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第37話

「わああああああああ! すごおおおおい!」


 ミュラがピョンピョンと小さく跳ねて興奮している。

 その動きに頭の2つの団子ヘアもピョコピョコと跳ねていた。


 祭り本番の港町は、いつもの昼の喧噪をさらに上回る熱気に包まれていた。

 通りの両脇には赤、青、黄といった様々な色のガラスのランタンがずらりと並び風に揺れている。

 軒先には布飾りがひらひらと舞い、大通りには様々な屋台が並んでいた。

 潮の香りに混じって食材の焼ける匂い、甘い菓子の匂いがし、町人の楽しそうな声があちらこちらから聞こえる。


「ねぇゴブ! あれをたべようよ!」


 ミュラは俺の袖をぐいぐいと引っ張り、指をさす。

 その先には、ミュラの好物のいつもの串焼き屋だった。

 好きな物を食いたいのはわかるが……せっかくの祭りだ。

 普段食えない物を勧めるのがいいだろう。


「ミュラ どうせなら 普段 食べないの 食う」


「そうっスよ。この祭りでしか食べられないのが、たっくさんあるっス」


「そっか! それじゃあ…………あっ! あのおみせ、いつものフライドチキンとちょっとちがうみたいだよ!」


 ミュラが袖を引っ張り、その屋台へと連れていかれる。

 袖が伸びるから引っ張るなと言いたいが、この楽しそうな顔を見ていると文句を言う気も失せてしまう。


「いらっしゃい! 東方地方のフライドチキンはどうだい?」


 赤いモヒカンの若い主人が声をかけて来た。

 その姿を見て、一瞬共食いなのではと思ったのは内緒だ。


「東方地方って、何が違うっスか?」


 コヨミの質問に、待ってましたとばかりに主人が前のめりになる。


「それはですね! ズバリ、作り方の違いです! 普段口にしているのは衣に味付けをし、厚めの衣で揚げるんです! 一方、東方地方は鶏肉の方に味付けをして、衣も薄くして揚げるんですよ! どちらも鶏肉を揚げた料理ですが、風味や食感が全然違うんです!」


