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3話 片思いの大好きな彼と私の関係が意味不明

 

 ダリアが扉をそっと開けて隠し部屋の中を覗うと……やはりもういる!!!!

 移動が速すぎでは無いだろうか。ついさっき昼休憩になったというのに彼はすでにテーブルに着いていた。あ、あわわわわわわわわ!!!!今日もかっこいい!!!!パニックになりかけるが、今回は自作の薬っぽいのが効いているのか効いていると脳が思い込んでいるのかわからないがなんだか冷静な気持ちで部屋に入れた。


「どうぞ」


 失礼しますと言って部屋に入って、どうぞと席に促される。まるで面接会場みたいだ。今回ダリアは椅子に座らず、急ぎ足で真っ直ぐノルディックの元へ向かった。魔力を流すやつをやるなら早い方がいい!!即やって即終わろう!!


 ダリアがノルディックのもとに向かおうとしたら、それを見た彼は急にガタッと立ち上がった。

 ……それにびくっとしつつも彼の前に立つ。……むこうに立たれると、彼は背がそこそこ高くダリアは小柄で背が低めなので頭に魔力を流すのがちょっとやりにくい。なんで立ったんだろうこの人……。


「……あ、あの……手が届かないので……座ってくれませんか……先に魔力流すのやります……」


 そう恐る恐るダリアが言うと、彼は一瞬きょとんとして、はっとして慌てた様子で椅子に座った。


「……あ、すみません……つい」


 つい?つい体が反応するくらい警戒されてたり嫌がられてたりするんだろうか。仕方のない事だが多少気落ちした。


「……失礼しますね」

「……あの、ダリアさん。ゆっくり優しく片手でお願いします」

「えっ、あ、もしかして前回不快でしたか……」

「……雑なのはちょっと。せっかくなので」

「は、はい……」


 たしかに昨日は犬を洗うように両手でガシガシとやってしまった。たしかにあれは不快だっただろう……また気分が下がってしまった。はあ……大好きな彼になんてことを……。

 要望通り、今度はちゃんと人の頭を撫でるように片手でなでなでと手を動かした。魔力を流し込みながらゆっくりと頭を撫でる。


 ……なんだか…………。

 ……あれ?……懐かしい感触だ。


「……んっ」


 ゾワゾワするのだろうか。彼から吐息が漏れてドキッとした。

 っあ、え、なんだろう、なんだか変な気持ちになってくる。頭を撫でているだけなのに。


 人の頭なんかダリアは撫でた事ないはずなのに、彼の頭はなんだかとても撫でやすく感じた。好きな人効果というやつなんだろうか。彼の癖のある髪をふわふわと優しく撫でていると、なんだか胸がきゅっとする。


 ……この、何かを直すとか治療するとかでもなく、ただただ魔力を流すという行為にどんな意味があるんだろうか。本当にこれで彼は大丈夫なんだろうか。彼から時折聞こえる吐息がなんだか変な気持ちにさせるし胸は苦しいし心が落ち着かない。


「……あの、気分悪くないですか?……もういいですか……?」

「……やめたいですか」

「っいえ、やめたいとかではなくて……どのくらいすればいいのか分からなくて。あまり触るのも……失礼かなっていうか……なんというか……」

「嫌なんですか?」


 怒ってるような声が聞こえてきて悲しくなる。違うのに。


「ちが、触ってていいならずっと触ってたいですけど……」


 泣きそうになってついつぶやくと彼が少し顔を上げた。


「は?……なんで。俺の事好きなんですか?」

「……………わあああああ」


 すきー!!!!!!!!全部だいすきー!!!!!!!とはいえずに、でも怒る彼は見たくないし怖いしもう限界で、ダリアはノルディックの頭から手を離すとフードを両手でもってぼふっと被ってその場にしゃがみこんだ。

 椅子に座っている彼のすぐ足元にしゃがみこんだので、目の前に彼の軍靴が見える。うちの軍はジャケットタイプの軍服で靴は革靴とハーフサイズの編み上げの軍靴があるのだが彼はさっきまで訓練をしていたのもあって今は編み上げの軍靴を履いていた。……なにこれ好きかっこいい!!!!足まで好き!!!!


