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7話 片思いの大好きな彼の照れ隠しが全然分からなくて彼を誤解する

「えっ、なっ、なんで……????ついに好きすぎて幻が????」


 しかし何度見ても目の前にノルディックがいる。……しかも私服の。私服のノルディックがいる。黒いVネックの大きめのダボッとしたシャツに黒のぴったりしたズボンという、もう!!!シンプルなのにバランスがいい!!!すき!!!!とダリアが見とれていると、ノルディックは不機嫌そうに腕を組んだ。


「あんたが前もって言ってくれないから休み移動できないかと思ったんですけど」

「私服……っっっ!!はぁっっっ!!好き!!!!」


 休みを移動とか聞こえたはそんな事よりもダリアは初めて見るノルディックの私服が気になってしょうがなくてそんな言葉がつい飛び出た。ノルディックは慣れているのかやれやれといった表情になる。


「…………買い出し行くんですよね。手伝います」

「えっ」

「荷物多くなって大変だから」


 お手伝い??なんで??……休みの日はだいたいダリアは午前中はお使い、午後は部屋に引きこもってじっとして過ごすのだ。毎朝同じ時間に起きて同じ時間に家を出るし、たしかにお使いは荷物が多い。彼は全部知っていたと言うんだろうか。いや、そうとしか思えない。


「なんで…?」

「なんでって…………ただの助っ人です。あんた友達いないから」

「私これまでそんな事までノルに頼んでたんですか…?こんな、こんな使用人みたいな」

「使用人っていうか…………………彼氏、だったんで」

「そんな!!!彼氏という名の使用人じゃないですか!!わーごめんなさい!!」


 もはや悲鳴が上がる。荷物持ちのために?!休みまで同じ日に移動させて!?私のために休みを被らせるとか!?嘘でしょ!?大好きで大事な彼の貴重な休みを!?

 ダリアがあまりに驚愕の表情を浮かべているのでノルディックは面食らったみたいな顔をした。


「え、いや……そんなんじゃ」

「だってそうじゃないですか……」

「ばっ、」


 何か言いかけては黙っているノルディックをダリアは不安そうに見た。……言えないようななにかがあるんだろうか?以前の自分ならなにか心当たりがあったんだろうか……。


「……え、なに、嬉しくないんですか」


 ようやく呟かれたのはそんな言葉だった。


「えっ!?あ、会えたのは嬉しいですし、私服が見れたのもすごく嬉しいですけど……だ、大好きですけど、だからこそ休みを動かしてもらってまで……しかも手伝わせるなんて本当に……悪くて……」


 素直に喜べない自分にもなんだかもやもやする。落ち込みながらダリアが言うと、ノルディックも戸惑った顔でこちらを見ていた。


「あの、前の私はすごく喜んでましたか……?」

「……そりゃ、」


 そっか……、とため息をついた。前の自分がよく分からない。彼が好きなのに思いやりはないのか!!


「……やっぱあの、そんなに俺の事もう好きじゃないっていうか、そういう感じ……とか……?」

「えっ、や……むしろ今の方が好きで大事に思ってる感じがあるというか」

「はあ!?」


 彼が大きな声をだしたのでそれにびくっとすると、それを見てノルディックははっとして「ごめん」と言った。


「……いや、だって今の方が好きは、ないでしょ」

「いやいや、私は前の私が理解できないです……」

「俺が会いにいったら相当喜んでたんですけど」

「嬉しいですけど…!!だってそれ以前に悪いじゃないですか普通に」

「だからなんでだよ……!」


 ……なんだかダリアは、こんなに焦って少し怒っているノルディックに違和感を覚えた。この前ついにようやく知り合いになった程度の関わりしかい間はないはずなのだが、なぜか彼はこんなに感情を表に出す人だったっけ?なんて思ってしまった。彼の性格を詳しく知っているはずないのに、なぜかこの反応を新鮮に感じてしまっている自分がいる。

