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第32話

 腹を満たし、一息ついた俺達は、再び森の奥へと歩き出した。

 さっきまで疲れていた子供達の足取りも、すっかり軽やかだ。


「それにしても、ゴブくんのごはん、ほんとにすごかったの!」


「でしょでしょ? なんたって、ゴブはすごいゴブ……なんだから!」


「? そ、そうな……の?」


 おいおい、そこで俺がゴブリンだって事を口にするなよ。

 子供とはいえ、身体能力の高い獣人が3人。

 もし正体がばれたら……俺が地面に転がっている未来しか見えないからな。



 森の奥へ進むにつれて、空気がどんどん重たく感じていく。

 これは鬱蒼としている森の暗さのせいなのか、それとも別の何かのせいなのか……。

 そう思っていた時、先頭を歩いていたターンがぴたりと足を止めた。


「……あれ……か……?」


 その背後から覗き込むと、目の前には異質な空間が広がっていた。

 木々に絡みつく無数の蔓。

 そこに生えている葉は、白くて星型をしており、まるで夜空を見ている様だった。


「そうだよ! あれが星影草だ! 図鑑に載ってた通りの形だよ!」


 カルが嬉しそうに叫ぶ。


「綺麗……ほんとに星みたいなの……」


 ナナがぽつりとつぶやいた。

 確かに美しい光景……なのだが俺の背筋には、冷たい汗が伝っていた。

 なんだ、この場の奇妙な圧迫感は。

 何故かわからないが、すごい恐怖を感じる。


「よし、早く採ろうぜ!」


「うん!」


 ターンとナナが駆け出す。

 だが次の瞬間、星影草の葉が大きく揺れ、蔓が鞭のように2人へと襲いかかった。


「――っ!? 危ない!」


「――なっ!」


 俺の叫びと同時に、ターンがナナを抱きかかえて後ろに飛び退いた。

 ターンがいた場所に蔓が地面を叩きつけ、土が跳ね上がった。


『なっ……なんだ!?』


 突然の事に、その場にいた全員が唖然としてしまう。


「……星影草が……襲って……来た……の?」


 ナナが震えた声を出す。

 カルは慌てて図鑑を開き、必死にページをめくった。


「そ、そんな……星影草って、ただの植物のはず…………げっ! モンスターって書いてあった!」


「はあ!? おい! 最初からちゃんと読んどけよ!」


 ターンが怒鳴りながら、ナナを連れて戻ってくる。


「ご、ごめん! 万能薬になる部分までしか読んでなかった……」


 そういうことか。

 俺が感じていた恐怖は、星影草が俺達を狙っていたからだ。

 大人達が、森の中に入るなと言われていたのは昼間でも薄暗いからじゃない。

 こいつがいるからだ。


「早く 逃げる!」


 俺は叫び、来た道へと駆け出そうとする。

 だが、星影草の蔓が道を塞ぐように叩きつけられる。


「っ……逃がす気 無い らしい」


「そ、そんなー! ど、どうしよう!?」


 カルが涙目で取り乱す。


「どうするも何も……こうなったら、戦うしかないだろ! うおおおおお!」


 ターンがナナを降ろし、雄叫びを上げて星影草に突っ込む。


「うらあああああ!」


 ターンは蔓を爪で切り裂き、噛みついて力任せに引きちぎる。

 だがすぐさま別の蔓が伸び、ターンの体を叩きつけた。


「ぐあっ!」


「ターン!」


 星影草の蔓がうねりながら迫ってくる。

 完全に獲物を狙う動きだ。


『くそっ!』


 俺は近くに落ちていた太い枝を掴み、必死に振り回して蔓を弾いた。

 だが、俺程度の力じゃ全然効かない。


「ミュラにまかせて! えい!」


 ミュラの手から冷気が広がり、蔓の一部が地面ごと氷の塊に閉じ込められた。


「やった!」


「すごい! そのままやっちゃえ!」


 子供達が喜びの声をあげる。