「……え?好きなんですか」

「……んんんん……っ」


 呻くことしか出来ない。目が回って頭が痛い。足も本体も全部好きー!!!!!!!


「……なんで」


 ノルディックは困惑している様子だった。……この空気がきつい!!今すぐ帰りたい!!


「も、もういいですか!!帰っても!!」

「待って、今日の報酬を食べる所までしていってください」

「……うっ!!!あっ!!!ジャムサンド!!」


 ノルディックは今にも逃げそうなダリアの手を捕まえると、いつものジャムサンドをおしつけて向かいの席まで引っ張った。


「ほら食べて」

「…………あの、なんで毎回……」

「あなたがおいしそうに食べるので」

「確かにとてもおいしいですが……」


 ただのジャムサンドなのに、なんでこんなにおいしいんだろう。これも好きな人効果でおいしくなってるんだろうか。……確かに元から好物ではあるんだけど……。


「……あの、おいしくなる魔法でもかかってたりしますか」

「そうかもしれないです」

「そんなのあるんですか!?すごい!でも確かに味覚に関与するのを使えばいけるかもしれないですね。旨みの成分をいい感じにこう……」

「そういう魔法じゃない魔法です」

「……え?」

「いいから食べて」


 なんでそんなに食べさせようとするんだろう。でも大好きな彼が言うなら何でも言う事を聞こうと思う!!

 ただでさえ毎日怒らせているし少しでもノルディックを悲しませたくないし喜んで食べようと思って、結局ダリアはばくばくジャムサンドを平らげた。やっぱりどこのジャムサンドより美味しかった。


 ……その日も、たったこれだけで終わった。

 ダリアは逃げ出す様に隠し部屋を後にした。




 ――これはいけない。

 毎回この昼休憩は体がもたない。そう思ったダリアは、その足で宮廷魔術師の資料室兼図書室へ向かった。ダリアが休憩室に使っている隠し部屋の隣にある国民なら誰でも入れる一般図書館とは違い、身分ある魔術師しか利用はできない場所でここには貴重な資料や魔術に特化した書籍がたくさんあるのだ。

 そこで今のノルディックの状況を打破できないかと本を読み漁ったが、そんな特異な状況の解決策など見つける事はできなかった。医学書も読んでみたが内容が難しすぎて全然分からないし、どこの項目の何を探せばいいのかすら分からなかった。


 ……そうなれば、もうこの国で一番魔術について詳しいであろう我が師に聞くしかない。結局最終手段はこれしかなかった。ということで、俺の事は絶対に話すなとノルディックに言われているダリアは、なんとか症状というか症例だけを話して心当たりがないかと聞いてみることにする。彼と関わっている事を知られなければよかったはずだ。……お、おそらく。ただ症例に心当たりがあるのかを聞くのは問題ないと思う……な、ないと思いたい。


 その日のお勤めが終わり、師匠であるオリヴァーと一緒に家に帰ったダリアは意を決して食事中の師匠に切り出した。


「あの師匠。魔法医療で頭の怪我を治して死にかけた人を助けたとして、後遺症って何が残りますか?」

「あ?そんなの部位と状況によってありすぎる。脳なんて一番複雑なんだから……まあ一番多いのは言語障害とか身体の痺れだなあ」

「……治療のために脳や体に大量の魔力を流して怪我を治した場合、治療した術者の魔力を定期的に与えないと機能が停止するとかって……あるんでしょうか……」


 そう聞くと、オリヴァーはポカンとした。


「……はぁ?聞いた事ないなそんなんは。例えば脳って言うと……機能が停止って、脳死って事か?俺だってこの世の全てを知ってる訳じゃないからなんとも言えねーが、もし術者の魔力が定期的に必要なら一生そいつ無しじゃ生きていけないって事だろ?そんなのは今のところ一件も聞いた事ない」


 ……確かに「一生」と彼は言っていた。

 あれ??ダリアは首をかしげる。オリヴァーは宮廷魔術師の総統で、この国の魔術をすべて把握しているのだ。もしも未知の症例がでようものならよろこんで様子を見に行くような人でもある。オリヴァーが国内で発生したノルディックの特殊な症例を知らないなんてことがあるんだろうか?