 過去、ダリアと付き合っていたという彼はここまで感情を出すことはなかったんだろうか。


「……なんか、焦ってるノルが新鮮に感じます」


 正直にそう口にしてみた。きっとダリアよりもノルディックの方が心当たりがないだろうか。案の定、それを聞いたノルディックは口ごもる。


「…………や。確かにそうかもしんないけど。……だってこうなるだろ……」


 すごく悲しそうだった。その表情さえも新鮮だった。

 以前までのダリアには、彼はこんなに焦ったり怒ったり悲しんだりしなかったみたいだ。ダリアもダリアだし二人は一体どんな恋人関係だったんだろう。


「……俺なんも考えずにあんたが喜ぶから行動してたのに。……じゃあ俺どうしたらいいんだよ。あんたは俺がいなくてもいいのかよ」


 そう言って俯く彼は明らかに動揺していて、まるで捨てられた子供みたいに見えた。


「えっと…………なんだか、まるでノルが一緒にいたいって思ってくれてるみたいですね」

「……そうだよ」

「え!?そうだったんですか!?私がいつも頼んでたからとかしょうがなくとかじゃなくて!?」


 そ、それなら大分話が変わってくる!!!!

 ダリアが悪いと思ったのは、ノルディックがそんなに乗り気じゃないと思っていたからだ。だってどう見てもダリアと一緒にいたくて休みをねじ込んで会いにきたようには見えないのに。だから迷惑はかけたくないと思ったのに、……か、かかかか彼も一緒にいたいと過去も今も変わらずに思ってくれているのならそれは純粋にうれしすぎる!!迷惑なんて思わないし喜んじゃう!!!!あれ?よろこんでもいい!?!?!?


「……あんたと一緒にいたいからにきまってんだろ」


 はっきりと言われて、どくんと胸が高鳴った。

 ノルディックのことを誤解していたかもしれない。今までは何となく、冷たいけど面倒見がいいのかなとか、あまりにダリアがベタ惚れしていたから情がわいて断れないでいたのかなとか思ってた。……あの時の彼の涙は、本当に純粋なものだったのだ。


「………………あ、あの…………あの、本当に……??」

「……前のあんたはそういうの全部言わないでも分かってくれてたんですけどね」

「えっ!?あっ!?そうなんですか!?……あ、あの、ちなみに今も?今も……あ、会いたいとか……一緒にいたいとか思ってくれてますか……?」

「会いたくないのにわざわざ来るかよ」


 ……ダリアはどんどん顔が赤くなってきた。つ、つまり??まだ彼はずっと一緒にいたくて、そこそこは好いてくれているということだ。これが元カノへの情だとしてもただただダリアには嬉しすぎた。

 そんなダリアをちらっと見て、ノルディックはため息をついた。


「……まあ、今のあんたって、俺の事は好きでも俺のそういう記憶はないわけだもんな。……そうか、ちゃんと言わないと誤解するのか今のあんたは」


 額に手をやっている彼の頬は少し赤いく見えて、愛おしさがこみ上げてきてしまった。


「……なんですか」

「えへへ別に!!」

「で?なんであんたは壁見てニヤニヤしてたんですか」

「……ノルがこの向こうで訓練してると思うとときめいて……!!」

「……はぁ……」


 言ってからすごく恥ずかしくなってきて、ダリアはフードをスボッッッ!!と深く引っ張った。


「……あの、じゃあ、あの、一緒に、行ってくれますか。おつかい」

「もうあんたのために休み動かしてまで来たんですけど」

「そ、そうですよね……」

「休み返してって感じなんで手伝います」

「……はい……すみません……」

「……っあ、いや、だ、だから!!」


 ノルディックは申し訳無さそうにするダリアに慌てて言い直した。


「すみません今のも、アレなんで……一緒にいたいってやつが、その、前提というか」

「っえぇ?!また悪いなって思っちゃった。すみませんでした!!!」

「……いやだから、なんか……慣れてなくて。そういう事言うの」


 そう言いながらノルディックは歩き出したので、ダリアもそれに続いた。


「て、照れ隠しってやつですか?」

「………」


 彼は何も言わない。しばらく2人で街を歩いた。

 会えたのは嬉しいのに、相変わらず考えれば考えるほど過去の自分の所業にため息ばかりでる。ダリアはノルディックの隣を恐れ多くて歩けなくて、数歩下がって後ろを歩いた。

 ノルディックの後ろ姿を見てなんとなくダリアは考える。休みのたびにこうしてお使いに付き合ってくれていたのかぁ。ダリアが家を出る時間も、通る道も分かるということはそういうことだ。すごいや。


