第31話
『はあ……はあ……』
奥に進むにつれ、ますます草が生い茂っていて歩きにくい。
そのせいで、体力がどんどん奪われる。
「はあ~はあ~……の、喉が渇いてきたの……」
「ミュラも~……」
「ボクもー……」
「……」
俺の前を歩いていたナナ、ミュラ、カルが疲れた様子で声を出す。
ターンも口にはしないが、明らかに足取りが重い。
休憩した方が良いだろうが、問題は水だ。
こんな事になるとは思っていなかったから、誰も水筒なんて持っているわけが無い。
「……ふぅふぅ…………ん?」
ターンが立ち止まり、耳をピコピコと動かした。
それを見て俺達も足を止める。
「な、何? どうしたの?」
カルの問い掛けにターンが答える。
「……水の流れる音がする」
「え? 水の音?」
「……間違いない! こっちだ!」
ターンが走り出し、俺達も慌ててその後についていった。
木々を抜けた先、急に視界が開けた。
そこには高さ1mほどの岩の上から、チョロチョロと流れ落ちる小さな滝があった。
小さな沢も出来ているし、どうやら湧き水が出ているらしいな。
「わあああ! みずだあああああ!」
ミュラが滝に向かって走り出す。
「あっ! 待てよ! 俺が最初に見つけたんだぞ!」
「そんなの事、どうでもいいじゃないか、早く水を飲もうよ!」
「そうそう! 水は誰の物でもないの!」
他の3人も、滝に向かって走って行った。
当然俺も走り出す。
水は冷たく、喉を潤す。
まさに生き返るという言葉がふさわしい。
「ふぅ……ここで、少し休むとするか」
ターンがその場で腰を下ろす。
誰も反対せず、俺達もそれぞれ腰を下ろした。
「……にしても、おなかすいたな~……」
このボヤキは当然ミュラだ。
「……だねー、ボクもだよ」
カルが苦笑しながら、自分のお腹を押さえている。
「あたしも~」
「……この森に入って、ずっと歩きっぱなしだったしな……」
ターンも顔をしかめている。
ミュラの言葉に誰かツッコミを入れると思ったが……全員一緒か。
『……ん?』
ミュラの視線が、俺に向けられている事に気付いた。
何が言いたいのかわかるが……一応聞いてみるか。
「何 だ?」
「ゴブ、なんかつくれない?」
やっぱりか……無茶言うなよ。
ここには食材も、器具も無いんだぞ。
「無理。食材 器具 無い」
「そっか~……そうだよね~」
ミュラがガッカリした様子で首を垂れる。
だが、このまま皆の士気が低いままなのもまずい。
何とかしないと駄目だな。
俺は立ち上がり、辺りを見渡した。
『この沢は小さすぎるから、生き物がいたとしても小物しかいないだろうし……んー……お?』
沢の傍に、赤や黄色の小さな実が実っている。
野イチゴの類だろうか……これが食べられるかどうかわかれば……そうだ。
「カルくん この実 図鑑 載ってない?」
俺は実を採ってカルに渡した。
「え? ちょっと待ってね……えーと………………あ、これ食べられる奴だ」
よし、思った通りだ。
もしかしたら、ここ以外にも身をつけている植物があるかもしれない。
「果物 図鑑 調べる。食べられるの 集める」
「あん? 何でお前が仕切――」
「くだもの、あつめればいいんだね! ナナちゃん、いこう!」
「うん」
ターンの言葉を遮り、ミュラがナナの手を取って走り出した。
「あ、待って! 図鑑を見ながらじゃないと駄目だよ!」
その後をカルが追いかける。
「…………チッ……仕方ねぇな」
ターンも渋々と立ち上がり3人の元へと駆け寄る。
そして、子供達は一斉に散らばって実を探し始めた。
『さて、俺も器具の準備をするかな』
「ゴブ、これでいい?」
大きな葉っぱの上に色々な種類の果物が置かれている。
結構あるもんだな。
「ちょっと 味見 する……もぐもぐ……」
