第34話
俺達はナナの家から外に出た。
「あっ!」
と、急にミュラが大声を出し、その場に立ち止まってしまった。
「ミュラちゃん、どうしたの?」
ナナの問い掛けに、ミュラが顔を青くしながら答えた。
「……ミュラ……かいもののとちゅうだった……わ、わすれてた……」
ああ、そういえばそうだったな。
今日は色々ありすぎて、俺もすっかり忘れていたぞ。
「あ~なるほど、それで買い物バッグを持ってたわけっスか」
「うん……」
「そうだったんの。じゃあ、一緒に行くの!」
ナナが笑顔でミュラの手を握った。
「えっ、でも……」
ミュラが困った顔をしている。
そうだよな、元々1人で買い物をするっていうのが目的だったものな。
「なら、ボクも付き合うよ」
カルが手を挙げた。
「ターンも当然行くよね?」
カルに聞かれたターンは、小さくため息をつきながら頷いた。
「ああ」
「えっ……えっ……えと……ん~……ん~……」
腕を組み、ミュラが悩む。
そして、答えが出た様でミュラは元気に答えた。
「うん! みんなでいこう!」
おねぇちゃんの威厳より、友達を選んだようだ。
「で、何を買うの?」
「あ、ちょっとまってね」
ナナの言葉に、ミュラはポケットからしわくちゃの紙を取り出した。
「これが……かいものメモ」
そして、しわを伸ばすようにメモを広げる。
「どれどれ?」
子供達がメモを覗き込んだ。
「「「……」」」
一瞬でナナ、ターン、カルの顔が同時に曇った。
「ピーマンをおいしく食べられる料理だって!? そんなの、オレは信じないぞ!」
ターンが叫び。
「ピーマン……苦いの……」
ナナは眉を寄せ。
「食べられなくはないけど、正直あんまり……」
カルも渋い顔をする。
そんな反応を見たミュラは、胸を張って言い切った。
「だいじょうぶ! ここにかいてあるとおり、ぜったいにおいしいにきまっているよ!」
その言葉に、3人は顔を見合わせた。
「……本当に、大丈夫なんっスか?」
「……自信 無い」
どうか、うまくいきますように…………っと、そうだ。
ミュラに伝えておかないといけない事がある。
「ミュラ。人数 増えた 書いてある 倍 買う」
「うん、わかった!」
子供達は和気あいあいと話しながら、市場へと向かった。
俺とコヨミは少し離れた所から、買い物の様子を静かに見守る。
「まず、おにく!」
子供達は肉屋へと走って行く。
「えーと……合いびき肉200gだから……合いびき肉400gをください!」
「あいよっ! 合いびき肉ね!」
カルが声を張り上げると、負けじと店主も声を張り上げる。
「つぎ、やさい!」
子供達は八百屋に走って行く。
「玉ねぎは……1個か、となると2個だな……くんくん…………くんくん……」
ターンは玉ねぎを左右手で掴み、匂いを嗅ぎだした。
あー玉ねぎは別に1個で良いんだが……まあいいか。
「……くんくん…………くんくん…………これとこれ、まだ新鮮だぜ。ほらよ」
ターンは玉ねぎ2個をミュラに投げ渡す。
「これ、おいしそうなの!」
ナナの方は熟したトマトを2個持ち、ミュラに手渡した。
「みんな、ありがとう!」
必要な材料が全てそろい、子供達は俺達の元へと駆け寄って来た。
「ゴブ、これでいい?」
ミュラは買い物バッグを開けた。
中身を確認して、俺は頷く。
「ああ 揃ってる。帰ろう」
「うん!」
俺達は食堂へと足を向けた。
帰ってきた俺達は食堂の中へと入り、厨房に食材を広げた。
「よし 始める」
「ねぇゴブ、おもったんだけどさ」
材料を見ていたミュラが、問いかけて来た。
「なんだ?」
「つくるのって、ヒンビーゲだよね?」
あーそうだな。
材料を見ると、そう思ってしまうよな。
同じといえば同じなんだが……。
「近い が ちょっと 違う」
「?」
ミュラは不思議そうに首を傾げた。
「出来てから お楽しみ」
俺は今回の主役のピーマンを出すと、子供達の視線が自然とピーマンに集まる。
