温泉女将は引きニート
支配人「大変だぁ~!大変だぁ~!女将!女将!お・かぁ・みぃ!」
瀬能「・・・なんですか支配人?ほぼ、カニ食べ放題コースが、実は、カニカマじゃなくて、本物のカニだったという事がバレましたか?」
支配人「・・・誰も、カニカマだと思って食べに来て、実は、カニカマじゃなくて本物でした~って、バラした所で怒る人なんていませんよ?」
瀬能「我が温泉旅館は、カニカマ食べ放題が売りなのに、本物のカニを使っていたら、名折れだと思うんですが?私だったらクレーム入れますよ?・・・本物のカニカマを出せって!」
支配人「非常に分かりにくいし、面倒臭いです。・・・ちがいますよ!ちがうんです、女将!」
瀬能「なんですか?私、エゴサで忙しいんですよ!」
支配人「引き籠もりのニートがエゴサーチしても、何も引っかからないですよ!頭を冷やして下さい!」
瀬能「・・・案外的を射ていて何も言い返せません。引き籠もりのニートがエゴサしちゃダメなんですか?」
支配人「ダメじゃないですけど、何もヒットしないと言っているんです。」
瀬能「そりゃぁ、そうですけどぉ。なんか悔しいなぁ。」
支配人「そんな事より大変なんです、女将。お客様の荷物が紛失してしまって、モメているんですよ!」
瀬能「・・・。保険金で解決しましょう。」
支配人「お・かぁ・みぃ~!女将、それは問題ですよ!どこの温泉女将モノで、お客様の荷物を失くしたから、金で解決するって、聞いた事ないですよ!事件が起きる前に終わってますよ!はじまってすらいない!もう事件が迷宮入り確定じゃないですかぁ~!」
瀬能「いいじゃないですか。もう、面倒臭い。金で解決できるなら解決しましょうよ。その為に保険、入っている訳なんですから。・・・お客さんが勝手に荷物、失くしたんでしょう?温泉旅館の落ち度じゃないですよ?」
支配人「女将!それ、思ってても言っちゃダメな奴です!・・・東ちづるもかたせ梨乃も絶対、言わない奴です!」
仲居「支配人、お客様が、女将を出せって、ロビーで騒いでいますが?どうしましょう!」
支配人「ほら、女将!言っているそばからお客様が呼んでいますよ?」
瀬能「ええぇ?・・・普通、そこはホテルなら、支配人を出せ!って言うのが一般的じゃないですか?どこのお客が女将を出せって言うんです?」
支配人「女将を出せ!はお約束なんですよ。お約束。支配人はおまけ。主人公は女将。女将が、色気と知恵で解決するのがセオリーですよ!」
瀬能「嫌ですよ。なんで女将の私が、わざわざお客の前に出なくちゃいけないんですか?・・・女将を出せって言っている時点で頭がおかしい奴ですよ。警察呼びましょ?警察。私達、旅館業の人間では対応できません。後は警察に任せましょう。」
仲居「そうですよね。警察に電話しましょう!」
支配人「待ちなさ~い!仲居さんねぇ。あんたも、ドラマなら井上真央あたりがあなたの役をやるんですよ。」
仲居「いやぁ、いいとこ、さとう珠緒、小野真弓ぐらいだと思いますよ?井上真央が演じたら、仲居の方が主人公になっちゃうじゃないですか?」
瀬能「・・・仲居さん主人公でいきましょう。私、面倒臭いから女将より仲居の方が、若くてエロそうで、受けると思います。」
支配人「タイトル変わっちゃいますから。・・・温泉仲居は引きニート?・・・おかしいでしょ?引き籠もりのニートが仲居なんかやりませんよ?」
瀬能「温泉仲居は迷探偵?・・・とか」
仲居「ありそう!」
瀬能「でしょ?・・・いけますよ、これは!」
支配人「ありそうとか、いけそうとか、そういう話じゃないんですよ!今回は温泉女将は引きニート!なんですから。」
瀬能「引き籠もりの私が、温泉旅館の女将をやっている時点で、設定に無理があると思うのですが?」
支配人「思いついちゃったんだからしょうがないじゃないですか!この作者は思いついたらとりあえず書いてみる精神の人なんですから。」
仲居「そういうメタな発言を。」
支配人「メタでも何でもいいんですよ!」
瀬能「とりあえず警察に電話しましょう。クレーマーには警察です。」
支配人「クレーマーじゃないです!お客様です!」
瀬能「クレーマーでしょ?荷物、勝手に失くして、ホテルに難癖つけているんだからクレーマーですよ?下手に出るとつけあがりますよ?あと、SNSで余計な事、いっぱい書き込むんだからあいつ等は。」
支配人「書かれない様にしましょうよ。」
瀬能「女将がかわいかった、って書いてくれれば、融通しますけど。」
支配人「ホテル、関係ないじゃないですか?女将の個人的な話じゃないですか?」
瀬能「・・・ここのホテルの支配人は、うるさい、と。」
