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6話 片思いの大好きな彼を全力で信じたい

 “俺と結婚する”………??それだけ聞くなら素晴らしすぎる。

 仕事も辞めてしまえば、苦手な人間関係や職場のしがらみからも解放されたりとかするんだろうか。


「……でも、」


 彼が何か言いかけるが、それよりもダリアは腑に落ちなくて、遮るように口を開いてしまう。


「結婚……は、……したいって本当に思ってましたかね私……あ、思ってたかどうかなんてわからないですよね。すみません。でもそう言ってたんですよね……」


 なんだか違和感があるのだ。ダリアはノルディックのことが大好きなのでもちろん可能ならば喜んで結婚したい。しかしノルディックは結婚するほどダリアを大好きだったようには見えなかった。相手の気持ちが伴ってないのに無理やり結婚するなんて大好きなノルディックが幸せになるとは思えない。……と、そんな考えを記憶を失う前の自分もするとダリアは思うので、そんな中彼と結婚しようとするだろうか……??とモヤモヤとしていると、


「またかよ……」


 彼はボソッと呟いた。

 また?と聞こうとしたらノルディックが少し早口に続ける。


「いえ、結婚することになってました。しようって言ってたので。」


「は!?えっ!?そう、そうなんですか!?私そこまでこぎ着けたんですか?!」

「はい」

「ノルは流されちゃったんですか!?好き好き言われてまあ嫁はこいつでもいいかって!?」

「……まあ」

「……ええええちゃんと好きになってもらってから結婚したいいいいいい!!私の馬鹿!!!そんなんでノルが幸せになると思ったんですかね!?」

「っちゃんと!!」


 過去の自分が情けなくて泣きそうになると、ノルディックは慌てて大きな声を出した。それにびっくりしてダリアがノルディックの顔を見ると、しかし彼ももはっとした様子で口を閉じた。また目を逸らされる。


「……いや、まあ、良いと思ったんで、その時は……」

「嘘ぉ……それは本気で……?それとも私に押し負けたんですか?」

「……いやその」

「そっか……そんなに幸せの絶頂だったんですね私……そりゃあ浮かれて仕事辞めるとかいって職場にも迷惑かけそうです。でも師匠にもエリオットにも、先輩にも言ってなかったとなると……ますますどういう考えだったんでしょうね」

「……さあね」

「でも変ですね。辞めちゃったら私ノルを養えないじゃないですか」

「は?」

「私ノルのためにいっぱい働くと思うんですけど。なんでやめるって言ったんでしょう?宮廷魔術師は高給取りなんですよ」

「……それ、は、その。俺のせいで」


 言いづらそうにぽつぽつと話し始めた。


「あんたの職場、あんたに仕事押し付けまくってて、そんなんでいいのかって俺が言ったから」

「え?」

「ほかにもいろいろ……あんたが不憫に思う事が多くて。そんなんならやめちまえよって」


 ノルディックがすごく申し訳なさそうに、ひどく後悔している様子で言うが、ダリアはポカンとした。そしてすぐに感嘆の声を上げる。


「っえ、すごい!」


ダリアは人間が怖すぎてまともに人間関係を築けない性格のうえに両親もおらず頼れる人が誰もいない状態で、拾ってくれた師匠であるオリヴァーに寄生する形でなんとか生きてきた。オリヴァーのつながりで仕事もできているしエリオットという友達もできたし、宮廷魔術師でいないと生きていけないに近い。なのにそれをやめてノルディックと生きていくなんて……でも、過去の自分はそう決断したのだ。


「は、はあ?だからあんたは俺に(そそのか)されて、」

「ノル凄いですね!私のために私の事説得してくれたんですか!?私絶対に魔術師団やめてほかで生きていく自信ないんですけど、きっと納得して自分からそう言ったんですね。さすがノルだぁ大好きです」

