第15話
「きゃはははははははははははははは!! ゴブのおしり! まっかっか!!」
四つん這いになり、火傷した尻にコヨミが塗り薬を塗ってくれている。
そんな俺のお尻を見て、ミュラが大爆笑をしているわけだ。
「水火石で火傷をしてしまったというのはあるっスけど、お尻は初めてっスね」
くうううう……それを言われると、すごく恥ずかしい。
「とはいえ、水ぶくれもないし軽度でよかったっス……はい、これで終わりっス」
「ありがとう……」
塗り薬をすらない様に、ゆっくりとズボンを上げた。
「ゴブくんも、ウチのお古で申し訳ないっス」
「いや 気にしない」
むしろ前の服は大きすぎたからな。
子供用でも、着れる服があるって素晴らしい。
「よし、それじゃあ夕ご飯の買い物に行くっスか」
「わ~い! おかいもの~おかいもの~」
「ゴブくん、さっそく今夜からよろしくっス」
よろしくと言われてもな。
うーん……俺からあれこれ言うより、コヨミが作りたい物を聞いた方が良いか。
その方がモチベーションも上がりそうだしな。
「料理 要望 なに?」
「ウチのっスか? そうっスねぇ……あっ! まずは、まよねぇずの作り方を教えてほしいっス! そして、まよねぇずを使った簡単な料理を教わりたいっス!」
簡単なマヨネーズ料理か。
これは難しいな……色々あるから逆に困る奴だ。
そうだ、ミュラにも聞いてみよう。
「ミュラ 何か ある?」
「え? ん~~~………………」
ミュラは険しい顔しつつ、腕組みをして考え始めた。
そこまで真剣になる事もないんだが。
「…………うん、きめた! いろんなさんどいっちをたべてみたい!」
色んな種類のサンドイッチか。
そうなると、ここで考えるより買出しで決めた方が良いな。
「わかった。じゃあ 行こう」
「あ、ゴブくん。これを忘れてるっスよ」
コヨミから手渡されたのはフード付きマントとスカーフ。
そうだった……事情が分かっているのはコヨミだけだ。
ここ以外では当然顔を隠さないといけない。
暑いし息苦しいから、こんな物は無い方が嬉しんだがな……。
マントを羽織り、スカーフでしっかりと顔を隠してから俺達は買出しへと出かけた。
港町はかわらず多くの人で賑わっていた。
さてさて……何をパンに挟みますかな。
辺りをキョロキョロと見ながら歩いていると、元気なおばちゃんの声が聞こえて来た。
「あら、コヨミちゃん! 買い物かい?」
「あっおばちゃん、そうっス」
エプロンをしたふくよかな中年の女性に呼び止められ、コヨミは足を止めた。
コヨミの後ろを歩いていた俺達も立ち止まる。
野菜が並んでいるって事は、ここは八百屋か。
「わあ~! やさいがいっぱいだ~!」
ミュラが目をキラキラさせて食い入るように見る。
そんなに珍しい物じゃないと思うんだがな。
まあ俺からすれば異世界の野菜が並んでいて、ものすごい珍しい光景ではある。
「おや、見かけない子達だね……どこの子なんだい?」
「あ~……え~と……し、親戚の子達っス! 訳あってウチが預かる事になったっスよ!」
「へぇそうなのかい」
「そうっス。それでおばちゃん、今日は何がお勧めっスか?」
「お勧めかい? そうさね~……このジャガイモなんてどうだい? この大きさ、綺麗な球体、おいしいよ」
ジャガイモか。
ふーむ…………なら、アレを作るか。
マヨネーズも使えるしな。
『でも、それだけだとミュラの要望が……ん? スンスン……この匂いは……』
匂いのする方を見ると、フライドチキンを売っている屋台があった。
『おお、丁度いい物があるじゃないか』
となれば、必要な食材が決まったぞ。
「コヨミさん。ジャガイモ2個 玉ねぎ1個 キュウリ1本 ニンジン1本 トマト1個 レタス1玉 買ってくれるか?」
「え? すごく多いっスね……おばちゃん、ジャガイモ2個、玉ねぎ1個、キュウリ1本、ニンジン1本、トマト1個、レタス1玉を下さいなっス」
「あいよ、ちょっと待ってな」
八百屋のおばちゃんが袋を取り出し、野菜を中へと入れていく。
「あと あそこのフライドチキン と ハム ほしい」
「まだ増えるっスか? わかったっスよ。おいしい物、頼むっスよ」
「まかせろ」
口に合うかは……わからんがな。
『ん?』
ふとミュラの方を見ると、興味が八百屋から別の方へと変わっていた。
「……」
ミュラは、黙ってある屋台をジッと見つめている。
「……コヨミさん すまない。アレも 追加 したい」
俺はコヨミに声をかけ、屋台に指をさした。
「ん? アレって…………ああ、了解っス」
コヨミもミュラがジッと見つめている事に気付き、察してくれたようだ。
「はい、全部で110ゴルドね」
野菜を詰め終えたおばちゃんがコヨミに袋を渡した。
コヨミは袋を軽々片手で持ち、財布からお金を取り出す。
「ひ~ふ~み~よ~……はい、110ゴルドっス」
「まいどありぃ」
コヨミは支払いを済ませ、ミュラに声をかけた。
「ミュラちゃん、あの屋台に行かないっスか?」
「え?」
「ウチ、小腹が空いちゃったっス。買い食いしちゃうっスよ」
コヨミがニコリと笑い、空いている左手でミュラの右手を握った。
「うん!」
ミュラもその手を握り返し、嬉しそうに屋台に向かって駆けだした。
「らっしゃい! って、コヨミにさっきの子達じゃないか」
牛肉を焼いていたガタイの良い中年の男性が、驚いた様な声を出した。
そう、ミュラが見ていたのは、俺達がこの港町に来た時に買えなかった……牛肉の串焼き屋だ。
「この子達は親戚の子っス、訳あってウチが預かる事になったっスよ」
「そうだったのか。知ってたら少しまけてたんだがな」
「おじちゃん! 3ぼんください!」
ミュラは左手を上げて、指を3本立てた。
「それも サンド する。4本 いいか?」
「ええっ!? ぎゅうにくのさんどいっち!? ……おいしそう~……じゅるり」
ミュラの顔がにやけている。
その想像している味になってくれたらいいんだがな。
「ここまできたら、3本も4本も変わらないっス。おっちゃん、串焼き4本お願いっス!」
「あいよっ! 4本100ゴルドでいいぞ。……ほら、嬢ちゃん」
店主が1本の串焼きをミュラに手渡した。
「わあ! ありがとう! ――はむっ!」
ミュラは受け取るや否や、さっそく串焼きに食らいついた。
「もぐもぐ……おいしい! すごくおいしいよ!」
ミュラがピョンピョンとその場を跳ねる。
流石に行儀が悪いと、俺はミュラの体を抑えた。
「ははっ! その言葉が一番嬉しいね」
「おっちゃん、ありがとうっス。また買いに来るっスね」
コヨミが財布から100ゴルドを取り出し、店主に渡した。
「おう、またよろしくな」
3人で串焼きを食べ終えた後、残りのフライドチキンとハム……そして重要な卵を買い帰路へと着いた。