「もしそんな奴いるなら是非紹介してくれよ。この世にまだ俺を驚かしてくれる事象があるなんてときめくわ。是非研究させてくれ」

「……あっ、いえ、本を読んでて、仮説で」


 はあなんだつまんねー!!と師匠はそれ以上追求してくることはなく、残りの夕食を食べきった。


「そんなことよりお前は早くあの(ひら)軍人に告白でもしろよ。そっちの方が楽しみでならないんだが」

「はっっっっ!!??!?!」

「いけるだろ。宮廷魔術師やってるような高給取りのそこそこ顔整ってる18歳の女子が大好きですって言ってきたらあんな普通の男子なら一発よ。勇気をだせ勇気を」

「ちょっと彼のことそんなふうに言わないでくだ……はぁあああああ!!?!?!?!」

「あ?」


 ……ダリアは気がついてしまった。

 待って、私が彼の事を好きすぎて死にそうだと幼馴染のエリオットと師匠のオリヴァーはすでに知ってる。でもノルディックは絶対俺の事は言うなと何度も釘を刺していた。……こ、こここここれは大丈夫なんだろうか。口止めされる前に彼の事を話してしまっていた。これは彼にとって何か不利にならないだろうか?


 ……もしかして。

 なんで思い至らなかったんだろう。ダリアは愕然とした。

 ノルディックには彼女か好きな人がいるんじゃないだろうか。だからダリアと関わっていることを知られたくないし、特定の女子と一生関わらないといけない事実を隠したいのでは。……普通に考えたらそうじゃないか。


「どうした今度は真っ青になって。お前本当に最近おかしいぞ。働きすぎて頭やったか?なんか薬作るか?」

「……あっ、サプリメントっぽいのは自分で作ってます……」

「一度点数つけるから提出しろ」

「うえええええはいぃ」


 何卒甘めの採点をしてほしい。師匠は本当に厳しいのだ。


「あの……師匠……ノルディックさんに彼女いると思いますか……?」

「知るか」


 ですよね。



 ――翌日。


「28点……」


 ダリアはいつもみたいに王宮の渡り廊下から眺めながら、あまりにも低かったメンタルケアサプリメントの点数と、何がダメだったか羅列されたレポートを思い返して気落ちしながら午前休憩中の軍人たちの群れのなかから今日もノルディックを探していた。評価に「ただのまずい液」と書かれてしまってはもうあの薬が薬だと思い込むこともできなくなってしまった。ただのまずい液だあんなの……。


 ……あ、いた。ノルディックが一人で隅の方にいる。今日も防御魔法をかけた。


 ……彼女いるのかなぁ。

 見てるだけで良かったはずなのに泣きたくなってきた。

 嫌そうな顔をされるのも辛かったけど、彼女がいてその上に煙たがられてたとしたら、もういよいよどうしたらいいか分からない。

 もし彼女がいたら密室でダリアと会わないといけないのも、その後の人生ダリアの魔力をずっと定期的に流さないといけないなんてのも本当に迷惑でしかないだろう。あんな嫌そうな顔にもなる。




 ――しかし、今日も彼の身体に魔力を流さなければいけない。

 ダリアはおもたい身体をなんとか動かしてその日の昼も隠し部屋に向かった。……足が重すぎる……。

 扉を開けると今日もノルディックは先に来ていて、席に座って待っていた。


「……あの、ノル」

「……は?」


 いきなりこの対応。もうダメだ大鍋の中に溶けてなくなりたい。魔法薬になりたい。飲んで欲しい。


「彼女いますか……?」

「はあ!?」


 そんな事聞いてくるんじゃねぇとでも言いた気な声がして、びくっとしてもう今すぐ逃げたいけどとりあえず今日分魔力だけ流さないと彼が死ぬかもしれない!!と思ってダリアはなんとか踏みとどまった。


「いない……というか待って、今」


 ボソッと「いない」とノルディックから聞こえてきて、ダリアははっと目を見開いて、……心から安堵した。

 よかった。彼の幸せをぶち壊すかもしれなかったし、こっちのメンタルもどうにか保てそう。


「……あの、ノルディックさん……」

「………………なに…………」

「……あなたの事を言ったわけじゃないんですが、うちの師匠に症状だけ同じようなことってこれまでにあったのかって聞いたら、こういった事例は今まで聞いた事ないって言ってて……」