「……あんたさあ、やめて生きていく自信絶対にないって今思ってるのに、俺の話信じれんの?」

「でもそうだったんですよね?」

「……っそうだけど!!」

「じゃあきっと、その時の私は納得してたんですよ。きっとノルのおかげですっごく強くなってたんですね。……なのに、」


 ダリアは悔しいのと悲しいので俯いた。


「折角支えてもらって強くなれて結婚しようとまで言ってたのに……ごめんなさいこんな意気地なしに戻っちゃって……」


 もう無理。悲しすぎる。今の自分がこんな意気地なしなら、そりゃあ今の彼に好きになってもらえるわけない。しかも結婚してもいいかもとさえ思わせておいてダリアは忘れたのだ。……最低すぎる。


 ……そう思っていたら急に、ノルディックは優しくそっと髪を撫でてきた。


 いつもこういう事をされると怯えてびくつくのに、ノルディックの手はなんだか全然怖くない。……ちがう、慣れている。きっと自分はよくこうされていたに違いない。ダリアは思わずうっとりと目を閉じた。はぁ幸せ……こんな幸せがあっていいのか……。というか未だに大好きな人の膝の上に座ってるし、その大好きな人が頭を撫でてくれている……。と、とろけていたら、手がふっと離れてしまった。目を開ける。


「……終わりですか」

「え?」

「もっと撫でてください!!」

「……ああ、はいはい」


 ねだると彼は嫌そうな顔はせずにまた撫でてくれた。幸せ!!!


「すみません私ばかり要求して」

「いや……」

「ジャムサンドまで貰ってるのにさらに報酬を要求してしまった……」

「いいですよ別に」

「すみません大好きすぎて……」

「……今に始まったことじゃないんで。ただ、また記憶消されたり他になんか起きないかは本当に心配で」


 その時、休憩が終わる鐘が鳴った。あっ時間ですね!!とダリアはノルディックの膝から降りて、くしゃくしゃになっていたローブの下のワンピースのスカートをはたいた。


「っえ、ちょっ短くない?あんたの服」

「え?」

「っあぁいや」


 ……あれ?確かに。前はロングのスカートかショートパンツばかり着ていた気がするけど、ここ最近なんとなく膝上のワンピースばかり着ている。今日の服も黒いワイシャツがそのまま膝上まで伸びたような丈のワンピースで、膝上というよりはミニ丈に近い長さだった。大きいローブを着ているので下に来ている服はほぼ目立たないのだが。


「それよりごめんなさいずっと乗ってて。重くなかったですか」

「……全然」

「あの、私明日お休みで……意識失わないですか?」

「は!?明日!?」


 彼の声が大きくなった。少し焦っているように思えるが声に驚いてビクッとする。


「え、あ、明日です」

「はやく言えよもう……」

「えっ!!ごめんなさい。魔法足りないですか?」

「それは足りる。いいから早く行って」

「よ、よかった!じゃあまた明後日!!」


 そのままダリアは隠し部屋から駆けだした。


 ……それを見送って、ノルディックはため息をつきながら脱力した。

 しばらく膝に残る体温と感触を感じたまま椅子から動けずにいた。自分の隊はこの後特に何もなく自主訓練なだけだし、こんな歩兵のヒラが一人いなくてもどうせ誰も気づかない。


 ……言いふらしたのか、今回は。

 その事実が未だにノルディックには何だか信じられなかった。前までのダリアは頑なに自分の存在を人に言わなかった。こちらとしては言って欲しかったけどそんな事言えなかった。……ネガティブが過ぎる性格なので、ノルディックは自分の事なんて周りには言いたくないんだろうなと思っていた。

 そのせいもあって、ダリアが記憶を消されるなんてとんでもない事をされても誰にも訴え出る事なんができなかったのだ。


 と、そこまで考えて、でも今回のダリアが自分の事を信頼できる人に言いふらしているなら、このまま周知の事実にするというのもありなのではないかとも思った。危険もあるかもしれないが、もう再び関わってしまったのだ。そうすればまた記憶が消されても今度は周りが覚えているし異変に気がつける。また同じことが起きても実行犯にとっては、前回ほどの効果はないのではないだろうか。

 ……それとも、前の状況であれば記憶が消される程度で済んだが、今度は自分が殺されたり存在自体を消されたりといった事が起きるんだろうか。どうしたらいいのか分からない。

 できるならノルディックは自分のことが好きだともっと言いふらしてほしいが、もしそのせいでもっと取り返しのつかないようなことが起きると思うと悩ましい。


 ―― ダリア、付き合わなくていいの?

