物の怪頭、大百足
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──物の怪頭、大百足
橘たちは溺死沼の砦の中を物の怪たちを斬り倒しながら進む。
「進め、大百足の首を取れ!」
橘が声を上げて砦の中を駆け抜け、次々に大百足の兵たちを打ち倒す。
目指すは大百足の首。それのみだ。
「ここを通すな! 大百足様を守れ!」
「敵を通すな!」
大百足の兵たちは必死に橘たちを止めようとする。、
「散れ、雑兵ども!」
橘は火竜衆から鉄砲を受け取っていた。それも口径が大きく威力が高いものだ。
「ぎゃっ!」
連射性はなく、一発撃てば装填が必要なこの時代の銃だが、威力だけは抜群。大百足の兵たちは薙ぎ倒されて、倒れていく。
「撃てえ!」
さらに杉山が率いていた火竜衆も銃撃を加える。彼らは訓練された兵士として装填速度も速く、瞬く間に次弾を装填して次の銃弾を放ち、物の怪たちを打ち倒した。
「今だ! 進め、進め!」
橘たちが勢いよく進んでいく。
敵を屠り、斬り倒し、打ち倒し、あるいは格闘戦でねじ伏せて進む。
「ここは通さぬぞ!」
橘たちの前に3メートルは背丈のある鬼が4体現れる。甲冑姿のそれらが巨大な刀を構えて橘たちに向かってきた。
「押し通る!」
橘たちが鬼たちと交戦。
「橘! ここはわしに任せて進め! 大百足を逃がすでないぞ!」
「合点!」
橘たちは黒姫に鬼たちの相手を任せて突破し、大百足の座す天守に到達。
「来おったな、人間ども」
大百足が橘たちを出迎えた。
「覚悟しろ、大百足。その首貰うぞ」
「そう簡単にこの首は渡さん。死ぬがいい!」
大百足がその百足の下半身を伸ばし、立ち上がるとその手に薙刀を握った。
同時に天守に物の怪たちの怨霊が現れて橘たちに向かって来る。
「蹴散らすぞ。続け!」
「承知!」
橘たちが大百足との交戦に突入。
「まずは怨霊たちを祓う。橘殿たち、持たせてくれ」
「ああ。任せておけ、椎葉殿」
不死である怨霊を撃破するために椎葉が準備を始め、橘はその間椎葉を守る。
激しい戦闘が繰り広げられ、橘たちと大百足たちが金属音を響かせて刃を交えた。
「その首を置いていけ、牢人!」
「ほしければ取ってみろ、大百足!」
大百足がその百足の半身を使って素早く移動しながら攻撃を繰り出すのを橘は巧みにいなし、反撃の機会を狙う。
「椎葉殿を守るのです!」
「全く! 幽霊の相手をするになんてことになるとはな!」
絹御前と杉山がそう言葉を交わし、怨霊たちを押しとどめようと戦う。
「私はお前たちを倒し、不老不死を得て、そして日の本の物の怪たち全てを統べるものとなるのだ! だから貴様には死んでもらう!」
「そうはいくか! 不老不死などにさせんぞ!」
「ほざけ!」
大百足は毒液を飛ばして橘を攻撃するが橘は巧みにそれを躱す。
「椎葉殿! まだ怨霊は倒せないか!」
「もう少しだ。待て!」
そして、椎葉が怨霊を実体化させている死霊術を解呪した。
「よし。やったぞ。残るはそこの大百足のみだ」
「やるぞ!」
橘たちは全員で大百足に襲い掛かる。
「くっ……! この……!」
大百足は次第に押されて行き、じわじわと追い詰められる。
「ま、待て! 待ってくれ!」
そこで不意に大百足が声を上げて攻撃を中止した。
「どうした?」
「降参する……。岩陰の物の怪頭の地位は化け狸に帰そう。そして、白姫を討つことにも協力しよう。その代わり降伏を受け入れてくれ……」
「ふむ」
大百足が言うのに橘たちも攻撃を中止して大百足の様子を見る。
「大百足も不死だぞ。倒すならば不死を解く必要がある。どうする?」
椎葉は慎重にそう尋ねて来た。
「本当に降参するのか、大百足?」
「本当だ。死ぬまで戦うつもりはない」
「そうか。では──」
橘が大百足の降参を受け入れようとしたとき、大百足が突然動いた。
「死ね!」
不意打ちだ。降伏するふりをして橘に襲い掛かったのだ。
大百足の薙刀の刃が橘の首を刎ね飛ば──。
「無駄だ」
ガンと金属の音が響き、薙刀の刃が明後日の方向に砕け散る。
「なっ……!?」
「そんなことだろうとは思ったが、まさか完全に予想通りとはな。お前は浅はかな女だ。大百足よ。覚悟しろ」
「おのれ!」
大百足は再び戦闘態勢を取ると口に並ぶ牙を橘に向けて繰り出して来た。
毒液が飛び、毒液が当たった畳が溶けて煙が上がる。
「椎葉殿。不死を解いてくれ。大百足を仕留める!」
「分かった!」
そして、橘が大百足を仕留めようと攻撃を開始。
薙刀と牙で応戦する大百足を相手にしながら橘は大百足の首を狙う。
「人間風情が! 私は偉大なる物の怪たる大百足であるぞ! 平伏しろ!」
「誰が平伏などするものか。さあ、首を差し出せ!」
大百足が攻撃に出たのを弾き、一瞬で橘が反撃した。
大百足の腕が斬り落とされ、薙刀が地に落ちる。そして橘は防御手段を失った大百足の首を一閃。大百足の首が地に落ちた。
「ふん」
同時に椎葉が大百足の不死を解き、その体から黒と紫の煙が立ち上っていく。
「よし。これで大百足を討ち取ったぞ。岩陰の物の怪たちも屈することだろう」
橘がそう呟く。
「おお! ついに大百足を討ち取った! 七兵衛八太郎殿! 仇は取ったぞ!」
「やりましたね」
又坐衛門が歓声を上げて絹御前も頷く。
「おうおう。終わったようだな」
「ああ。大百足は倒したぞ、黒姫」
そこで鬼を屠って来た黒姫が合流。
「この勝利の知らせを西川殿に伝えに向かおう。これで白姫を討ち取るのにまた一歩進んだ。このまま進軍して白姫を倒そう」
「ああ」
橘たちは落ちた溺死沼の砦を出て西川の戦陣に向かった。
「橘殿。大百足は討ち取れたか?」
「ええ。撃ち取れました。我々の勝利です」
「おお! やってくれたな!」
西川軍の戦陣は勝利の歓声に包まれる。
「では、次は赤鬼城だ。ここを落とし、次に黒鬼城を落とせば、後方を憂うことなく青鹿城に近づくことができる。しかし、今日は勝利を祝って祝杯を挙げようぞ!」
西川軍はその戦陣で酒が振る舞われ、皆が酒を味わった。
「ついに大百足が倒れた! これより岩陰の物の怪たちを集め、新しい岩陰の物の怪頭を決めなければならないな」
「又坐衛門様こそ相応しいでしょう」
「いや。どうだろうか。化け狸と大百足に下った物の怪の間には大きな確執がある。ここは無関係の物の怪を据えるべきかもしれない」
「何はともあれ勝利した!」
この勝利を一番祝っているのは物の怪たちだ。
彼らは白姫に下り、彼らの尊敬していた化け狸、七兵衛八太郎を背後から刺した大百足がついに討ち取られたことに歓声を上げ続けていた。
彼らは踊り、歌い、酒を飲み、盛大に勝利を祝った。
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