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第38話

「ミュラ?」


 嫌な予感がした俺は、ミュラの名前を呼んだ。

 だが、返事は返って来なかった。


「っミュラ!?」


 もう一度大きな声で名前を叫んだ。

 しかし、返事はやっぱり返って来ない。

 俺の背中に嫌な汗がつたる。


「ゴブくん!」


 俺の声を聴き、コヨミが慌ててこちらに駆け寄って来た。


「もしかして、ミュラちゃん……」


「ああ ミュラ いない……ミュラっ! ミュラっ!?」


「――っ! ミュラちゃん! ミュラちゃん! 何処っスか!?」


 コヨミも大声を上げ、ミュラの名前を叫んだ。


「お姉ちゃん! ミュラちゃん、どうかしたの?」


 俺達の声にナナ、ターン、カルも駆け寄って来た。


「……ミュラちゃんの姿が……見えないっス……」


「えっ!?」


 コヨミの言葉にカルが驚きの声を上げる。


「そんな……さっき……そこにいたはずなの……ミュラちゃん……? ミュラ......ちゃ……」


 ナナが震える声で辺りを見渡す。


「――っ!」


 ターンが近くにあった屋台の屋根に上り、周囲をぐるりと見渡した。

 その姿を見て、カルも人混みの隙間を覗き込むように腰を低くして見渡す。


「…………くそっ! 駄目だ! 見つからねぇ!」


 屋根から降りてきたターンが歯ぎしりをする。

 その隣でカルも焦ったように首を振った。


「それらしい姿、下からも見えないね……」


「ミュラ! どこ! 返事 する! ミュラ! ミュラッ!」


 俺は必死に叫んだ。

 焦りと大声で、どんどんと息苦しさを感じ始めて来た。


「ゴブくん、落ちつくっス」


 俺の異変を感じ取ったのか、コヨミが俺の肩を軽く叩く。


「でも――」


「こっちまでパニックになったら判断を誤るっス。ここは冷静になるっス」


「…………ああ……そう……だな………」


 コヨミの言う通りだ。

 ここは冷静にならねば......。


「……すぅーはぁー……よし……もう 大丈夫」


 俺の姿を見たコヨミは頷き、人込みの方をジッと見つめた。


「ミュラちゃんは、あの人の波に流された……そう考えた方が良いっスね」


「じゃっじゃあ......もしかして、ぺしゃんこに押し潰されて……死――あいたっ!」


 カルが縁起でもない事を言いかけた瞬間、ナナが思いっきり脛を蹴り飛ばした。

 相当痛かったのか、カルはその場で脛を押さえてうずくまってしまう。


「変な事、言うんじゃないの!」


「つううう……ご、ごめん……」


「ミュラちゃんなら、身の危険と感じたらすぐ氷魔法を使うはずっス。けど、そんな騒動は全く起きていない……つまり……」


「そのまま 人の波 流されて 行った?」


 コヨミが頷く。


「そう思うっス。ここは二手に分かれて探すっス! ナナはウチと一緒に! ターンとカルは、ゴブくんと──」


 コヨミの言葉を最後まで聞かず、俺は人込みの中へと飛び込んだ。


「ちょっ! ゴブくん! もう! どこが大丈夫っスか! 仕方ない、カルとターンは2人で探すっス!」


「わかった! 行くぞ、カル!」


「え? え? あっ! う、うん!」


 4人は二人一組で走り出す。



 人の間を掻き分けながら、俺は何度もミュラの名前を叫んだ。


「ミュラ! ミュラっ! ミュラー!」


 声が掠れてきて、喉が焼けつくように痛み出す。


『ゲホッ……くそっ……! どこだ!』


 屋台の脇をすり抜け、人の間を押しのけて走る。


『――あだっ!』


 巨漢の男の足に思いきりぶつかってしまう。

 その衝撃で俺は吹き飛ばされ、尻餅をついてしまった。


『いでで……』


「あん!? おい、人込みの中を走るな! いてぇだろうが!」


 見上げれば、強面の男が俺を睨みつけていた。

 まずい、このままとっ捕まったらミュラを探すどころではない。


「す、すまない!」


 俺は慌てて頭を下げ、平謝りをしながら巨漢の脇をすり抜けるように逃げた。


「あっ! おい! 待て! ガキ!!」


 背後から怒声が聞こえるが、構っていられない。

 こっちはミュラを探すのに忙しいんだからな。


「ミュラ! 返事 する!」


 走り続けるが、ミュラの姿は見当たらない。

 頭の奥で、また人さらいに……そんな最悪の光景が一瞬浮かんでしまう。


『……っ……変な事を考えるな!』


 頭を振って、その考えを必死に振り払う。

 頼む……頼むから無事でいてくれ。


「ゴブくん! そっちにいたっスか!?」


 遠くからコヨミの声が聞こえて来た。

 立ち止まり声のする方を見ると、コヨミとナナが高台の方にいた。

 ナナは必死に目を凝らし、辺りを見渡している。

 あの感じだと、まだ2人共ミュラを見つけていたないようだ。


「いない!」


 返事を返し、再び走り出した。




 どれだけ探したのか分からない。

 息も絶え絶えになり、足が重くなって来る。

 流石に疲れはじめ、立ち止まった。


『はあ……はあ……ミュラ……どこ……いるんだ……はあ……はあ……』


「…………~!」


 ふと、喧噪の中に微かな女の子の声が混じった気がした。


『……え?』


 俺は顔を上げ、耳を澄ませた。


「…………ちゃん!」


『……今の声って……』


「……ブ~!」


 気のせいじゃない。

 この声は――。


「…………ねぇちゃん!」


 間違いない、ミュラの声だ。


「ミュラ!?」


 疲れていても体が反射的に動き、声のした方へ全力で駆け出す。


「ゴブ~!」


 声が近い。

 人の波をかき分けて進むと、視界には大きな馬の脚が飛び込んで来た。


『え? う、馬……?』


「コヨミおね…………あっ! ゴブがいた!」


 その馬の背中に、ミュラはちょこんと乗っていた。


「うしろ、うしろにいたよ! ノルンおねぇちゃん! ゴブ、うしろにいた」


 ミュラがタンタンと馬の背中を叩く。


「本当ですか?」


 馬……ではなく、ケンタウロスのノルンが振り返った。


「…………ノルン……さん?」


 目も前の光景に俺は目を丸くして、呆然と立ち尽くした。

 そんな俺の姿を見て、ミュラは両手をぶんぶん振り無邪気に笑っていた。

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