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第35話

 ミュラ、ナナ、ターン、カルの4人が席へと着いた。

 並んだ皿を前にして、みんな目を輝かせながらフォークを手に取り、湯気を立てているミートボールに向かって一斉に手が伸びる。

 それを見てうまくいったと、俺は拳を握った。


 が、その直後、ぴたりと全員の手が止まり空気が張りつめた。


「………………あ、あれ? どう した?」


 俺が聞くと、子供達は顔を見合わせた。

 そして、ターンが口を開いた。


「……ピーマンが……見える……」


 フォークでミートボールを突きながら指摘する。

 よく見れば、表面に細かい緑色の破片……確かにピーマンが見えている。

 この作り方だと、ピーマンはどうしても隠し切れない。

 けど、見た目で判断したら困る。

 重要なのは味なんだから。


「大丈夫! 確かに ピーマン 見える……けど おいしい! 信じて!」


 俺が必死に訴えるがナナ、ターン、カルは同時に眉をひそめた。

 頼む、信じてくれ。

 ピーマン料理の中でも、俺はこのミートボールが一番おいしいと思うんだから。


「……うん、わかった」


 最初に動いたのはミュラだった。


「……ミュラ、たべる!」


 ミュラはフォークを突き立てて、そのまま口へと運んだ。


「――っ! パクッ!」


 意を決してミートボールにかじりつく。


「モグモグ……」


 ミュラは目を閉じ、咀嚼する。

 俺、コヨミ、ナナ、ターン、カル……みんながその姿を固唾を飲んで見守っていた。

 沈黙が長く感じる……そして――。


「っおいしい! ピーマンのあじ、ほとんどしない! それに、やわらかくてジューシー!」


 ぱっと目を開けて、ミュラが笑顔でそう言った。


「……じゃあ、あたしも……」


 その言葉にナナが続いた。

 恐る恐るフォークにミートボールを刺し、そっと口に入れる。

 もぐもぐと噛むうちに目を丸くし、やがて笑顔になった。


「本当においしいの! これなら食べられるの!」


「……よしっ、ボクも」


 次にカルが意を決してかじりつき、咀嚼してから口元を緩めた。


「ふわー……ヒンビーゲとはまた違う……おいしい」


「……」


 ターンは黙ったまま食べたが、すぐに二口目に手を伸ばした時点で、答えが出ている様なものだ。

 よかった……全員満足してくれたようだ。


 4人はフォークを突き立てて、夢中で食べ始めた。


「わっ! これ、やわらかい! おにくがほろほろってなるよ!」

「ん~っ! このソースもおいしいの!」

「ピーマンのシャキシャキ感はあるけど、ほとんど苦味を感じない……すごいな……」

「……」


 次から次へと弾む子供達の声が重なり、食堂の中が賑わう。

 その後もしばらく、子供達は勢いよく食べ続けて皿がきれいになっていく。

 俺は安堵しながらも、みんなの食べっぷりに感心していた。

 こうやって苦手な物を、笑顔で食べてくれるのは作った甲斐があるってもんだ。


 やがて夜が深まり、満腹と疲労が一気に子供達に押し寄せてきたらしい。

 ミュラは椅子に座ったまま舟をこぎ、ナナは腕を枕にして机に突っ伏し、ターンは天井を見上げてまぶたを閉じ、カルは頬に手を当てて何度も瞬きを繰り返す。

 どうやらみんな、睡魔に襲われてきたようだ。


「そろそろ……家 帰す」


 子供達を見ながら俺がそう言うと、コヨミが小さく首を振った。


「そうしたいっスけど……見てみるっスよ。もうこの子達は、完全に夢の中に入りかけっス。このままじゃ、帰り道で確実に寝ちゃうっスね」


 確かに、この状態だと酔っぱらいみたいに道に倒れて寝てしまいそうだ。


「……じゃあ 抱えて 送るか?」


 俺がそう言うと、コヨミは苦笑いを浮かべた。


「出来なくはないっスけど……なんか幸せそうな顔を見ていると、夜道の中を運ぶのが可哀想っス……仕方ないっス。今日はウチに泊めてあげるっス、その方が子供達も安心して眠れるっスからね」


「勝手 決めて いいのか?」


「友達の家に行って、そのまま泊まるっていうのはよくある事っスから問題は無いっス。けど、子供達を部屋に運んだら、ウチがちゃちゃっとそれぞれの家に行って、事情を話しておくっスよ」


 コヨミ言葉に頷いた。


「……わかった。部屋 運ぶ」


 そう言うと、俺達は静かに立ち上がり、眠そうな子供達を抱き起こした。

 俺はミュラを抱え、コヨミはナナを背に乗せて尻尾で器用に支えつつ、ターンとカルを肩に抱きながらゆっくりとコヨミの部屋まで運んだ。


 部屋に着くと、ミュラとナナをベッドにそっと寝かせて毛布を優しくかける。


「流石に、4人はベッドに入りきれないから……2人には申し訳ないっスけど……」


 床に布団を敷き、そこにターンとカルを寝かせて同じように毛布をかけた。

 4人の寝顔は穏やかで、口元には満ち足りた笑みが浮かんでいる。


「これでよし。それじゃあ、ウチらも支度をしたら寝るっスか」


「あ、コヨミさん……俺の部屋 寝て いい。俺 食堂で 寝る」


「えっ?」


 俺の言葉にコヨミが目を丸くする。

 あ、俺が寝ている布団は嫌だったか。

 けど、流石に家主をその辺に寝かせられないよ。


「えと 布団 臭く……ない……はず……多分。でも 嫌なら……」


「そんなの気にしないっスけど、本当にいいっスか?」


「問題 無い。俺 何処でも 寝れる」


 洞窟の硬くて冷たい地面で寝ていたからな。

 それを思うと、家の床でも天国だ。


「……じゃあ、お言葉に甘えるっスね」


 俺達は最後にもう一度子供達の寝顔を確かめ、部屋を出た。

 扉を閉めると、静かな寝息だけが残る。



 食堂に戻ると、コヨミが食器を洗い始めた。

 手伝うと言ったが、子供達同様に疲れているだろうから休んでいてと言われた。

 正直その通りなので、コヨミの言葉に甘える事にした。

 水の流れる音、皿が触れ合う音が食堂に響く……俺は椅子に腰を下ろして、ぼんやりとその音を聞いていた。


『ふぅ…………今日は本当に色々あったな……』


 俺は深く息をつき、ゆっくりと目を閉じる。

 身体がじんわりと重くなってきた。


「……よし、洗い物終わったっス。ゴブくん、お風呂は……ふふっ、もう無理のようっスね」


 そんなコヨミの声が遠くで聞こえた。

 肩にふわりと柔らかい布がかけられる。

 布の温もりと共に、俺の意識が静かに沈んでいく。


「お休みっス」


 コヨミの声を最後に、俺は眠りの中へと落ちて行った。

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