「……話したの」

「あなたとは言ってません!!副作用とか症状について聞いただけで、……っあ、あの、……それでもう一つ、つかぬ事をお聞きしたいのですが」

「なんでしょうか」

「……あの……こういう事が起こる前から、ノルディックさんの話を師匠やエリオットにする事があったんですが…………それは今後あなたにとって何か不利になりますか………………もうすでに話しちゃってて……」


 ……彼は何も言わなかった。しばらく戸惑いながら考えている様子だったが、すこしして口を開く。


「……どういう事。待って、詳しく話して」


 ひえええ!!!!と今にも逃げ出しそうなダリアの手を掴んで席に座らされ、彼が向いにあった椅子を隣に引きずってきて座った。壁と彼に挟まれてしまってもう逃げられない!!!!真隣に彼が座っている!!!!ち、近い!!!!頭が痛い!!!!


「今日はちゃんと話をしましょう」

「うわああああいやいやいや!!そんなに畏まって話すほどの事ではなくて……!!……あ、あのあのあの偶然……そちらを見かけて……あんな人いたんですねと言った話を……」

「俺のどんな話をしてたんですか」


 彼の顔がすごく険しい。……しかし、「すっごい好みのタイプの人だ!!!!一目ぼれしちゃったどうしよう!!!!!!あの人誰だろう!!!!!!」と大好き過ぎて狂ってたなんて言えない。なんとなくすでにノルディックはダリアが自分の事を好きだと察していそうだが、これを改めて言うのは告白するに近い。何度も無理です言えませんとダリアは言ったがノルディックも全く折れなかった。


「言えよ」

「これだけは勘弁してください……!!!!本当にあんな人いたんですねと言った話だけです!!!!」

「………………ねぇ、なんで隠すんだよ」


 ずっと怒っていた口調だった彼が急になよなよとし始めた。なんだかすごく悲しそうな、泣きそうな声をしている


「もうやめてくれ……」


 絞り出されたような声に心臓がぎゅってした。大好きな人のこんな声聞きたくない。


 ……もういいや。

 ダリアは覚悟を決めた。


「あの、ずっといいなって思ってて……好きで……遠くから見てて……」

「………………え」

「師匠とエリオットにだけ……軍人の中に凄いかっこいい人がいるって話をしてて……でもそれだけです!!こうなってからの話は一切してません!!本当です。だからそんなに大事では……」


 しばらくノルディックは隣でずっと無言だった。

 もうだめだいたたまれないぃ!!「いや俺あなたのことはちょっと」とか言われるに違いない。もうだめだ失恋5秒前だ。……そんな気持ちで絶望していたダリアだったが、ふいにノルディックは大きなため息をついて、全身から力が抜けた様子で額に手をやった。


「あんた言いふらしたの、今度は」

「今度っていうか、前の話です!事故の前の話で……、」

「……ああ、分かった。分かったんだけど……」


 ノルディックは今度は両手を顔にやってうつむいた。酷く悩んでいる様子だった。


「…………………………どうするか……………………」

「……ご、ごごごっごごごめんなさい。本当にただの一目惚れというか、それだけで……」

「だから俺に防御魔法をかけたり魔法薬をわざわざうちの隊に送ったりしていたと」

「ん゛っ!!!!!!!!!」

「やっぱりあの寄付されてくる薬はあんたか」


 今すぐ逃げたい。逃げたいけど隣は壁、隣は彼、後ろは狭い、前はテーブル。……逃げられない!!!!逃げるとしたらテーブルに飛び乗って逃げるしかないが大好きな彼の前でそんなお転婆をしたらますます嫌われそうでできない。


「……好きなんですか」


 彼に改めて聞かれる。


「……………………………………」


 嘘でも嫌いですとかなんとも思ってませんなんて言えない。ダリアはフードを深くかぶって俯いた。


「………………はあ。………………とりあえず頭撫ででもらっていいですか」

「あっあっはい」

「優しくで」


 そうだ。逃げている場合ではない。ダリアは言われた通り彼の頭の上に手を置いて魔力を流して撫でた。


「………………この部屋の、中、だけだったら付き合います」


 彼が急にそんなことを口にして、思わずダリアは手を止めた。


「………………………………えっ!!!!」


 彼は続ける。


「ひとまず、この部屋の中だけでしたら今すぐにでもお付き合いします。どうですか」


 どうやらさっきからすんごく悩んだ結果、彼はそう答えをだしたらしい。……………………が。


 ……この部屋の中だけ?