「……あっ!!そうだノル聞いてください!!」

「なんですか」

「師匠に聞いたんですが、記憶ってなくならないんですって!頭の中のどこかに絶対にあって、しまわれてるだけだって言われました。記憶って癖とか習慣に自然につながるし、だから私はノルの事が大好きなままなんじゃないかって」

「…………はあ。………へえ、ああそう。ですか。はい」


 数歩後ろを歩いているダリアから彼の表情は見えないが、なんだかため息をつきながら手のひらを顔にベタッとやっている。

 ……これも照れ隠しなんだろうか。本当は嬉しいのかな。


「あの、ノル」

「なんですか」

「よければ、敬語やめてくれませんか」

「なんで」

「最近どんどん敬語じゃない時多くなってきてるし、なんだか違和感がすごくて」

「まあ確かに……」

「むしろなんで敬語なんですか?」

「……あんたにとっては俺は知らない人だし、馴れ馴れしくしないで距離とったほうがいいのかなって……思っては、いて。どう思われるのか気になったというか」

「気を使ってくれてたんですね」

「……まあそんなもん。何こいつって思われたら嫌で。でも急にいつもの口調に戻すのも俺口悪いし怖いかなって……。まあ他にもいろいろと理由はあるけど、俺はあんたがいいなら戻すけど」

「じゃあ是非そうしてください!!」


 よし!!!!これでノルの喋りづらさが無くなるならいい!!



 

 一件目のお使いは薬草を取り扱う素材屋だ。このお店は小さい頃から結構来ているのでそこまで怖くはない。

 お店に入ると、顔馴染みの女店主が奥から出てきた。


「あら!最近来なかったわねダリアちゃん。ノルくんもこんにちは」


 ダリアは心臓が跳ねた。ノルディックの名前を知っている!!本当に彼の記憶が自分だけぽっかりとないのだと突きつけられて、一瞬息ができなくなった。


「どうも」


 ノルディックだって普通に喋っている。……誰も彼を知らなくなんてなかった。ちゃんとノルディックとダリアが一緒にいたと知ってる人がこんな所にいたじゃないか。


「ダリアちゃんどうしたの?」

「あの!!忘れた記憶を思い出させる薬効のなんか!!薬草とかないんですか!!!」


 カウンターにガッッッ!!と駆け寄って店主に詰め寄ると店主が怯えて後ろにのけぞった。


「えっ!?どうしたの!?お師匠さんがついにボケ始めたの!?」

「私がやばいんです!!!」

「えっ!?病気!?」

「あの!!私いつもこの人とこのお店来てましたよね!?」


「来てましたか」ではなく、もう願いすぎて「来てましたよね」と詰め寄ると、店主は困惑したように頷いた。


「え、ええ。結構来てたわね。最近は来てなかったみたいだけど」

「ダリア!」


 ぐっと肩をノルに引っ張られる。名前を呼ばれてはっとした。


「っえ、あ、は、はい……」

「何買うんだよ。見せて」


 ポケットのメモをあっさり取られてそれにも驚く。メモをいつも入れてる場所さえ把握されているなんて。ノルディックは慣れた様子で店主にメモを見せて買い物をし始めた。


「これください」

「っあ、ああうん。ちょっと待ってね。あぁこれは取り寄せになるねぇ」


 店主は困惑しながらもテキパキと紙袋に商品を詰めていく。


「ダリア財布」

「っは、はい」


 師匠から預かっている財布を渡すと、ノルディックが会計から発注から取り寄せの手続きから何までやってくれた。て、手慣れている………!!