 しかし……。


「へっ?」


 氷の塊はすぐに割れ、蔓がカルに迫って来た。


「わ、わっ! こっちに来た!」


 カルは慌てて近くの木に登って蔓を避けた。

 その直後、さらに数本の蔓が一斉に俺達に襲いかかってくる。


『このっ! このっ!』


 俺は歯を食いしばり、必死に枝を振り回してナナを守る。

 ターンは蔓を引き千切り、カルは木と木の間を飛び移りながら逃げ、ミュラは氷魔法で何とかしようとしている。

 しかし、どんな攻撃をしても星影草の猛攻はおさまる気配が無い。

 このままだと、全員やられてしまうのは時間の問題だ。


『くそっ! こいつを倒す方法はないのか!?』


 俺は必死に周囲を見渡す。

 何か……何かないか……。


「あーもう! 追ってこないでよおお!」


 木の上で叫んでいるカルを見て、ふと蔓の動きに違和感がある事に気づいた。


『……あれ?』


 俺達に対しては蔓をムチみたいに使って攻撃してきている。

 なのに、カルに対しては触手の様にウネウネと動かしながら捕まえようとしている。


 どうして、攻撃をして叩き落とそうとしない。

 それこそ、枝を折って逃げない様にする事も出来るのにだ。


『それをしない……いや、出来ないのか……?』


 もう一度追われているカルを見る。

 すると追っていた蔓が、差し込む光に触れた一瞬、その部分を避けるような行動を取った。


『……もしかして……光を嫌っている?』


 俺はナナを連れ、木漏れ日が強くさしている下へと身を移した。

 すると、星影草の蔓が一向に襲ってこなくなった。


『やっぱり!』


 確信を得た俺は大声で叫んだ。


「みんな! 光 当てる! そいつ 太陽 嫌がってる!」


「ええ!? そ、そう言われても! ど、どうすればいいの!?」


 カルが逃げながら問う。


「そうだぜっ! こんな場所で! 光を当てるって! 無茶言うな!」


 ターンも苦しそうに叫ぶ。


「ミュラ! 頭上 葉 凍らせる!」


「えっ? えっ?」


 俺の言葉にミュラが慌てふためく。


「早く!」


「よくわかんないけど、わかった!」


 ミュラが両手を広げ、地面をバンッと叩く。

 傍の木々に氷の波が走り、あっという間に葉が白く凍りついた。


「ターン カル 葉 砕く!」


「そういう事か!」


「わかった!」


 ターンが凍った葉に飛びかかり、爪で引き裂いて行く。

 カルも枝を揺すったり、凍った葉を蹴り砕く。

 どんどんと氷片と葉が落ちていき、その場に太陽の光が差し込んだ。


『――!? ――! ――!』


 光を浴びた星影草が激しくのたうち回る。

 蔓は痙攣し、力なく地面を叩きつけた。


「効いてる!」


 どんどんと蔦がしおれていき、動きも鈍っていく。


『――!! ――!! ――!!』


 星影草は断末魔のようにのたうち回り、やがて動きを止めた。

 しばらく、沈黙が流れる。


「…………やった……のかな……?」


 木の上からカルがつぶやく。

 そんなフラグを立てるなっての。


『……』


 俺は慎重に星影草に近づき、手に持っていた枝でつついた。

 だが反応はない。


「……終わった。もう 大丈夫」


「「「「――やったあああああ!」」」」


 子供たちが歓声をあげ、ミュラとナナは抱き合って涙を浮かべる。


「ナナ。泣いてないで、早く葉っぱを」


「……あっ。そうだったの」


 ターンの言葉に、ナナが恐る恐る星影草に近づく。

 そして、震える手で星型の葉をそっと摘み取った。


「わあ……採れたの!」


 ナナが手にした星影草は太陽の光を受け、宝石のようにきらめいていた。

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