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黄金平原の戦い

……………………


 ──黄金平原の戦い



 陣地が整い、敵を迎え撃つのみとなった西川軍。


 決戦の場所は黄金平原なる場所。近くに川が流れている肥沃な土地だ。


 そのため田畑がいくつも広がっており、しかし今は無人のそこに陣地が作られた。


「御屋形様。物見の兵からの報告です。敵軍が動いたとのこと!」


「来たか」


 そして、ついに白姫軍が動いた。


「それで、敵軍は誰が率いているのだ?」


「それが首のない武士だと」


「橘殿が言っていたものか。ここで来よったか」


 西川は部下からの報告にそう言う。


「迎え撃つ準備をせよ! ここで敵を撃破する!」


「はっ!」


 西川軍は作られた野戦陣地に籠り、敵を待ち構える。


 火竜衆と西川軍の兵たちが鉄砲を構え、物の怪たちは矢を構えた。


「敵は1万を超えるぞ」


「我々ならばやれる」


 火竜衆の兵と杉山がそう言葉を交わし、迫りくる敵を見据えた。


「藤堂邦孝殿……」


 橘がそう呟いて見る先には首のない騎乗した武士がいた。藤堂邦孝だ。


 槍を構えた藤堂邦孝が陣地を前にする。


 西川軍は強固な阻塞をいくつも準備して敵の攻撃を食い止めるようにしており、その後ろからいくらでも鉄砲と弓矢で攻撃を浴びせかけられるようにしていた。


 馬防柵も準備されており、そこから火竜衆が鉄砲で敵を狙う。


「来るぞ──!」


 そこで藤堂邦孝がなんと一騎駆けで西川軍の陣地へと突入してきた。


「一騎駆けだと」


「迎え撃て!」


 藤堂邦孝に向けて無数の弾と矢が浴びせられる。


「当たった!」


「ダメだ! 効いてない!」


 無数の弾と矢を浴びながらも藤堂邦孝は突撃してきた。そして──。


「うわあっ!」


 激しい騎兵突撃によって馬防柵が揺さぶられ、火竜衆が叫びを上げる。


「クソ! どうにかならんのか!?」


「任せておけ!」


「橘殿!?」


 そこで前に出たのは橘だ。


 橘が阻塞から出て藤堂邦孝に向けて飛び掛かった。


「付き合ってもらうぞ、邦孝殿!」


 そして馬上から藤堂邦孝を引きずり降ろすと格闘戦に挑んだ。


「亡者どもが来るぞ! 押し寄せてくる!」


「撃ち払え! 第1列、構えっ!」


「おう!」


 杉山が指揮を執り、椎葉の呪いが込められた弾を装填した鉄砲が敵を狙う。


 敵は無数の亡者。かつて岩陰の民であったものたちが白姫の手によって亡者とされ、甲冑を纏い、槍を構えて津波のように押し寄せて来た。


「撃てえ!」


 号令とともに盛大な銃声が響き、亡者たちを呪い付きの弾が屠る。


「第2列、構えっ!」


 緊迫した戦場においても火竜衆は冷静に弾を込めて敵を狙う。対する西川軍は鉄砲の扱いにも、戦場にも慣れておらず、装填したことを忘れて何発も銃弾を込めてしまっていた。戦場に混乱はつきものとは言え。


「我々も矢を浴びせるのです! 我々の矢にも椎葉様の呪いがかけられています!」


「はい!」


 絹御前は化け狐たちの指揮を取り、無数の矢を浴びせる。


 矢を受けた亡者の死霊術が解けてただの死体となり、地面に崩れ落ちる。矢は次々に放たれては亡者たちを屠っていく。


 しかし、火竜衆の鉄砲も物の怪たちの矢も亡者たちを完全には止められていない。


「来るぞ! 槍を前に出せ!」


 そしてついに敵が阻塞に到達するのに槍が突き出された。


 亡者たちも槍を突き出し、お互いが槍を使用する戦闘が始まる。


「てい!」


「踏ん張れ、ものども!」


 又坐衛門が前線で叫び、兵を鼓舞し、兵たちが亡者と戦う。


「橘! 大丈夫なのか!?」


 その頃、黒姫が駆けつける中、橘は藤堂邦孝と格闘戦を繰り広げていた。


「手を出すな、黒姫。邦孝殿は俺の恩人である藤堂邦彦殿の息子だ。俺が戦わねば。そして、呪いから解放して差し上げねば」


 格闘戦となると藤堂邦孝の槍は無用の長物と化す。既にそれを理解している藤堂邦孝は槍を捨て組手の構えを見せていた。


 武士と言えば刀で戦うイメージだが、彼らは後に柔道に繋がる組手甲冑術なる格闘技術も有しており、それによって相手を殺すこともできるのだ。


「邦孝殿。どうあってもあなたを押さえさせてもらう!」


 橘は必死に藤堂邦孝を押さえつけ、制圧しようとする。しかし、藤堂邦孝も必死に橘を組み伏せようとして激戦となる。


「橘! 本当に加勢せずともいいのか!?」


「ああ! お前は雑兵どもを頼む!」


「合点!」


 橘の求めを受けて黒姫が押し寄せる屍兵を相手にする。


「敵を打ち倒せ! 一番厄介な首無し武士は橘殿が引き付けている!」


 西川軍は必死に次から次に現れて攻撃を繰り広げる屍兵を相手にしており、鉄砲の音が絶え間なく響いていた。


 亡者が武装して襲ってくるという狂った状況で、誰もが必死に戦っている。


 そして──。


「敵が退き始めた……!」


 ここに来て敵が撤退を始めた。


 防衛のための戦力を温存するためか、再度の攻撃に備えるためか。いずれにせよ敵は撤退を始めていた。


 殿となった部隊は阻塞にしがみついて追撃を阻止している。


「クソ。追撃は無理か。どうにかして追撃して撃滅したいところだが」


 阻塞に貼り付いて追撃を阻止する敵の殿を見て西川が唸る。


「しかし、勝ちましたぞ」


「ああ。とりあえず勝ったな」


 黄金平原の戦いは強固な野戦陣地を以てして敵を迎え撃った西川軍が白姫軍を退けるという結果に終わった。


「橘! 首無しはどうなった!?」


「逃げた。あの方向は黒鬼城だ」


 橘は戦いを終えて逃げ去った藤堂邦孝の背を見ながらそう呟いた。


 藤堂邦孝の背中は黒鬼城のある方向に向けて消えていこうとしている。


「あの首無しを追うのか?」


「ああ。それに黒鬼城ならばこれから落とすのだ」


 黒鬼城は青鹿城に続く道にある城だ。そこを落とさなければ白姫が根城である青鹿城への侵攻も望めない。


「首がなければ殺せぬという話だったが、首は黒鬼城とやらにあると思うか?」


「分からん。しかし、どうあっても邦孝殿に安らぎを与えなければ。あのような姿で白姫の傀儡にされるなど惨いことだからな」


「そうだな。わしも手を貸してやる。遠慮はするな」


「しかし……」


「面子や義理よりも眠らせてやる方が大事であろうが」


 黒姫はそう言って橘の胸をどんと叩いた。


「それもそうではあるな。大事なことを見誤らないようにしなければ……」


 黒姫の言葉に橘はしっかりと頷いた。


 この黄金平原の勝利から西川軍は前進を再開。


 当初の予定通り、黒鬼城の戦力を野戦で撃破した後に黒鬼城に侵攻を開始。


 本格的な城攻めが始まった。


……………………

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