「次行くぞ」


 領収書をもらって当たり前みたいに紙袋を持って、ノルディックはとっとと店を出ていく。


「あっあっありがとうございました……!」


 ダリアも店主に頭を下げて、慌ててノルディックの背中を追った。


「ま、待って待って」

「ねぇよ記憶戻す薬草なんて」


 ぽつりとノルディックが呟いて、ダリアは胸がずきっとした。


「……で、でも。せっかく付き合ってたのに……思い出したくて」

「俺だって探したけどなかった」

「……え?探したんですか?」

「探したよ」


 彼は彼で、探してくれていたのか。ますます胸が痛くなった。


「……たくさん探したけど、俺みたいな魔法も使えなくて頭がいいわけでもない一般人が探したり調べたりできる事なんて(たか)が知れてて心が折れた」

「……探してくれてありがとうございます。でも、お店の人が覚えててくれてよかったぁ。師匠に報告しなきゃ」

「……ああ、そういや言ったんだっけあんたの師匠に。疑われたろ俺」

「その可能性もあるとは言ってましたけど、店員さんの証言を手に入れたので!!」

「俺があの人買収してそう言わせてたらどうすんだよ。街中の人が覚えてるならまだしも」

「……それは」

「ごめんな無力で」


 彼は何も言わないで少し前を歩くいて、絞り出すような声で呟いた。


「無力だし、助けてやれないし、守ってもやれなくて」

「何言ってるんですか!私が強くなります!」

「……いや」

「こちらこそ、未だに付き合わせてすみません。ちなみに城外なら私たちってこうして会っても大丈夫なんでしょうか?」

「……あ、どうだろうな……俺はいつも……の、癖で来たけど」


 そう言いながら、あっこれも照れ隠しかな?と思ってしまった。なんだかそんな感じがして少し嬉しくなってしまった。


「……笑うなよ。次はどこ行くの」

「ふふっ……えーと、雑貨屋と、果物屋と、宝石屋と」

「鍛冶屋は」

「……っあ、そうです、鍛冶屋もです!!」

「砥石貰いに行くんだろ。先に行った方が近い」

「わあ!よくわかりましたね!!」


 ますますノルディックが何度もダリアのお使いに同行していたとしか思えない。砥石なんて金物屋や道具屋で普通は買うものなのだが、鍛冶屋のおじさんが石集めと簡単な加工が趣味で、砥石が捨てるほどあるとかで格安で売ってくれるのだ。大きさも小さくて持ち歩くのにとてもいい。それはダリアとよほど親しくなければ分かるはずがない。


「……あんたの師匠に信じてもらいたいから」


 彼がぼそっと呟いた。


「ええ!!!なにそれ!!好き!!!!!」


 親に認めてもらいたい彼氏みたい!!娘さんをくださいみたいな!!!それが嬉しすぎてダリアは彼に飛びつこうとするが、驚くほど慣れた手つきで、ばしっと額というか前頭部に手を置かれて制された。


「な、なにぃっ!?」


 つい劇の悪役が言いそうなセリフを言ってしまった!!!!……なんだこれは!!!!息がぴったりだ!!!!やっぱり絶対にいつもこの人にこうして制されていたとしか思えない!!!!動きがすべて見切られている!!!!


「分かったって」

「ご、ごめんなさい。つい!!」

「だろうな」

「残りのお店も行きましょうか……」


 そうして歩きながら、ダリアはふと本屋が目に入った。入口の面陳列に最新の銃が特集された雑誌があった。……なんでかそれに凄く目が引かれる。


 ……自然と足が止まってしまった。


 軍関係者向けの武器の雑誌……武器道(ぶきどう)というその雑誌に凄く既視感を覚えた。そもそもこのタイトルが「ぶきみち」なのか「ぶきどう」かも知らなかったはずのに「ぶきどう」だと分かるのが不思議だった。

 銃の事なんてさっぱり分からないのに、なぜかその雑誌が読みたくて、気になってしょうがない。ダリアの足は自然とそちらに向かっていて、そのまま店に入ってしまった。


 ……雑誌を手に取る。ぺらぺらと捲ってみた。


 P13ナントカカントカの後継装備として採用!!新型!!みたいな見出しを、ダリアはぼーっと眺める。内蔵固定式5発弾倉を備えるボルトアクション式小銃とか読んだところで全然分からないのに。……分からないはずなのに、文字列も単語もなんだかとても既視感がある。その文字を読んだんだけで、なぜか頭に知らないはずの銃の構成が思い浮かんでしまった。


 ……いや、これほかの小銃より重そうじゃない?弾倉容量はありそうだけど、小銃にしてはこれじゃちょっと重い。


 ……なんて言うかなぁ、聞いてみなきゃ。

 ……これ、買わなきゃ。……あれ?でも、これ図書館に……、……図書館?


