やまない雨
会社帰り。わびしい夕食を買うために立ち寄ったコンビニの、その入口に、彼女は立っていた。
ぐっしょりと濡れたシャツを肌に張り付かせ、ワンピースの裾から水滴をしたたらせた少女は、雨宿りでもしているののだろうか? 軒から空を見上げている。
ついじっと見てしまった俺に気づいた彼女は、ぺったりと頭にはりついた髪をかきあげて、にこりと微笑んだ。
なかなか可愛らしい顔だちをした少女だった。
「何してるんだ?」
俺は思わず、少女に話しかけた。
「待っているの」
少女は空を見上げたまま、応えた。
自動ドアを開けたまま入口に立つ俺に、コンビニの店員がいぶかしげな視線を向けていた。慌てて店にはいる。
俺は弁当や缶ビールといっしょに、小さな透明の傘を買った。おそらく役にはたたないだろうけれど。
自動ドアをくぐり、あいかわらず空を見上げる少女に、俺は傘を差し出す。
「これ、使っていいよ」
少女は、驚いたように俺を見つめ、だが、おずおずと手を差し伸べて傘を受け取った。
「ありがとう……」
消え入るほどの小さな声で、少女は礼を言った。
手を振ってそれに応え、家に向かって歩き出した俺は、数歩を歩いて再び背後を振り返った。
少女は空を見上げて立っていた。俺のあげた傘を両手に抱えたままで。
鮮やかな夕日が照らす茜色の光に、わずかに身体を透けさせて、彼女は待っている。やまない雨があがるのを。