 ―― だってノルを付き合せたらかわいそうで…!!


 ……付き合いたくてしょうがなかったのに、あいつはいつも肝心なところで俺を縛り付けてくれなかった。

 俺の事が大好きでしょうがないのに、大好きすぎていつだってあいつは身を引く。俺が好きだって言えなくて、なにも行動に移してやれなかったから。


 ―― ひとまず、この部屋の中だけでしたら今すぐにでもお付き合いします。どうですか

 ―― す、好きですけど、だからって付き合いたいわけではないので結構です


 二回目だってそうだった。

 記憶が飛んでも結局惚れられて、あんなにまっすぐ好きって言われて。なのにまた。……結婚の話の時だって。


「……ちゃんと好きだったのに」


 今更呟いたって、もう彼女は部屋にいない。




 ――その日の夜。

 ダリアは夕食時に、話があります!!と師匠のオリヴァーに切り出した。


「んあ?なんだよ改まって」


 菜食主義のオリヴァーは豆がたくさん入ったサラダをバリバリと食べながら促した。


「師匠にすごく面白い話を持ってきました!」

「なんだと!?よしこい!!」


 オリヴァーは長生きしすぎて日々に退屈しており面白い事に飢えている。まずこう宣言しておかないととっとと食事だけ食べて部屋に引っ込んでしまうことがあるので先に言っておいた。


「私記憶が消されてるみたいなんです!!」

「何ぃ!?!20点!!!」

「えっ!!!待ってくださいまだ終わってません!!!!なんと私、あの大好きでしょうがないノルディックさんと付き合っててその記憶が消されてたんです!!だから大好きだったみたいです!!!」


 オリヴァーは愕然とした。……師匠が愕然とするのをダリアは初めて見たかもしれない。


「……は?」

「すごいんですよ、言われてみれば本当だと信じざるをえないくらいに日々の習慣の中に明らかにノルがいて」

「なんだそれ。本当か?そいつに勝手に言われてるだけじゃなくて?お前が付き合ってたのなんて一言も聞いたこともないぞ。騙されてるんじゃねーのか」


 ……やっぱり。普通そう思うよなぁとダリアは苦笑いした


「なんか、私全力で隠して付き合ってたんですって」

「証拠は?」

「証拠は……まず、聞いたことのないはずの彼の声が分かったのと、食べたことないはずのサンドイッチに覚えがあったのと」

「……そういうのだけ?なあ、記憶を消すより、既視感を植え付ける方が魔法としては簡単だぞ。記憶を消すなんてただでさえ難しどころか、普通は一時的に思い出させなくすることしかできないくらいなのに、たった一人の記憶だけきれいに永遠に消すなんて相当だぞ」


 ……それも、確かに。オリヴァーならそう言うと思った。

 でもダリアには確信に近いものがある。これをどうやって説明したらいいんだろう。


「……ま、まだありますよ。ノルの名前を知らないうちに愛称で呼んでたり」

「知らないうちに呼んだのを自分で気づいたの?後からそいつに言われたの?」

「……あ、後から言われました」


 オリヴァーは真剣な顔で腕を組んだ。信じてもらえているような様子ではないが、しかし彼をここまで真剣な顔にさせる事はなかなかできない。話題としてはいい題材だったみたいだ。


