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第13話

「ふぅ~満足っス」


「まんぞくまんぞく~」


 2人で全部のマヨネーズを使い切り、幸せそうな顔をして席に戻って来た。

 マヨネーズ1つでここまで喜んでもらえると、頑張って混ぜたかいがあったってものだ。


「……さてと……ゴブくんに、ちょっと聞きたい事があるっスけど、いいっスか?」


「なんだ?」


 もうここまで来たら何でも聞いてくれ。

 答えられる事なら何でも答えるぞ。


「これから、2人で暮らしていくつもりっスか?」


「え? あっ……」


 それは考えていなかった。

 ミュラをこの港町に置いて、去るつもりだったんだからな。


「それは……ああ その つもり……」


 が、こう答えるしかない。

 嘘だとバレていてもだ。


「となると、生活するにはお金が必要っス。その辺りはどう考えてるっスか?」


「……あっ……それは……」


 女性の言いたい事はわかっている。

 ゴブリンの体で仕事を探すなんて無理だ。


「……なるほど、よくわかったっス」


「……」


 女性はどういうつもりで、今の質問をしたんだろう。


「じゃあ、次はミュラちゃんに聞きたいっス」


「なあに?」


「ゴブくんと離れたいって思うっスか?」


「え? それはやだっ! ミュラ、ゴブといっしょにいるもん!」


 ギュッと俺の手を握るミュラ。

 そんな事されると、ますます置いて行こうとした事に罪悪感を感じてしまう。


「そっか、離れたくないっスか。……よし、じゃあ2人共、ウチの食堂で働くっていうのはどうっスか?」


「「えっ?」」


 女性の提案に、俺とミュラが同時に声をあげた。


「それも住み込みっス。もちろん、ご飯も出るっスよ」


 なんだそれは、あまりにも条件が良すぎる。

 これは……裏があると考えるべきか……。


「嬉しい。だが どうして そんな事を?」


 俺の問いに、女性がニヤリと口角を上げた。


「フッフフ……もちろん、条件付きっスよ!」


 やはりか、一体どんな条件を出してくるつもりだ。

 場合によっては、即座に逃げれるように……いや、この人相手じゃ無理か。

 だが、なんとかするしかない。

 俺はどんな言葉が出てきてもいいように身構えた。


「ゴブくんは、ウチに料理を教えるっス!」


「…………はあ? ……料理 ……教える?」


 予想外の条件が出て来て、俺はマヌケな声を出してしまった。


「そうっス! そして、ミュラちゃんはウチのお手伝いをしてほしいっスよ!」


「おてつだい?」


「そうっス! それが条件っス!」


 おいおい、住み込みで働くのにそれでいいのかよ。


「俺 料理 作る じゃないのか?」


 普通はこれだよな。

 食堂だから料理人を雇う。


「それが一番いいっスけど、ウチの厨房は丸見えっスからね。さっきみたいに、顔を隠しながら調理をするのは怪しまれるだけっス」


 確かにそうだ。

 顔を隠した子供が厨房でって……怪しすぎる。


「それに……やっぱりこの食堂は、ウチの力で頑張りたいっス」


 女性が立ちあがり、近くの傷ついた木の柱にそっと手を当てた。


「この店、元々おばあちゃんがやっていた食堂なんっス。繁盛はしていなかったけど、常連さん達が毎日来ては談笑をする……ウチは子供の時からそれを見て育ったんスよ」


 女性は柱から手を離し、厨房の方へと歩き始めた。


「そして、大人になったウチは冒険者として働いていたっス。仕事終わり、休日、嬉しい時、悲しい時……いつもこの食堂に来ては、おばあちゃんの料理を食べて常連さん達と談笑してたっス」


 この人、冒険者だったのか。

 あの殺気に即首絞めの判断……納得。


「けど、2年前くらいに体調を崩してしまって……この食堂を閉めちゃったっスよ」


 世界が違っても、老いがある以上は何処も同じだな。

 俺も子供の頃に行っていた店が、歳だからと閉まった時は悲しかったのが懐かしい。


「毎回ここに来る度、明かりがついていない、談笑が聞こえない……まるで自分の居場所がなくなったような気がして、悲しくて、寂しい気持ちになったっス。そこでウチは思いついたっス! ウチがこの食堂を継いで、居場所を取り戻そうと! そして、その日のうちに冒険者を辞めて、親とおばあちゃんを説得して、この食堂を譲り受けたっス」


 まさに、思い立ったら即行動って奴だな。

 その日に冒険者を辞めるとかすごい人だ。


「でも、ウチには料理の才能が全く無かった様で、色々な物を作ってはみたものの全くうまくいかず……やっと形になったのが、この特製スープだったっス」


 この食堂が特性スープのみって理由がそれかい。

 というか、あの特性スープで形になったって……その色々な物っていうのが逆に気になるレベルなんだが……。


「常連さん達も来てくれなくなって……仕方なく、ウチは副業するしかなかったっス」


「副業?」


 女性は厨房傍の扉を開けて手招きをした。

 どうやら、その中を俺達に見てほしいらしい。


「「?」」


 俺とミュラは不思議に思いつつも席を立ち、扉へと向かった。

 そして、恐る恐る中を覗いてみると……。


「えっ? なにこれ?」


 中は薄暗く、棚が置かれた大き目の部屋があった。

 その棚には、乾燥した植物や何かの粉が入った瓶が数多く置かれていた。


「これ、全部薬の材料っス」


「薬?」


 ああ、漢方薬って事か。

 もしかして、特性スープの材料ってここにある奴を使っているのでは……。


「ウチは薬師でもあるっス。だから、薬を調合して生計を立てていたっスけど……気付けば食料保存庫がこんな事になっちゃったスよ……ううう……」


 ここって食料保存庫だったのか。

 言われなきゃ絶対にわからんな。


「でも、違うっス! ウチは薬屋じゃなく食堂! 料理で人を集めたいっス! だから、お願いっス! ウチに料理を教えてほしいっスよ!」


 なるほど、女性にとっても得する話だな。

 嘘の話をする理由も必要もない……断る意味もない。


「俺 かまわない。ミュラ どう思う?」


「ゴブがいいのなら、ミュラもいいよ~」


 ミュラの奴、何も考えていない感じだな。

 まあミュラがいいのなら答えは決まった。


「うん、交渉成立っスね」


 女性はしゃがみこみ、俺達と目線を合わせた。


「ウチの名前はコヨミっス。よろしくっス! ゴブくん、ミュラちゃん!」


 女性……コヨミは笑顔で両手を俺達に差し出した。


「よろしく」


「よろしくね! コヨミおねえちゃん!」


 俺は左手を、ミュラは右手を掴んで握手を交わした。

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