Chapter.3ー A 想像
旅の魅力。それは誰もが感じることではないだろうか。いつもとは違う土地へ行き、その土地の自然や人に触れる。都会から田舎へ。田舎から都会へ。ずっと住むわけではなくその短い期間だけ訪れるからという楽しさ。他のどの娯楽でも感じることのできないこの感情は旅の最大の魅力なのだ。
ホームルームが終わり、怜は部室へ急ぐ。今日はゴールデンウィークに向けての会議だ。
前回のピクニック帰りにこんな会話があった。
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「実はさ、ゴールデンウィークに初めての遠征を先生と計画してんのよね~!」
桃が話すと楓が食いつく。
「マジで?!」
「やっと遠征か~!」
悠は伸びをして返した。
「今まで遠征とか無かったんですか?」
「そうだよ~。ずっっっっっっと部室で駄弁るか、休みの日に少し出かけるかよ。」
悠の話に桃が続く。
「幕張のでっかいショッピングセンターとか行ったよね!」
「でも遠征ってどこに行くの?」
楓が桃に問いかける。
「それを明日会議で決めまーす!!」
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部室につくと悠の姿があった。
「先輩!お疲れ様です!!」
「怜…ここはバレー部じゃないんだからそんなに硬くならなくていいんよ!」
「あ、すみません。つい…」
怜は悠の隣に腰を掛けた。
「遠征ってどこに行くんでしょうね~」
「さあ、私も初めてだからわからないや」
「怜はどこか行きたいところあるの?」
怜は窓の外を見て話す。
「富士山が見えるところですかね。」
「富士山?」
「私の実家が仙台で、富士山をちゃんと見たことがないんですよ。中学の時にこっちに越してきて小さく見える富士山は見ましたけど、もっと大きな富士山を見たいんです。」
怜の顔を見て悠は続けた。
「富士山いいよね。私は生まれも育ちも千葉だけど、近くまでは行ったことないかも。」
「やっぱ自然っていいですよね。仙台にいたときは西側に奥羽山脈が広がっていて、眺めは本当に良かったんですよ。」
奥羽山脈。この単語を聞いた瞬間に悠が目を光らせて口を走らせた。
「奥羽山脈ってのは東北地方を東西に分けて、日本の背骨と呼ばれている山脈で、これを挟んで東西で大きく気候が違うんだよね。日本海側は冬に大雪が降って太平洋側では乾燥するのよ。山脈に雪雲がぶつかって、重たい雲は山を越えないで乾いた空気だけが山を吹きおろしてくる。だから気候の差が生まれるのよね。」
「いきなりチリケンっぽくなりましたね!」
「まあ一応?チリケンだし。東北に行くのも面白そうだね~」
少し照れながら悠が応えた。
「でもさすがに行くなら泊りになりそうですよ。金銭面とか…。私は大丈夫ですけど。」
ちょっと微笑む怜に向けて悠が言った。
「このお嬢様が。」
「えへへ。」
怜の家庭は簡単に言うとお金持ちだ。父が外科医。祖父が政治家といった家庭に生まれ、金銭面では何も不自由がなかった。親たちは怜を有名私立高校に行かせるため、専属の家庭教師を雇い、当初全く頭が良くなかった怜に猛勉強させていた。しかし、偏差値が60を超えたあたりで怜は里見高校に行きたいと懇願。最初は大きく反対されたがその固い決意に負け、この高校を目指すこととなった。結果、公表はされていないものの、入試は3位/513人中という成績で合格した。
「お!もう二人とも来てたか!」
「おお、楓。遅いよ~。」
「楓先輩!遠征先ってどこなんですか?!」
怜が楓に詰め寄る。
「いや、うちも知らないし…」
「あ、そうなんですか。」
遠征先は楓もよく知らない。この三人は桃が来るまでどこに行くのかを話し合っていた。
「どうなんだろうな~。一応チリケンだから、地理系に関係あるところとかもあるかな。」
楓がそう告げると悠が続けた。
「三角州とか、扇状地。リアス海岸とか有名な地形って結構あるもんね。」
「そうそう。海岸地形、河川地形は色々あるから考えれば考えるだけわからなくなるし…」
悠と楓が話しているのに乗って怜が言う。
「あの、私高校の地理とかまだよくわかってなくて…」
不安そうな怜に悠が言葉をかける。
「大丈夫だよ、中学の話わかってればある程度分かるし…」
「うん!あとはもしわからないことがあったらうちらが教えてあげるし!」
しばらくして桃が部室に入ってきた。
「お待たせ~」
それと同時に三人が桃に襲い掛かる。
「うおお?!なんだあ?!」
中でも一番早かったのはやはり楓だ。」
「桃!遠征はどこに行くんだ?!」
みんなが知りたいであろうことをどストレートに聞く。
「それを今から決めるんだよ!!!!!」
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