「お前さっき俺の事師匠じゃなくて先生って呼んでたぞって言われたらどうする?」

「えっ?」

「覚えてない事をそう言われても証拠にならない」

「あっ、で、ですけど!!あの、だからこそこれが本当かを調べたいんです。調べる方法ってありますか?」


 オリヴァーはしばらく唸って考え込んだ。


「……ダリアよくやった。楽しすぎるなこれは」

「は、ほんとですか!!」

「ああ。でも秘密にしてたのになんで消されたんだよ。誰かに言ったのか」

「……それが、彼によると、」


 ダリアはできるだけ正確に、ノルディックに言われたことをそのまま説明した。オリヴァーは口を挟まずに真剣に話を聞いてくれた。


「……真偽は置いておいて」


 オリヴァーは険しい顔をして、130年生きてるのにまだまだふさふさの深緑の髪をガシガシと片手で頭を掻いた。


「お前ってモテんの?」

「モテるわけないです。そもそも引きこもってるので出会いがないです。ロシィ先輩がボディタッチしてきますけどあの人は皆にあぁです」

「……普通は、お前の事が好きだから彼氏の記憶消したいが一番動機としてしっくりくるんだけどな。……あの坊主(ロシィ)の魔力で記憶消すなんて芸当できないと思うが」

「……ロシィ先輩ドジですしそんなに仕事できないですしね」

「ああ」


 二人で無言になってしばらく考える。


「なので、もし私がノルディックさんを忘れてたらちゃんと教えてくださいね師匠」

「ああ……本当ならだけどな」

「嘘でもいいです!!!好きなんです!!いいチャンスです!!!」

「……はじめ、急にお前が一目惚れしたとかそんなこと言いだすから……しかもお前その頃よく熱出たりもしてただろ」


 ……確かに。ダリアは頷く。


「で、お前が惚れ薬とかそういう系の薬飲まされたり、意識操作の魔法かけられたりしたのかと思ったんだけどな。いろんな解毒薬やら魔法の解除薬やら飲ませまくっても変わらずそうだったから。逆だったんだな。」

「はい!??!」

「記憶が消されて、頭に異常が起きたから熱が出て頭痛がしてたんだな。しかもそのあとノルディックに会っちまってまた好きになって、違和感でまた高熱や頭痛が続いたと。なるほどなぁ」


 初耳だ!!いつのまにそんな薬を!?と思ったが、あの体調の悪い期間に訳の分からないまずい薬を大量に飲まされていたのをダリアは思い出した。あれかーーーー!!!!いい機会だからって!!!治験に使ったな!!!でも仕方ない。弟子とは時に師匠のモルモットだ。


「それか誤認する魔法でもかけられてるのかと思ったけど、お前にだけあいつが王子様に見えてるわけでもなかったみたいだし」

「王子様なんてやめてください。王子様にない彼の魅力が分からないんですか。平凡で目立たないのがいいんです。いや、もうあの存在が好きと言うか」

「……純粋な疑問だが、記憶がないっていうのに何でそんなに好きなんだ。好きになったきっかけ覚えてんの?」


 ダリアは何も覚えていない。……ただ漠然と好きだ。ときめいてしょうがない。


「……普通、惚れた経緯も忘れたら好きっていう感情ごと忘れるんじゃねぇのか。だから俺的に考えると、記憶が消えたというより魅了系の魔術にでもかけられてるとしか思えない」

「……でもっ」


 魅了の魔術はそんなに都合のいいものではなかったはずだ。しかし、魔術は術者やかけ方、発動方法によって個人差が大きくでる。無限の可能性があるのだ。魅了の魔術でこれだけ盲目的に好きにさせることも、特定の人物の記憶のみを消すこともありえない話ではないのだ。だから師匠はいつだって自分の経験を過信してなにかを決めつけることはない。……だからこそ。


