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Chapter.2ー B ピクニック日和

 学校の正門を出て左に曲がる。他の部活はまだ始まっていないらしく、運動部が外周している姿は無かった。

「いや~たのしみだね!」

桃がニコニコしながら話す。

他の三人は冷たい目線を送る。

「レジャーシートは先生が貸してくれたし、もういいじゃん!」

「なんで学校にレジャーシートがあるんだし…」

楓があきれたように話すと、悠が続ける。

「なんか、昔のチリケンの先輩方が使ってたものらしいよ?年季が入ってて少し傷んでる部分もあるけど大丈夫だってさ。シートだし。」

学校の横を通り、コンビニの前まで来た。

「あの、飲み物買ってなくて…ちょっとコンビニ行ってきていいですか?」

「おう!行ってら~!」

相変わらずテンションが高い桃が見送る。

「そういえばさ、なんで国府公園なの?」

悠が桃に問いかける。

「まあ、学校から一番近いし、昨日急に決まったからね。」

「今、花壇が綺麗らしいから行ってみたかったていうのもあるし!」

咲は元々花に興味があったようで、よく行きたいということを言っていた。

怜がコンビニから帰ってきて、みんなで公園に向かった。


「よっしゃ着いた~!」

桃がそう叫ぶと楓が後ろから走りだす。

「ひゃっほーい!うちが一番のりだし!」

「ちょっと楓!危ないよ!!」

悠が咲を追いかけて走り出した。

「本当に皆さん仲いいですよね!」

怜が桃に話す。

「え?うん!まあ、今は結構仲良くできてると思うよ。」

「今は?」

怜が桃に聞き返す。桃はすでに何もなかったように歩き出していた。


 桜で染まる公園の中。城跡や遺跡などの歴史的建造物も多いこの公園は多くの家族客でにぎわっていた。四人は人が少ない芝生の上に腰を下ろした。


「ふ~…桜綺麗だね。」

「学校の近くにこんなに綺麗な場所があったなんて知らなかったし。」

「いや、楓ずっとここに来たいって言ってたじゃん!」

「写真とかもあまり見てなかったんだし!!楽しみ減るから。」

楓と桃が楽しそうに話をしている。

「桜綺麗ですね。」

「そうだね。」

怜と悠はお互いに一言交わすと、静かに桜を眺めだした。

お互いの小指と小指がぶつかる。

小さなつぼみから花びらが見え始めたときの高揚。

そんなことを感じながら二人は顔を赤らめた。


「ってかレジャーシート引かね?」

「そうだな!」

桃と楓が思い立ち、先生から借りたシートを広げる。

これに気が付いた二人もシートを敷くために辺りから木の枝とかを取り除いた。

「そーれっ!」

桃が勢いよくシートを広げた。何の変哲もない三色のレジャーシートだった。

「てか、小さくね?」

明らかに二人用のシートを見て楓が言った。

「まあ、何とかなるよ。」

悠が落ち着いて続けた。

「私、家族以外とお花見するの初めてです!」

怜が目を光らせて話す。

「それはよかった!た~んと楽しめ!!」

やはりテンションの高い桃。

「そっか、確かに今日“ピクニック”とか言って来たけど、お花見だね。」

「お花見か~…最高だし!」

「なんで、楓は気が付かなかったんだ?」

悠が問いかけた。

「へ?さあ?」

静寂の後、桃が切り出す。

「よし!じゃあお弁当タイムといこうか!」

四人は一斉に自分のカバンからお弁当を取り出す。

咲は桃色の二段弁当。

悠はスープとご飯の保温ができる黒の魔法瓶のような弁当。

怜は赤の一段弁当。一段だが、少し大きめ。

そして桃は…曲げわっぱ???

