量子力学は恋心に結びつくのか
今日最後の挨拶が終わった教室。
私とはる君は日直日誌を書きながら向かい合っている。
「ねぇはる君、量子力学ってなぁに?」
「知らん。ネットで検索しろ。」
「検索してもわかんないからきいてるのに。」
「辞書を引け。」
「だからそれでもわからないんだってば。ネットも辞書もわけわかんないよ。説明が難しすぎる。」
「だったら子供用の辞書で調べろよ。」
「小3の時に買ってもらった辞書には量子力学なんて載ってないもん。」
「めんどくせー。」
「ほら、調べるのすらめんどくさい言葉なんだよ?理解するなんて無理すぎると思わない?」
「ったく・・・。検索した画面あんのか?」
「これ。」
「うーん、理解するのめっちゃめんどくせー。」
まぁこんな面倒くさがり屋なはる君ですが、いつまでも私の相手をしてくれるので、嫌われていないと信じたいのです。
信じたいのですが、ここから一歩踏み出せない自分はかなりの臆病者なのです。
優しさに甘えてしまっているのです。
今も難しい顔で私が理解できる言葉を一生懸命探してくれている。
「理系の大学生が習う難しい勉強、って事じゃだめなのか?」
「それぐらいはわかってるもん。」
「目に見えないぐらい小さなものの研究を色んな分野に活かす為の基礎に必要な分野。これ以上簡単な言葉が見つからねー。」
「うーん、わかったような、わからないような・・・。」
「俺だって文章読んでこんな感じって、ざっくりまとめただけで根本がわかってるわけじゃねーから。」
「だよねー。」
「大体量子力学なんて言葉、なんで知りたいと思ったんだよ。」
「え?図書館で探し物してたら目に入った言葉で、はる君も知らなさそうだから聞いてみたら面白いかなって。」
「くっだらねぇ・・・。」
いやもう、ごもっともです。好きな子にちょっと意地悪してみるとか、かまってほしいだけとか、なかなか最低だね、私。
はる君がいい人すぎて泣けるわー。泣かないけど。
自分のお子ちゃまぶりに腹が立つだけで、もう、こんなやりとり何回繰り返しただろう。
量子力学なんて知らない。
この恋がうまくいく方法はそれ以上にわからない。
『好き』の一言が重い理由を、量子力学では証明できるのでしょうか?
目に見えない物の学問なら、恋心もその中に含まれるのでしょうか?
どうすれば素直になれるのか、誰か教えてください。