュラは慌てた様で両手をお腹に当てた。


「ミュラちゃんも、お腹のムシも元気になったみたいっスね」


 ミュラの声で起きたのか、寝間着のままのコヨミの姿があった。


「へへ~……おなか、すいちゃった」


 ミュラが苦笑いを浮かべる。


「まったく……何 食べたい?」


「え? う~んとね……」


 俺の質問に、ミュラは少し考え……にっこりと笑って答えた。


「おにく!」


「……へ? 肉?」


 予想外の答えに俺は目を丸くする。


「そう! おにくたべたい!」


「…………昨日 まで 病気 だったと 思えないな」


 俺は呆れた果てつつ、ミュラを体の上から退かせて起き上がる。


「まぁある意味、いつもミュラちゃんでいいじゃないっスか」


 コヨミはケラケラと笑った。


「そう だな。んー にしても……肉か」


 そういや、昨日ノルンからもらった牛の肉があるな。

 とはいえ、いくら元気になったとはいえまだ病み上がりだ。

 流石に肉をメインするわけにもいかない。

 そうなると、野菜スープの中に入れるかな。


「きゃははっ! おねぇちゃん、くすぐったい!」


「我慢っス。異常がないか、ちゃんと診ないと……」


 コヨミに体を触られ元気に笑うミュラの姿を横目に、俺は厨房の方へと向かうのだった。

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