支配人「書くなー!女将自ら書かないで下さいよ!サクラもいい所じゃないですか!」
瀬能「どこのホテルも、自分達で良い口コミを書いているんですよ?お客が、そんな良い事、書く訳ないじゃないですか?みんなダマされているんです。」
支配人「そんな根も葉もない事を!」
瀬能「書くのは悪い所だけ。タバコ臭いだとか、コンセントが足りないとか。うっさいんだよ!ボケが!禁煙の部屋でタバコ吸うバカがいるから、次の客がそういうクレーム入れるんですよ。コンセントが足りないのは電化製品が多いからで、やれエアコンだ、やれ空気清浄機だ、やれランプだ、お湯沸かしだ。てめぇの部屋じゃねぇんだよ!ここはホテルなの!泊まる所なの!そんなに電気、使いたけりゃ家で大人しく寝てろ、ハゲが!って、誰かが書き込みをしていました。」
支配人「女将の心の声が漏れています!」
瀬能「日本の旅館、ホテルは、サービス過剰なんですよ?・・・大阪の西成を見習うべきです。もしくは東京の葛西あたり。」
支配人「極端です!」
瀬能「どうせ、どっかの旅行代理店サイトっていうんですか?そういうので見比べて、安い値段で泊っている客でしょう?満額払って、泊ってから文句を言えと、誰かが書き込みをしていた気がします。」
支配人「それも女将の心の声が漏れていますよ?」
瀬能「我々もアパを見習って、常に、自分達が提示した金額で泊らせるようにしましょう!稼働率なんかクソくらえです!」
仲居「稼働率が下がれば、私達の仕事も減って、万々歳ですね、女将!」
瀬能「でしょう?」
支配人「ダメに決まっているでしょう!稼働率が下がればホテルの売り上げが下がるんですから!私達のお給料が下がるんですよ!」
瀬能「ほら、そこは、食べ放題のご飯で、儲ければいいんですよ?食べ放題なんて、原価があって無いようなもんですから、どんどん食べ放題で客を集めて、給料をペイしていけばいいんじゃないですか?むしろ、泊らせないで食べ放題だけさせて帰す方が、利益が上がって良いですね。・・・よし、今度からそうしましょう。ホテル、やめます。」
支配人「女将、何言っているんですか!旅館やめちゃったら、旅館やっている意味ないじゃないですか!」
瀬能「儲からないからホテルなんてやめたいんですよ。儲けだけ出していきましょう。カニ食べ放題で。」
仲居「カニカマより本物のカニの方が安いって、驚きですよね。」
瀬能「白身魚が高いって本末転倒ですよ。原材料費が高くて、本物のカニの方が安いんですから。世も末です。いっそカニをつぶしてカニカマを作った方が更に安くカニカマを作れますね。」
仲居「女将!ナイスアイデア!」
支配人「あたまおかしいのか!お前達は!」
瀬能「むしろ正常だと思っていますが。それで支配人、警察に電話をしたんですか?」
支配人「する訳ないでしょう?お客様は女将を出せって言っているんですから。」
瀬能「どうせアレでしょ?爆弾とか。爆弾、失くしたんでしょ?だから警察にも言えない。コナンで見ましたよ。」
支配人「コナン言うな!」
瀬能「だいたい旅館でロケハンを行う時は、ドラマ班にボーナスが入った時か、旅館自体がスポンサーか、どっちかなんですよ。あれ見た事あります?松田優作の探偵物語。あれホテルがスポンサーだった時、一話、ホテルを舞台にした話を作ったくらいですから。ズブズブなんです。ですから、我々がタイアップしない限り、事件は起こりません。」
支配人「女将、だから、そういうメタ発言は困ります。」
瀬能「だいたい、なんで、紛失するんですか?自分で荷物、管理しておいて紛失とか、言いがかり過ぎませんか?百歩譲って、私達、ホテルでその荷物を預かっていて、失くしたならまだ分かりますよ。ホテル管内で失くすって、その人の落ち度でしょ?」
支配人「ま、そう言われちゃうと、話が進まないっていうか、女将、事件が起こりません。」
瀬能「起こらなくていいんです。平和が一番です。適当に泊って、適当に帰る、それがホテルってもんじゃないですか?」
支配人「そうなんですけど。」
瀬能「温泉旅館やめてモーテルにしましょう。モーテル。いやらしい意味じゃなくて、アメリカにある、モーターホテル。道路沿いにあるやつです。簡易宿泊所って言ったらいいんでしょうか。素泊まり。・・・やっぱり素泊まりが良いですね。」
仲居「素泊まり最高ですね。」
瀬能「そう言えば、いやらしいで思い出しましたけど、こういうひなびた温泉旅館で、セックスしないで欲しいです。後片づけが大変だから。そういうのは専門のラブホテルでやって欲しいです。」
仲居「分かります。女将、分かります。」