 この狭い倉庫の中でだけ?

 こうして触れ合うから?


 ダリアが固まったままあまりに返事をしないので、ノルディックがまた口を開いた。


「あの、どうしても事情があって、そのうち部屋の外にも出ても関係が続くようにします」

「……………………えっと」


 ………………どういう事情?

 何も分からないけど、……なんだか、すっごく悲しい気持ちになってきた。


 なんでそんな事言うんだろう。事情ってなんだろう。やっぱり他に好きな人がいるけど、自分たちがこういう不思議な関係になってしまったし私が好きとか言うから仕方なくここだけなら付き合ってやるって事なんだろうか。……そのうちってどういう事なんだろう。具体的にいつなんだろう。この部屋の中だけ付き合うって、それって付き合ってるっていえるんだろうか。ダリアには分からなかった。


「……………………す、好きですけど、だからって付き合いたいわけではないので結構です」


 涙をこらえてそう言う。彼の頭に手は置いているけど撫でる事なんてできなかった。置いた手から魔力だけ流す。


「……違う、そうじゃなくて」

「今日はもういいですか」

「事情があって」

「分かりました……。すみませんが一度立ってください。あの、出られなくて……」


 涙がついにぽろっと零れた。

 ノルディックは息をのんで、そっと立ち上がると椅子をどかして退路をつくってくれた。


「……ちゃんと明日また来るので」

「待って」


 彼がジャムサンドを差し出した。

 おいしい魔法がかかっているらしいそれをつい受け取ってしまう。……これでは食い意地が張っている人みたいだ。でもジャムサンドだけは!!!食べたい!!!!!!!!このジャムサンドがおいしすぎるのがいけない!!!!


「ありがとうございました……」

「……ごめん」


 倉庫を出ていくとき、彼のつぶやきが聞こえた。




 はあああああああああああああああああああああああ。

 世界一おいしいいちごのジャムサンドを仕事部屋の隅でかじりながらダリアはボロボロ泣いた。なにこのジャムサンドなんなの美味しすぎる。いい加減どこのお店なのか教えて欲しい。


 ……そうだ、一度中央病院に行って、彼の主治医と話をしてこよう。ノルディックと一生関わらないといけない術者がダリアだと分かれば取り合ってくれるはずだ。


 そうなれば話は早い。ダリアは昼食を食べてから、まずは医務室へ向かった。

 人前でフードをとるなんて緊張したが、震える手で医務官に顔を見せて、あの日救護に当ったのが自分だと名乗ったらあっさりと記録を貰う事ができた。人が怖すぎて心拍数が跳ね上がったが、大好きな彼を救うためだとおもうと不思議と勇気がでて頑張れる。普段なら知らない人と喋ると考えただけで身体が動かなくなるくらいなのに。


 ……さあ、この用紙と身分証を持って次の休みに中央病院に行って、自分が術者と証明して彼の治療に当たった医師に会って話を聞けば完璧だ!!!打開策が見つかるかもしれない!!


 ……と思っていた。

 ――翌日の昼、倉庫でノルディックにそのことを相談したら、鬼の形相で怒られた。


「余計なことはするなっつっただろ!!!」

「ごめん!!!!!!!!!!!!なさい!!!!!!!!!!!!!!!」


 なんでいつもいつも怒られるんだろう。泣きそう!!いや毎日泣いてる気がする!!


「あんた医務室に名前を残したわけ?あの時は見た目の特徴と魔術師としか書かれてなかったのに」

「は、はい」

「……馬鹿……」

「なんで……」

「前も言ったけど俺にあんたが関わっているとバレたくない」

「……でも一生このままではノルディックさんが……」

「…………分かった。もういい」


 ノルディックはなにかを覚悟したように、ゆっくり深呼吸した。


「ちゃんと話します。突拍子もない事を言いますが信じてくれますか」


 敬語に戻った彼はいつになく真顔だった。……そして、何回かためらってから、


「あんた……あなたは、俺に関する記憶を一度消されてる」

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