なるほど……味的にキウイ、バナナ、サクランボ、モモ、イチゴに近いな。
これならいけるぞ。
「問題 ない」
「なら、これを食ったら出発するか」
ターンが果物に手を伸ばし、俺は即座に止めた。
「待った。もっと おいしく する」
「はあ? おいしくだって?」
「そう」
俺はミュラへと振り返る。
「ミュラ……お姉ちゃん、お願い ある」
「なに?」
葉っぱで編んだ、即席の器を取り出した。
「これ 凍らせて 氷の器 作って ほしい。簡単に 溶けない様 お願い」
「え? うん、わかった」
ミュラが葉っぱの器に触れる。
すると、みるみるうちに氷の器が出来上がった。
『冷たっ!』
俺は慌ててその器を地面に置いた。
冷たすぎて、到底持っていられない。
「これで、いいの?」
「ああ。後 その果物 冷凍 してくれ」
「ええっ!? これ、こおらせちゃうの!?」
「大丈夫。ただ 氷漬け しない様に」
「……わかった」
ミュラが恐る恐る集めた果物を凍らせ始める。
「おいおい! 凍らせたら、食えなくなるじゃないか!」
それを見たターンが大声を出す。
カルとナナも困った顔をしている。
「大丈夫 だ」
俺は気にせず、小さな滝から水を手ですくい、氷の器に入れる。
「おい! 人の話を――」
「ゴブ、できたけど……これでいいの?」
またターンの言葉をミュラが遮る。
「どれどれ……ああ これで いい。最後 この器に 氷の欠片 沢山 入れて」
「う、うん……」
ミュラは言われた通り、氷の欠片を作り出し器に入れた。
「……よし。ここ 果物 入れる」
器の中に冷凍された果物を入れる。
果物がちゃんと氷水に浸かってないと駄目だから、しっかり確認してと。
「「「「?」」」」
俺の行動に、子供達はみんな怪訝そうな顔をしていた。
「ミュラ……お姉ちゃん。この棒で 中 かき回す」
ミュラに奇麗に洗った木の枝を手渡した。
「これ、まぜればいいの? わかった……ぐ~るぐ~る」
そのまま、中身を混ぜ続ければ……。
「……わっ! 果物の周りに、氷の膜が出て来たの! 綺麗なの……」
その膜ができれば完成だ。
「氷タンフル だ」
「氷タンフル……? 初めて見た……」
カルが目を丸くして氷タンフルを見つめる。
「シャーベットとちがうの?」
ミュラの言葉に、俺は1つ手に取りミュラに手渡した。
「食べれば わかる」
「……う……うん……じゃあ……あ~ん……カリッ」
全員の視線がミュラに集まる。
「……パリパリ……っ! なに、このかんしょく! しかも、つめたくておいしい!」
ぱあっとミュラが笑顔になる。
「本当においしいの……?」
「うん! ナナちゃんも、たべてみて!」
「……う、うん……わかったの……」
ナナは一瞬躊躇するが、器に手を伸ばして果物を1つ掴む。
そして、自分の口の中へと入れた。
「カリッ……パリパリ……ふあ~! なにこれぇ~!」
ナナも嬉しそうに頬を緩ませる。
「これ、シャキシャキして、冷たくて、甘いの……!」
「ゴクッ……ボっボクも!」
ナナに続き、カルも手を伸ばした。
「カリッ……パリパリ……おっおいひぃー!」
「…………っ」
みんなの姿を無言で見ていたターンが、我慢できずに器に手を伸ばした。
そして、1つを掴み口へと運んだ。
「カリッ……パリパリ……わあ……」
ターンは一口食べ、わずかに口元をほころばせた。
が、その姿をみんなに見られ、ターンは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「……ううん! ……まっまあまあだな、悪くねぇ!」
そう言いつつも、ターンは次から次へと果物を口へと運ぶ。
他のみんなも、負けじと果物を手に取って行く。
『ふぅ……これで少しはみんな元気出たかな』
何とかなって良かった。