「っおい!」


 いきなり肩を掴まれてはっとした。

 急に街の喧騒や本屋を歩く人の足音や店員と客の会話が一気に聞こえてくる。……さっきまで音がなにも聞こえていなかったみたいだ。


「勝手にどこ行ってん……」

「……あっ!!すみません!!ど、どうしちゃったんでしょう私……」


 ……なに考えてたんだろう今。……聞いてみなきゃって誰に?

 でもこれ買わなきゃ。買いたいって頭が言ってる。ダリアが武器雑誌を手から離せないでいると、ノルディックがそれに気がついて、そっとダリアの手から雑誌を取って、棚に戻した。


「…………買わなくていいから」

「え?な、なんで」

「行くぞ」


 手を握られて引っ張られた。呆然と、彼に握られた手を見て歩く。

 て、ててててて、ててて手を繋いで歩いてる。うっそ。どうしよう。心臓が爆発しそう。好きすぎてどうしたらいいか分からない。


「……あの、て、てててて、手はどうして」

「捕獲してるだけ。あんたがふらふらいなくなるから」


 犬のリードという事だ。なるほど!!結果手を繋いでいるのでおっけーですやったー!!うれしい!!とダリアはつい笑顔になってしまった。


「えへへへへっっあ、ああああの、本当にすみません。自分でもなんで急に本屋に入ったのか……」


 彼は何も言わないでしばらくダリアの手を引いて歩いた。


「あんたの周りにトニーって魔術師は本当にいないの」


 少しして口を開いたノルディックは、雑誌については触れなかった。トニーとは確か、前に彼の前に現れてダリアと別れろと警告してきたという魔術師の名前だ。


「トニーさんは……聞いたことはないですけど」

「髪は黒で中肉中背通った感じの、40代ぐらいの」

「黒い髪の魔術師……3人くらいはいますけど、トニーではない気が……私もあまり他の魔術師と関わりがあるわけではないのでなんとも言えないんですけど……」


 城内を活発に歩き回るような性格だったら心当たりがあったかもしれないが、ダリアはただでさえ職場の物置に引きこもっているし、城内の廊下でさえフードをいつも深くかぶって俯いて歩いてるので、出入りしている人の顔なんて見ない。王子であるエリオットに付き添って子供の頃から王宮にも出入りはしているが、トニーなんて名前の人はいなかった気がする。……そもそも人の名前を覚えるのが得意ではない……。


「……なるほど。あんたに極秘の王命で婚約者が出来たから身を引けってそいつに言われて、そんな訳わかんないやつに訳わかんないこと言われても無理って拒否したら、その次は匿名で魔法便が届いて、あんたから離れないなら記憶から俺を消すって。んな事できるわけないだろって思ってたけど本当で……何だったんだろうなあいつ」

「極秘の王命……?で、でも私縁談とか何も来てませんし、保護者である師匠も何も言ってませんでしたけど……そ、それにノル以外の男の人とかむむむむむむむりです。絶対無理です。王命だろうと絶対無理です……だから消されたんですかね、私の記憶」


 怖すぎる。考えただけで手が震えて、握られた手に少し力が入った気がした。


「……だろうな、あんたは」

「はい!!ノル以外好きになれません!!」

「…………だから結婚して、……やろうと……………………思って」


 びくっ!!!!!と体が跳ねる


「悪いですってそんなの!!私のためだけにノルの人生決めないで欲しいです。ノルの人生が私のになっちゃう。絶対やですよ」

「………………」


 ――……あんたと一緒にいたいからにきまってんだろ。


 ……あ、また「悪いです」って言っちゃった。とダリアはあとから気がついてハッとした。朝彼ははっきりとそう言ってくれてたのに。


 そのまま、2人は黙って街を歩いた。ノルディックは手をずっと離さなかった。もしかして、ダリアを捕獲していると今手を繋いでいるのも、純粋に手をつなぎたかったからとか、はぐれるのが心配だからとか、そういった理由の方が大きいのかもしれない。


 ……これまでの彼の言動を大きく勘違いしていたかもしれない。


 泣くほど、結婚したいと思えるほど、ずっとずっとダリアを好きでいてくれたのだとしたら。


 ダリアはノルディックの手を、きゅっと握った。


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