決着
……………………
──決着
巴の前に立つ椎葉。
「怨霊よ。無に帰るがいい。お前の生は終わっているのだから」
椎葉はそう言って巴の死霊術を解き始めた。
「なっ……! 貴様、やめろ! 私は──」
「去れ」
そして風で押し消されるように巴がその姿を消した。
「助かった、椎葉殿! 次は黒姫を助けなければ……!」
「すぐに西川軍主力と火竜衆、物の怪たちも到着する。それまで待て」
「待つことはできん。時を稼ぐ!」
「橘殿!」
橘は黒姫を助けるために白姫と戦う黒姫の下に向かう。
「黒姫、大丈夫か!?」
「これぐらい何ともないわ。だが、このままでは勝てんな……」
黒姫がそう言って忌々し気に白姫を見上げる。
「どうすれば勝てる?」
「心臓を潰せば確実に殺せるが、あの大きさであるからな。わしが本気を出せればどうということもないのであるが」
「どうにかしよう」
橘たちは巨大なドラゴンとなった白姫に立ち向かう。
「私とともに来なさい、橘玄。そうすれば全てが手に入るのですよ」
「ほざけ。その首討ち取ってくれる」
白姫の言葉に橘はそう吐き捨て、刀を構えると策を考える。
「そうか。城から飛び移れば、もしかすると」
「やるか? わしが加勢してやる。あれはお前の仇であろう。お前が討て」
「助かる、黒姫。だが、この状況では……」
橘たちは今は白姫によって迂闊に動けない。背を向けなどすれば叩き潰され、焼き殺されてしまうだろう。
「今は時を稼ぐぞ。機会は巡ってくる!」
「ああ!」
橘たちが攻撃を繰り広げる白姫に応じながら待つのはひとつ。
「来た──!」
そう、西川軍主力と物の怪たちだ。
「橘殿をお助けするのです!」
「ものども! かかれえっ!」
絹御前と又坐衛門が叫び、一斉に物の怪たちが白姫に押し寄せる。槍を持った物の怪たちが白姫の足に刃を突き立て、弓を持った物の怪たちが矢を放つ。
「構えっ!」
さらに火竜衆も加わり、銃撃と砲撃を白姫に浴びせる。
「おのれ、人間と物の怪どもめ……。忌々しい……」
「うわっ!」
白姫が低いつぶやきと同時に炎を放ち物の怪と西川軍の兵士たちが巻き込まれた。
「黒姫! 今しか機会はない! やるぞ!」
「わしに任せておけ! 一瞬だから舌を噛むなよ!」
次の瞬間、黒姫がその竜種としての姿を露わにする。
黒い鱗の東洋龍が橘を抱えて青鹿城の天辺に上らせると、そのまま白姫に対面し、白姫を牽制した。
「私の邪魔をするな!」
「貴様こそわしのシマから出ていけ!」
白姫と黒姫が激突し、周囲の空気が揺れ、地が揺れる。
「橘! やれ!」
そこで黒姫が白姫を突き倒して叫ぶ。
「これで最後──!」
橘が青鹿城の天辺から飛び降り、そのまま構えた刀を白姫の心臓へと突き立てた。
「ぐうっ……! 何故ですか…! 何故私とともに来てくれなかったの、ですか……」
白姫はそう言い残すとついに倒れた。
「よし。やったな……」
「ああ。なんとかやったな」
黒姫は既に女性の姿に戻っており、身体に帯びた傷から血を流しながら頷いた。
「その傷は大丈夫なのか?」
「少し休めば問題ない。これで戦は終わったからゆっくり酒でも飲んで休むさ」
「そうか」
黒姫はどかりと地べたに座って言い、橘は心配そうにそれを見つめた。
「橘殿。成し遂げたな。仇討ちも」
「ああ。やったぞ。討ち取った。これで皆が浮かばれる」
椎葉も傍に来てそう言い、橘は頷き黒姫の隣に座った。
「それで黒姫。俺と一緒に過ごしてくれるか?」
「ふん。まあ、ひとり酒はつまらんからな。酒に付き合うならいいぞ?」
「そうしよう」
こうして戦は終わった。
橘と黒姫は忘却神社へと帰り、境内を掃除し、社殿を修繕し、そして大量の酒を買い込んだ。そのための金は西川から与えられていた。
橘と黒姫。
竜の血を浴びた男と龍神は末永く幸せに暮らしたのだった。
──終。
……………………