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第45話

 俺とコヨミは、交代でミュラの看病をする事にした。


「……じゃあウチは残っている家事を終わらせて来るっス。ミュラちゃんの様子がおかしくなったら、すぐに呼んでほしいっス」


 コヨミは小声で話し、ズレた掛布団を元の位置に戻す。


「ああ わかった。すぐ 声 掛ける」


 俺も小声で答え、頷いた。


「よろしくっス」


 コヨミは立ち上がり、静かに部屋から出て行った。


『……』


 俺はミュラの額からタオルを取り、桶の水の中に入れる。

 タオルを絞り直し、ミュラの額にそっと乗せた。




『……ん?』


 しばらくすると、外から子供達の明るい声が響いてきた。


『この声……もしかして……』


 俺は立ち上がり、窓の外を見た。

 ナナ、カル、ターンの3人が食堂の方へと歩いて来ている。


『あちゃ……よりもよって、今日来るなんて……』


 食堂の前まで来た3人は、食堂の入り口とカーテンが閉まっているのを見て首をかしげていた。

 ナナが入り口の扉に手をかけ、開けようとするが開かない。


「やっぱり、閉まってるの」


「お昼時に食堂が閉まってるって、おかしくない?」


 カルが不思議そうな顔をして腕を組む。


「おーい! 誰かいないのかー?」


 ターンが声を上げると、食堂の扉が開いてコヨミが顔を出した。


「みんな」


「あ、コヨミお姉ちゃん!」


 3人が一斉に出て来たコヨミに駆け寄る。


「ごめんっス。今日は食堂お休みしてるっス」


「どうしてお休みなの?」


 コヨミは苦笑しながら答えた。


「ミュラちゃんが、風邪をひいちゃったんスよ」


「えっ! ミュラちゃん、風邪ひいちゃったの!? だっ大丈夫なの!?」


 コヨミの言葉に、ナナが心配と不安そうな顔をする。


「雪ん子なのに、風邪ひくんだね」


「みたいだな。だったら、自分で冷やせばよくね?」


「あー確かに、そうすれば簡単に熱を――」


 カルとターンの言葉を聞いたナナが、キッと2人を睨みつけた。


「2人共! こんな時に冗談を言わないの! 病気で弱っているのに、魔法なんか使えるわけないの!」


「「――っ!? ご、ごめんなさい!」」


 3人のやり取りに、コヨミは苦笑しつつナナの頭をぽんぽんと撫でた。


「大丈夫っスよ。薬が効いて、今はゆっくり寝てるっス。だから、今日は......」


 コヨミの言葉に、3人は顔を見合わせて頷いた。


「わかってるの」


「ミュラちゃんに、お大事にって言っておいて」


「じゃあな」


 そう言って、3人は帰っていった。

 それを見届けたコヨミが扉を閉めて、食堂の中へと入って行った。


 そして、階段をのぼる音が聞こえて来た。


「みんな、素直で良かったっス」


 そう呟きながら、コヨミが部屋へと入って来た。


「この タイミング とはな……」


「……んんっ……」


 布団の中のミュラが、小さく身じろぎした。


「ミュラ 起きた か?」


「…………いま……ナナ......ちゃんたち……いた……?」


 寝ぼけた様な声でつぶやくミュラに、俺は軽く頭を振り答えた。


「起き ちゃったか……ああ 来てたぞ。けど 帰った。お前の事 心配 してた」


 ミュラは目を細めて、寂しそうな顔をする。


「……そっか……」


「元気 なったら、たくさん 遊ぶ。だから 今 ちゃんと寝る」


「…………うん」


 ミュラはうなずくと、再び目を閉じた。


「……それじゃあ、交代するっス」


「ああ 頼む」


 俺はコヨミの言葉に頷き、ゆっくり立ち上がる。

 そして、静かに部屋の外に出て階段をおりた。


『んんっ!』


 軽く背伸びをしたのち、厨房へと向かう。


『さてと……ミュラの飯はどうするかな……』


 俺の世界だと、病人食といえばお粥やうどんが鉄板だけど……この世界で米を見たことがない。