「ただ話だけ聞くと、俺にはノルディックの方がお前を懐柔したくて都合よく話を捏造して、記憶を消されたと嘘をついているとしか思えねーけど」


 ……そう言われると思ったのだ。

 でも、ノルディックははじめ、頑なにダリアに突き立っていたことを隠していたのだ。ダリアが泣いたからしょうがなく話してくれて、危ないからもう近づくなとまで言って。


 ―― 俺だけ、忘れれば、あんたも安全だし、何の問題もない話のはずだったのに


 そう言いながら、声を押し殺して泣きながら抱きしめてくれた彼が、嘘を言ってるとダリアには絶対に思えなかった。


「記憶はなぁ……簡単に魔法でどうこうできるもんじゃねーからなぁ……いいぞダリア。ここ50年くらいで一番楽しい話題持ってきやがったな」


 しかしオリヴァーは前向きに、楽しそうに笑うのだった。


「一緒に考えてくれますか!!」

「ああ。ただ師匠が弟子の課題を全部とるわけにはいかない。あくまでもお前はお前でがんばれ」

「はい!!!愛する人を証明します!!!」

「いいねぇ若いって」


 師匠はいつだって決めつけないし、なんやかんや突き放さないで力になってくれる。これだけ長く生きているのにそういう所が大好きだ。彼のことを疑いつつも、同じくらい別の可能性があるなら彼を嘘つきと断言しない。

 オリヴァーが師匠でよかったと、この時心から思った。


「まぁそうは言ったが、俺が今言ったのは本当に記憶が消えた場合の話だ」

「はい?」


 記憶が消されてないとでもいうんだろうか?でも覚えてないのに。とダリアが首をかしげると、


「記憶が消えたんだとしたら、惚れたことも分からなくなるとは思うんだが、お前は覚えてるだろ。それに記憶ってもんは、俺の経験上だがそんなに単純にできてない。記憶が人間個人そのものを構成すると思ってる。……これまでの人生の全部の記憶がつながって一つの人間ができてるんだよ。特定の何かだけを消せるわけがないと思うんだよな。分かるか?」

「……でも、私ノルの事、全然……」

「お前は記憶が消されたとか言ってるが……おそらく、記憶はなくなってはない。頭ん中のどこかに絶対にあって、今そいつの存在だけ遠くにしまわれてるだけだ。だからこそお前の体が覚えてたり、何気ない行動にそいつの存在が出てきたりするんだろ。味とか音とかに覚えがあるのがその証拠だよ」


 記憶は、なくならない…?

 でも、そう言われると、確かにと言った感じだ。消えたのではなく、遠くにある。だから習慣に残っていたり感覚に覚えがあって、好きという気持ちも残っていたんだろう。


「思い出してやんな。きっと思い出せるはずだから」

「……は、はい!!!」


 少しだけ希望が見えた。




 ――翌日。今日は休日だ。

 ダリアは昨日の事があって朝からご機嫌だった。

 彼と過ごした昼の事、オリヴァーに背中を押してもらえた事も全部しっかりと日記に書いた。がんばるぞ!!!と20回くらい力強く書いた。


 朝から家の掃除をした後に、冷蔵庫に貼ってある沢山のメモを見る。これはオリヴァーが普段買って欲しい材料や日用品、使い切ったから買い足しておけといったメモを都度ここにばんばん張っていくので、それらをリストにまとめて買いに行くのが休日のダリアの仕事である。お使いリストをローブのポケットに突っ込むとダリアは家を出た。


 外に出る時、ダリアはフードを深く被る。見知ったお店以外は怖くて入りたくないのだが、お使いではいろんなお店を回らないといけない。気分が重いなぁと考えながら曲がり角を曲がると、軍の訓練場の脇の道に入った。

 高い塀があって中は見えないが、この塀の向こうにはノルディックがいる。そう思うと冷たい石の塀でさえ愛おしくてダリアが自然と笑顔になった。


 しかしふと、視界の端で誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。うわあ人だと思ってフードを被り直しうつむくと、その人がどんどんこっちに近づいてくる。え、ぶつかる気?え?強盗?スリ?とか思ってフードをぎゅっとして身構えていると、視界の端で人の足が立ち止まった。


 ……だ、男性の足?


「……何笑ってんですか」


 ビクッとしてその人を見ると、……まさかの、まさかの!!!!まさかの私服のノルディックがそこに立っていた。


「えっ、ななんで!!!!!」


 塀のむこうにいるはずなのでは!?!?!

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