「桃渋いね~。」

すかさず楓が突っ込んだ。

「ふふふ。いいでしょ~。これぞ和の国日本のお弁当!ってね!」

中を開けるとこれもみんなの個性が出ていた。

「楓、これってもしかして自分で作った??」

「そう!いいでしょ~」

咲のお弁当の中には、定番のだし巻き卵にマカロニサラダ、そしてハンバーグなどが入っていた。

「結局あの後課題ソッコーで終わらせて、すぐ寝てさっと起きて作ってきたんよ。だから冷凍食品だけ…。」

「行動力すごいな。」

桃が驚く。

「その行動力を課題にね…」

悠がそう言うと楓は何も言い返すことができずに固まった。

「桃の弁当はどうなんだよ!」

咲が桃の曲げわっぱを覗き込んだ。

典型的な日の丸弁当。

楓は何も言うことがなかった。

「おいしそうでしょ!これぞTHE日本!ってね!」

「う、うん…」

「悠と怜はどんなの持ってきてr…?!」

楓が驚いた先にはすでに食べ終わった二人の姿があった。

「ま、まだ五分くらいだよ?!?!」

「あ~。なんか中学の時の部活でいろいろあって食べるのめちゃ速くなったんよね~。」

「同じくです~。」

楓はまた固まっていた。


 ご飯を食べ終えると、悠は昼寝を始めた。おなかいっぱいだから寝ちゃったとか」

楓と桃は公園散策に行った。

「これが国府台城跡…」

「な、なにもないし…」

二人は公園内の国府台城跡に来た。

そこには石碑だけで特に何もなかった。

「でもこれ見てみ?」

桃が地形図を取り出した。

「うわっ!なんで地形図なんか持ってるし?!」

「いや~一応地理研究部部長ですし~?」

桃が地形図の公園を指して言う。

「見なくてもここ一応高台じゃん?それに川が近いから物資の輸送もしやすい。そして、この公園やけに石垣が多いと思わん?」

「確かに…」

国府公園内を散策していた二人は何回も小さな石垣を目にしていた。

桃の解説は止まらない。

「それが一番の証拠さ!…あとは、この国府公園って名前も、昔下総国の国府が置かれた場所で…」

「あ!~もう難しい話は分からないし!!」

楓が叫ぶと桃はようやく止まった。

「次さ、滝見に行かない?」

楓が提案する。

「た、滝?!そんなのここにあるの?!」

「写真は観たことないけど、あるっぽい!ほら!」

スマホのマップに“滝”とだけ表示されている。

「悠たちも呼ぶ?」

「せっかくだしそうしよ!」

桃の提案に咲が乗った。


電話をかける。

桃「もしもし悠?ちょっと公園の中に面白そうなところがあったんだけどさ、一緒に来ない?」

怜「あ、あのまだ悠先輩寝ちゃったままで…」

桃「あ。そうなの。なんか滝があるらしいからみんなで行ってみたかったんだけどな~…」

怜「滝、ですか?」

桃「そう!まあ、悠寝てるなら仕方ないか。無理に起こすのもかわいそうだし。怜ちゃん悠のことよろしくね~。写真撮ってくるから待ってて!」

怜「はい!了解です」


しばらくして悠が目を覚ました。

「あれ、私寝ちゃってた…?」

「先輩、やっと起きましたか!」

隣で怜がニコニコして私を見ている。

「今先輩方は滝を見に行っているそうですよ」

「怜はいかなくていいの?」

「私は悠先輩といるのが大好きですから!…あ、桃先輩と楓先輩も好きですよ?!」

「ただ、先輩には特別感があって。」

そういうと怜は悠の肩に寄りかかってきた。

「先輩。」

悠は怜を抱きしめた。

暖かいぬくもりが全身に伝わる。春の太陽を抱きしめているようだった。

悠はしばらくそのまま怜を抱きかかえていた。

すると怜が震えはじめた。

「先輩…さすがに苦しくなってきました…」

はっと我に返る悠。

「あ!ごめん!」

「いえ、大丈夫ですよ。先輩すごく暖かかったですね。」

「え?あ、うん…ん?」

動揺する私に何か引っかかる記憶が入り混じる。

「なんかデジャヴな…」

「先輩?どうかしましたか…?」

「いや!何も!」

悠は昔から怜と二人でいる夢は見ていた。

怜への思いは、はるか遠く。何よりも大事であることを悠もまだわかっていなかった。


 桃と楓が帰ってくるとお菓子パーティーが始まった。

「楓、それとって!」

「悠はほんとこれ好きだよね~。」

そういってフルーツ餅を手渡す。

「あ、怜ちゃん。マグロはないからね?」

「も、もうやめてくださいそれ~!!」


他愛もない会話が辺りを包んでいる。

「こんな日がいつまでも続けばいいのにな。」

桃がボソッとつぶやく。

毎日が平凡で退屈で。でも、そこには一つ一つのドラマがある。卒業をすれば私たちは離れ離れになる。まだ二年後のことだとしても少しは悲しくなるものがあった。

すると悠がこう言いだした。

「あのさ、みんな。」

全員の視線が悠に注目する。

「お金貯めて、今の二年が受験にも受かったらさ。」


「日本一周しない?」


三人は顔を見合わせている。

日本一周。どれだけのお金がかかるのか、大きな不安はいくつもある。でもみんなとの最後の大きな思い出を絶対に残したかった。


「気が早いな~悠は!」

「そうだし!まだ二年後のことでしょ!…まあ、悠がどうして持ってならいってあげてもいいけどね!」

「そうだね!」

桃と楓が返す。そして。

「私も行きます。まだ先ですけど…」

怜も承諾した。

「じゃあ、我々チリケンの目標ってことでやろうじゃないの!!」

桃がこぶしを高々と上げた。

それに楓、怜と続く。

「みんな。ありがとう。」

かすむ視線からでもみんなの笑っている顔がわかった気がした。


太陽に照らされ手が温かくなる。桜の花びらが散る中で四人の掲げたそのこぶし。一人一人が胸に抱く思い。それを表すかのごとく風が戦ぐ。タンポポが揺れ、噴水の水が波をおこす。チリケンの到達地点に向けて彼女らは走り出した。


お読みいただきありがとうございました!これからもよろしくお願いいたします!

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