 うどんも、今から小麦粉で作るっていうのもな。


『……となると、野菜スープに……あっ』


 ふとコヨミが買って来たパンが視線に入った。


『そうだ、パンを使って――』


 ――コンコン。


『っ!?』


 突然、食堂の入り口を叩く音がする。

 そしてカーテンには人影がうつっていた。


『おいおい……誰が来たんだ? コヨミさんを呼んで......いや、流石に俺が出た方が早いか』


 俺はいつもの様に顔を隠し、カーテンを開いて扉を開けた。


「……へっ?」


 入り口の前に立っていたのは、先ほど帰ったはずのナナ、カル、ターンだった。


「あ、ゴブっ!」


 ナナが声を上げ、俺は思わずのけぞった。


「な、なんだ? また 来た のか?」


「またって、失礼なの……ミュラちゃんのおみまい、持ってきたの」


 ナナが頬を膨らませつつ、手に持っていた籠を俺に手渡して来た。

 中には紫色のリンゴが5個入っていた。


「これね、田舎のおじいちゃんが送って来てくれたリンゴなの。すっごくおいしいの。だから、ミュラちゃんに食べてほしいの!」


「い、いい のか? こんなに……」


「うん、うちにまだまだあるから、いいの」


「……そうか。ありがとう」


「えっと、ボクはこれ」


 カルが胸に抱えた本を俺に手渡す。


「野菜の図鑑なんだ。ミュラちゃん、いつも食べてるから、こういう本が喜ぶと思って」


 ミュラは食いしん坊が浸透している。

 まぁ……それも仕方がないか。


「そうか。ありがとう」


 この図鑑を見て、これを食べたいとか言い出さなきゃいいがな。


「んっ」


 ターンは1輪の黄色い花をポンっと図鑑の上に置いた。


「これ は?」


「……その辺に咲いてた花だ……綺麗だったから、持って来た」


「何言ってるの? それ、さっき花屋で買っ――むぐっ!?」


 ターンが慌ててナナの口を塞いだ。


「余計な事言うな! と、とにかく! 見舞い渡したからな!」


 この花、買って来てくれたのか。

 わざわざ......いや、これ以上考えるのは野暮ってものだな。


「確か に、受け 取った。ミュラ 渡して おく」


「ぷはっ! あ~苦しかったの……もう! ターンたら!」


 ターンの手を振り解き、ナナが2階の窓に顔を向ける。


「ミュラちゃ~ん! 早く元気になってなの~!」


 一声かけ、3人は俺の方を向いた。


「それじゃあ、ボク達はこれで帰るよ」


「……ああ、ありがとう」


「ううん、気にしないでなの。それじゃね~」


 ナナとカルは手を振り、3人は帰っていった。


 受け取ったリンゴの籠と本と花を抱え、俺は食堂の中へと入った。

 そして、階段をあがる。


 部屋の扉を静かに開けると、ミュラは目を細めて俺の方を見た。


「……また……ナナちゃんたちのこえ……きこえた...…」


「ああ また 来た。 ミュラに これ 渡して ほしいって」


 俺はリンゴの入った籠と花をミュラの枕元に置き、図鑑を見せた。


「……これ……ずかん……?」


「ああ カルが 見て ほしい そうだ」


 俺は野菜の図鑑を適当に開き、ミュラに見せた。

 ミュラの顔が少しほころぶ。


「……おいしそう~……」


「食欲が出たのは何よりっスね」


 ミュラの言葉にコヨミが安心半分呆れ半分といった様子で肩をすくめる。


「……それに……いいにおい~」


 ミュラが頭を動かし、リンゴと花の匂いをかいだ。

 その声は相変わらず弱々しかったが、嬉しそうなのが伝わる。


「元気になったら、みんなにお礼を言わないといけないっスね」


「……うん」


 ミュラが小さく頷く。


 また顔色が良くなった気がする。

 3人の見舞いも、いい薬になったのかもしれないな。

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