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第46話

 夕暮れが近づき、食堂の中が薄暗くなってきた。

 コヨミは2階におり、汗をかいたミュラの体を拭くのと今の容態を確認していた。

 その為、俺は部屋から追い出され、食堂で待機しているわけだ。


『少しは良くなってればいいけど……』


 椅子に座ったまま、意味もなく天井を眺める。


「もう上がって来てもいいっスよ!」


『おっ、終わったか』


 2階からコヨミの声がし、俺は椅子から降りた。

 そして、階段をのぼって部屋に入った。


「あ、ゴブだ~」


 ベッドで寝ていたミュラが、俺の姿を見て笑顔になる。

 まだ少し顔が赤いが、見た感じは良くなっていそうではある。


「良くなって きた?」


「そうっスね。風邪薬の方も効いて来たみたいで、病状もだいぶ落ち着いてるっス」


 それは良かった。

 苦しそうなミュラを見るのは辛かったからな。


「うん! ミュラ、もうなおったよ!」


 そう言うと、ミュラは布団をめくりベッドの上で立ち上がった。


「ちょっ!」

「ミュラちゃん!?」


「ほら、このとおりげんきに………はれ……?」


 が、すぐにふにゃりと力なくその場に座り込んだ。


「うまく……たてない……」


「そりゃあ、そうっスよ。ほら、まだ寝てなきゃ駄目っス」


 コヨミが苦笑しながらミュラの体を支え、ベッドに寝かせる。


「コヨミさん 言う通り。まだ 寝てる」


「む~……は~い……」


 不満そうに返事をするミュラ。

 この様子なら、明日には元気になってそうだな。


「それじゃあ、ミュラちゃん。ウチとゴブくんは1階に降りるから、何かあったらすぐに呼ぶっス」


「うん、わかった」


 俺とコヨミは部屋から出て、1階へと降りた。


「さて、ミュラちゃんの夕ご飯はどうするっスか? やっぱりスープっスか?」


「それ だけど。残った パン 使って いいか?」


「パン? 別にいいっスけど…………ん?」


 ピクンとコヨミの耳が動いた。


「どう した?」


「何か音がするっス……」


「音?」


 そう言われ、耳を澄ませる。

 確かに、外からドタドタと誰かが走っている様な音がする。

 その音はどんどん近づき、やがて食堂の前で止まった。


「「?」」


 2人で食堂の入り口を同時に見ると、ドンドンと扉が激しく叩かれた。


「な、なんだ!?」


 俺とコヨミは顔を見合わる。


「まさか、またあの子達が……いや、それにしては叩くのが強すぎるっスね……ウチが出るっス」


 コヨミの言葉に俺は頷き、厨房の陰に隠れた。

 それを確認したコヨミが、カーテンを開けて扉を開けた……その瞬間。


「っミュラちゃんの具合はどうなんですか!?」


 馬……ではなく、ノルンが勢いよく食堂の中へと飛び込んで来た。


「おわっ!? ノ、ノルン!? どうし――」


「で、どうなんですか!?」


 ノルンがコヨミの肩をガシリと掴み、ブンブンと前後に振る。


「あばばばばばばばばばばばばば!?」


「ミュラちゃんが高熱を出して、体が溶けているらしいじゃないですか!」


「ばば――はあ!?」


『はあ!?』


 その言葉に、俺もコヨミも目を丸くする。

 ノルンの真剣な顔を見る限り、冗談を言っている様には到底見えない。


「どうなんですか!? 助かるんですか!?」


「とっとととりあえずううう! おっ落ち着くっスよおおおお!!」


「ノルンさん! ストップ! ストップ!」


 俺は厨房から飛び出て、慌てて止めに入った。




「……なんだ……体は溶けてはいなかったのですか……」


 コヨミを解放し、ミュラの状態を聞いたノルンが心底安心した様にその場に座り込む。


「あいたたた……首が……まったく……一体、誰からそんな話を聞いたっスか?」


 コヨミが右手で首を擦りながら椅子に座る。


「ナナちゃん達です」


「「えっ?」」


 俺とコヨミが同時に声を上げる。

 体が溶けるって……あいつ等一体何を話したんだろうか。


「それにしても、良かった……いや、風邪なので良くはないですね。とりあえず、お見舞いとしてこれを持ってきました」


 ノルンが背負っていた袋から、人の頭位の大きさがある包みを取りだした。

 そして、それをテーブルの上に置く。


「それ、なんっスか?」


「牛の干し肉の塊です。栄養満点ですよ」


 ……いや、栄養はあるけど、どう考えても病人に食わせるものじゃないだろう。

 そんなの持ってくる前にわかるだろうに。


「う、牛の肉……? いや、その……えと……ありがとう……っス」


 コヨミが苦笑いを浮かべながら、俺の方を見る。

 その瞬間、俺はコヨミから目をそらした。

 困るのはわかるが、俺を巻き込まないでくれ。


「コヨミ、私に何か手伝える事は無いですか? なんでも言って下さい」


「へっ? いっいや、今のところは大丈夫っス」


 コヨミの言葉に、ノルンはまったく引く様子はなかった。


「本当ですか? 遠慮しないで下さい。私もミュラちゃんの力になりたいのですから」


 真剣な眼差しでコヨミを見る。

 その眼差しに根負けしたのか、コヨミが小さなため息をついた。


「はぁ……じゃあ……ちょっとお願いしてもいいっスか?」


「はい! なんですか?」


「モスキートビーのハチミツを買ってきてほしいっス。あれは、栄養満点だから……」


「了解しました! すぐに採って来ます!」


 そう言うと、ノルンは満面の笑みで頷き立ち上がる。


「そう、だからハンターにって……えっ? 採って来ます……?」


「はい! 私に任せてください! 行ってきます!」 


 そして、勢いよく食堂の扉を開けて出て行った。


「えっ? あっ! ちょっ!? 待っ! 行っちゃったっス……」


「まずい のか?」


「モスキートビーは、大きさは蚊くらいの蜂っス。だからハチミツの採取が難しく、モスキートビー専門のハンターに依頼してハチミツを買うっスけど……それを、採りに行くとなると……」


「「…………」」


 俺とコヨミは、黙ってノルンが走り去っていった方を見つめた。


「……さて、この肉はミュラちゃんが元気になったら食べるっス。きっと喜ぶっスよ」


 コヨミは牛の肉の包みを手にし……笑った。


「……そう だな。ミュラ 肉 目がないし」


 俺も何事もなかったように、食堂の扉とカーテンを閉めた。



 ちなみに後日わかった事だが、ハンターが大量のモスキートビーに刺されて倒れていたノルンを発見。

 幸い命に別状はなかった。

 そして、あちらこちら赤く腫れあがった状態で食堂に現れ、採れなかったと謝罪に来た。


 それともう1つ。

 ナナ達は確かにノルンにミュラが高熱を出したと話したらしい。

 しかし、ノルンは高熱を出したと聞いた途端走り出し、最後までナナ達の話を聞かなかったそうだ。

 ノルンはミュラが雪ん子だから、先入観から体が溶けると思い込んでしまったらしい。


 前々から感じたけど、ノルンって結構……うん、言葉にするのはやめておこう。

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