 なるほど、聞いた感じこれは唐揚げっぽいな。

 確かに唐揚げとフライドチキンとでは全然違う。

 こちらの世界の唐揚げはどんな感じなんだろうか。


「おいしそう~……ジュルリ」


 ミュラは涎を垂らし、目を輝かせる。


「ミュラちゃん、食べるっスか?」


 コヨミが聞いた瞬間、ミュラの首が何度も縦に振られる。


「うんうん!」


「ゴブくんはどうっスか?」


「あ、じゃあ 食べる」


「わかったっス。お兄さん、3個くださいっス」


「まいどあり!」


 コヨミは唐揚げ3個入りの袋を3個受けとり、俺とミュラに手渡した。


「はい、ミュラちゃん」


「ありがとう!」


 ミュラが受け取るな否や、1つの唐揚げを掴み口に入れた。


「あ~ん! もぐもぐ……ん~! おいひぃ~」


 どれどれ、俺も1つ食ってみるか。


「はむ……モグモグ……ふむ……」


 全体的にベチャッとしている。

 俺的に衣も厚いし、若干粉っぽいのも気になるな。

 唐揚げといえば、衣はサクッと中はジューシーと決まっている。

 それを思うと、これは……。


「ゴブ、おいしいでしょ?」


「あ……ああ……」


 点数をつけるとすれば、10点満点中4点くらいだろうか。

 しかしミュラの満足している様子を見ていると、いまいちと言い出せない。


「モグモグ……ゴブくん、嘘は良くないっスよ? 正直に言うっス。それも大事な事っス」


 う、見抜かれていたか。


「…………正直 いまいち」


「えっ!?」


 俺の言葉にミュラが驚く。


「俺 これより もっと おいしい 作れる……たぶん……」


「えええっ!?」


 ミュラがさらに驚く。


「ゴブ、それほんとう!? これよりも!?」


「あ、ああ たぶん……だけど……」


 俺の理想の唐揚げが、ミュラに合うかどうかはわからない。

 だから、断言はできない。


「じゃあ、しょくどうにもどったら、つくってよ!」


「え?」


「やくそくだよ!」


「あ、ああ……わかった」


「にしし! たのしみだな~……あっ! つぎはあれをたべたい!」


 甘い匂いが漂ってきて、ミュラが走り出す。

 そこは蜜を絡めた菓子を山盛りにした屋台があった。


「ウチも楽しみにしてるっスよ~」


 ハードルがどんどん上がって行く……。



 しばらくすると、音楽が一段と賑やかになっていた。

 広場の一角では楽団が太鼓を高らかに鳴らし、笛と弦が陽気な旋律を奏でる。

 その音楽に合わせ、綺麗な衣装を身にまとった踊り子達が舞い、群衆の歓声を浴びていた。


「わぁぁ! みてみて! どう~?」


 ミュラは踊り子達のマネをして、体を揺らす。


「はしゃぎ すぎ。転ぶ」


「だいじょうぶ! だいじょうぶ! きゃっほ~!」


「まったく……ん?」


 ふと港の方に目を向けると、大きなイカダの上に筒が何個も並べられていた。

 筒の傍では職人らしき人達が、せっせと作業をしている。


「あれが今夜の目玉っス。海の上で、花火を打ち上げるっスよ」


「ほう」


 この世界にも花火があったのか。

 海の上で打ち上げる花火……か。

 水面に映るから相当綺麗だろうな。


「わ~! たのしみ~!」


「いたの! お~い! ミュラちゃ~ん!」


 人混みの向こうから少女の声が聞こえて来た。

 振り返ると、ナナが右手を大きく挙げて振っている。

 ナナの左右には、ターンとカルの姿もあった。


「あ! ナナちゃん!」


 ミュラも右手を挙げて、大きく振りかえした。


「やっと見つけたの!」


 ナナが駆け寄って来る。


「やっとみつけた?」


「そうなの、ミュラちゃんを誘いに食堂に行ったんだけど、いなくて……」


 俺達が出掛けた後に来たのか。

 来る事を知らなかったとはいえ、少し悪いことをしたな。


「そうだったの!? ごめんね!」


「いいのいいの! 歩いていれば、会えると思ったし!」


 ナナがケラケラと笑う。

 その後ろでカルとターンが、うんざりした様子でため息をついていた。

 多分、探す為にあちらこちら連れ回されたんだろうな。

 お疲れさん……。



 子供達含め、俺達は一緒に祭りを周る事になった。

 ミュラとナナは楽しそうに話しながら先頭を歩き、屋台から屋台へと渡り歩いていた。


 30分ほど歩き回っただろうか。

 大勢の人達が立ち止まり、大通りの真ん中を開け始めた。


「? なに?」


「もうすぐパレードが始まるの」


「パレード?」


 ミュラが首を傾げると、カルが答える。


「そう、昼と夜にあるんだけど、すごい派手で見ているだけで楽しいんだ! あー……ボクもいつかあの中に混じりたいよ」


「楽器をまともにならせない奴が、何を言っているんだか……」


 カルの言葉にターンが呆れかえっていた。


 そうこうしているうちに、パレードが始まった。

 煌びやかな仮面をつけ、鮮やかな衣装に身を包んだ踊り子達が音楽に合わせて動き出した。

 同時に見物客も合わせるように動き出す。


「わああああああ!」


 ミュラが目を輝かせてパレードを見入っていた。

 今にも人の波に流されそうになり、俺は慌ててミュラに声をかける。


「ミュラ 離れるな!」


「うん! わかってる! もうちょっとだけ!」


 だが、ミュラの視線はパレードから離れない。

 そして人々の歓声が一段と高まり――。


『……え? おわあああああああっ!?』


 人の大きな波に俺達は飲まれ、俺は慌ててそこから避難した。


『あっぶねぇ! 潰されるとこだった』


 身の危険を感じたぞ。


「みんないるっスか!?」


「いる」


「うん! いるの!」


「ボクはここだよ!」


「俺はここだ」


 コヨミの呼びかけに、それぞれ返事が返ってくる。

 だが……。


『…………あれ? ミュラ?』


 ミュラの声だけが返って来なかった。


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