ナナ、ターン、カルがそろって渋い顔をした。
「うぅ……やっぱりピーマンは苦手なの……」
「ボクは食べられなくはないけど……あはは……」
「肉があるのに、なんでピーマンなんだよ……」
子供達の不満の声が……。
うーむ……これじゃあ駄目だな。
こんな空気の中だと、せっかく美味しく出来たとしても、いまいちな判定になってしまいそうだ。
「だいじょうぶ! だいじょうぶ! ねっゴブ?」
ミュラの声に、子供達の視線が俺の方に集まる。
そうだな……こんな空気なんて美味しさで吹っ飛ばせばいい。
「まかせろ! まずは 材料 切る」
ピーマンを3個を並べ、包丁を握った……その瞬間。
「あっ! 駄目なの!」
突然、ナナが大きな声を出した。
「子供は包丁を持っちゃ駄目なの!」
「え? ……あっ……そう……だな……」
ナナからすれば、当然俺も子供だ。
注意をしてくるのは当たり前。
ちゃんと教育出来ているようで何よりだけど、そうなると……。
「コヨミさん まかせた。作り方 教える」
俺はコヨミに包丁を手渡す。
「あっ……が、頑張るっス!」
これしか方法はない。
コヨミの負担が多くなるが、これも料理の練習って事で頑張ってもらおう。
「じゃあ 順番 変える。まず トマト 切って」
「うっス!」
トマトのヘタを取り除いて、反対側に浅く十字の切りこみを入れる。
「次 ピーマン」
ピーマンは縦半分に切って、中の種とヘタを取り除く。
そして、みじん切りにする。
その間に俺はトマトを湯に入れてから、水の中に入れて皮をめくるっと。
「出来たら 玉ねぎ」
ピーマン同様に、玉ねぎもみじん切りにする。
けど、今回は別の物にも使うから一部はざく切りに。
「トマト ニンニク よろしく」
トマトはざく切りし、ニンニクは薄切りにしておく。
そして、トマト、タマネギ、ニンニクをすり鉢に入れて、すりこぎ棒で潰しながら混ぜた。
『ふん! ふん! ふん!』
また、この作業をする羽目になるとはな。
「……ふぃ~……材料、全部切れたっス」
コヨミが額の汗を拭く。
「はあ……はあ……休む暇 無い。次 いく」
「え? 切るのは今ので……あっそうか……火もっスよね……」
「そうだ……」
みじん切りにした玉ねぎを、フライパンに入れて炒める。
辺りに甘い香りが立ちのぼり、子供達の表情がほんの少し和らいだ。
「玉ねぎ……いい匂いなの」
「これなら……食べられるのに……」
炒めた玉ねぎを冷ましている間に、ペースト状になったトマトを別のフライパンに入れてケチャップを作っておく。
「玉ねぎ そろそろ いいか……ミュラ これ 混ぜる」
肉だね作りはミュラに任せるのが一番だ。
「うん! まかせて!」
深い器に炒めた玉ねぎと、合いびき肉、塩、こしょうを入れて合わせる。
そこに刻んだピーマンも加えてよくこねていく。
「よいしょ! よいしょ!」
「うわぁ、ミュラちゃん、すごいの! お手伝いできてるの!」
「えへへ~! うんしょっ!うんしょっ!」
ミュラは嬉しそうに笑い、より力を込めて肉をこねる。
「混ぜた肉 丸めて フライパン 並べる」
肉だねを分けて丸く成形し、油を引いたフライパンの上に置いて焼いて行く。
「……肉の焼ける匂い……! たまらん!」
ターンの耳と尻尾がブンブンと揺れる。
この反応、コヨミと同じだな。
「肉 表面 焼き色 つけば そこに ケチャップ 塩 こしょう 加える」
そして肉玉を転がして、ケチャップを全体に絡まれば……。
「ピーマン ミートボール 完成」
俺がそう告げると、子供たちが思わず息をのんだ。
「わぁ……すごい、いい匂いなの……」
「こんなの、初めてみるよ」
「…………おおっ」
ピーマンのミートボールを皿に盛り付け、テーブルに並べる。
さあ果たして子供達は、これを食べてどんな反応をしてくれるのだろう。
俺の心は期待と不安が入り混じるのだった。