瀬能「こっちはそういう目的の宿じゃないんですよ。どっちかと言えばファミリー向けなんです。ファミリー増やす場所じゃないんですよ。片付ける、こっちの気持ちも考えて欲しいです。あれ、交換するの大変なんですよ。お金もかかるし。布団とシーツ、その他、もろもろ全部、交換ですよ。全部、お金ですよ。ふざけんな、って話です。ラブホテルならそれなりに安く、業者さんが入ってくれていますが、僻地の旅館に、そういう業者さんが来てくれるとは限らないんですよ。高い値段、取られるんですから。リネン関係は汚さないで綺麗に使って欲しい。」
仲居「ゴミ箱に捨ててあったりするのも不衛生ですしね。・・・ほんとやるなら別の所でやれって思います。」
瀬能「聞いた話ですけど、ビジネスホテルで、セックスされると、物凄い経費がかかるって聞きました。温泉旅館は、まだ、セックスするお客がいる想定で運営していますけど、ビジネスホテルは、そういう想定していないみたいですから。ほんとやめて欲しいって話を聞きますよ。」
支配人「・・・好きな所でセックス、させてあげて下さいよ。」
瀬能「うちの様な旅館とビジネスホテルは、壁が薄いの、分からないんでしょうか?壁、薄いんですよ。聞かせたいの?変態なんですか?声、まる聞こえですよ。盛り上がっているカップルの隣になったら地獄ですよ。寝たいのに寝られないっていう。」
仲居「そういう寝具を汚すだけ汚す客は、チップも置いていきませんからね。」
瀬能「けしからん連中ですね。」
仲居「女将のおっしゃる通りです。」
瀬能「どのみち、何を紛失したのか知りませんけど、失くしたならばそれも警察の仕事だと思うんですよ。どちらにしろ警察を呼びましょう。」
支配人「ここはほら。女将の推理力で、探すのがドラマの起点だと思うのですが?」
瀬能「きっとアレでしょう?似たバックを取り間違えたとか、そういう。もしくは、ホテルのバックヤードから出て来るとか、そういう類の話でしょう?」
支配人「バックヤードから出てきたらホテルが泥棒したっていう事になってしまいますが。」
瀬能「・・・隠ぺいしましょう。」
支配人「おぉかぁみぃ~!」
瀬能「バックヤードなんか我々従業員しか分からないんですから、見つかったとしても、ゴミと一緒に廃棄してしまえば、最初から無いのと同じです。失くした本人が悪いんですからポイしちゃっても問題ないでしょう。」
支配人「そんなのが表にバレたらフジテレビ以上の大事ですよ?」
瀬能「仕方がありません。ここは、女将のさらに上、大女将を出すしかありません。」
仲居「木の実ナナ的な。」
瀬能「呑気な女将では役に立たず、大女将が推理するっていうアレです。大女将を呼びましょう。」
支配人「そんな都合の良い、大女将なんていませんよ!」
瀬能「奥様は警視総監っていうのをご存知ですか?冴えない旦那の奥さんが、警察のトップなんですよ。杉下右京より偉いんですよ?ですから、いざとなったら大女将。冴えない我々を取り仕切るのは大女将しかいません。・・・そうだ。賄賂。賄賂を渡して帰っていただきましょう。賄賂です。賄賂。」
支配人「いよいよ直接的になってきましたね。女将、流石に賄賂はないですよ。」
瀬能「頭を下げて、平謝りして、見逃してもらいましょう。・・・支配人、よろしくお願いします。」
支配人「私がですか!」
瀬能「あやまるって言ったら、支配人の仕事じゃないですか!トラブルメーカーの役回りはだいたい支配人と相場が決まっています。あと、一番最初に殺されるのも支配人です。」
支配人「嫌ですよ!」
仲居「仲居と女将は死にませんね。・・・どうして支配人だけ殺されるんでしょうか。」
瀬能「支配人は余計な所を目撃するから殺されるんです。・・・今回、そのお客さんの秘密を支配人がたまたま見てしまったから、たぶん、殺されますね。ご愁傷様です。」
支配人「本当に嫌な事を言いますね。女将は。」
瀬能「私達に出来る事はありません。・・・若林豪先生を呼んでくるしかありませんね。刑事といえば若林先生。」
支配人「・・・女将、私、どうなっても知りませんからね。本当、知りませんからね。」
瀬能「最悪の場合、ここは温泉旅館ですから、温泉旅館に唯一つながる橋を爆破して、孤立しましょう。密室です。金田一とか綾辻です。しかしながら、密室とか言いながら、密室でない場合が何故か多いのが温泉旅館。客を飛び込めて密室にしている隙に、我々だけ逃げましょう。逃げましょう。」
支配人「はぁ。」
瀬能「オチはこうです。」
仲居「そして誰もいなくなった。」
瀬能「そゆことです。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。