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第五話 富の街の来訪者

前回のあらすじ


鎧の圧倒的性能を持って、勇者軍をせん滅したエマニュエル。だが戦う決断は遅く、騎士たちは皆命を落としてしまっていた。

後悔を胸にエマニュエルは騎士たちを弔い、残してくれた僅かな物資を手に再び東へ向かうのだった。

 王都サン・コリヌ。神聖マルブランシュ王国改めマルブランシュ共和国の首都であり、大統領となった勇者が治める町でもある。王宮を改装した大統領府では、正午、元勇者パーティーによる定例会議が開かれていた。



「どこも大きな変わりはないようで何よりだ。しかしこっちで、少し気になることがあってね」



かつては王の執務室であった絢爛な部屋。そこで元勇者オーレリアンは壁にかかった四枚の肖像画に語りかける。かつて初代王と共にこの地を平定した四大貴族が描かれていたそれは、それぞれの館との通話を可能とする魔法の道具でもあった。しかし王家、四大貴族とも血脈が絶えた今、それは元勇者パーティーの所有物となり、肖像も彼らの物に描き換えられている。



「気になることって?」



 金髪の魔女、アニエスの肖像画からの声。会議においては勇者が話を振り、アニエスがそれを進め、神官コレットが補足と質問、デボラは茶化しジョルジェットは流される、というのが旅をしていたころからの流れだった。



「残党狩りに当たらせていた小隊の一つが消息を絶った。捜索隊を出したんだけど……東の廃砦で全滅していたよ」


「全滅……小隊は確か70人程度でしたね。それが一人残らずとは……何かの事故ですか?」


「いや、明らかに武器で殺されている」


「じゃあ山賊か……王国派の残党? でもここ数年あいつら活動らしい活動なんて見せなかったじゃない」


「よっぽど弱かったんじゃねえの、その兵隊? お前のところはぬるいからな。俺が鍛えなおしてやろうか?」


「デボラ、真面目に聞けよ……オーレリアンが気になるって言ってるんだからさ」


「そう、ここからが重要なところだが……中隊とは別に埋葬された死体が30体ほど見つかった。持ち物や人相から見て、王国派残党で間違いない」


「つまりそいつらが小隊を? でも70人を倒したってことは……100人くらい居たってことになるの?」


「わからない。しかし調査隊からの報告ではそんなに大勢が生活していたような痕跡は見つからなかったそうだ」


「オーレリアン、大統領とやらになってから、話が長いぞ。つまりこう言いたいわけだろ?何者か。それもおそらくごく少数が70人からの兵士を全滅させた。それは王国派残党を丁重に埋葬し、どこかへ去った……が、その正体や目的はまるでわかっていない。ってな」


「それって……ヤバいだろ。あたしらで集まって探し出した方が良いんじゃないかい?」


「そうは行きませんよジョルジェットさん。相手の目的がはっきりしない以上、下手に動けません。私たちが留守になったところで街を襲われたらどうするのですか?」


「そりゃあ……うん……」


「ともかくみんな、気を付けてくれ。遺体の損壊具合は普通じゃない、まるで魔物にやられたかのようだった」


「ええ、わかったわ。そっちこそ、気を付けてね」


「魔物……魔王が居なくなったというのに、一体……」


「まあ、相手は何か知らねえが、来たらやっちまって良いんだよな?」


「せっかく平和になったってのにな……」



 各々の感想と共に会議はお開きとなる。勇者たちが謎の敵対者の存在に気づく一方で、その敵対者本人、第三王女エマニュエルは風の街へと近づきつつあった……


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勇者の旅路:ドレメール


 最初の目的地として選んだドレメールにたどり着いた勇者は、財布をスられてしまう。スリの少女を捕まえて突き出した勇者だが、リンチを受ける彼女を今度は助けてしまう。

「全ては魔王のせい、この地を荒らす“腐れの王”を倒せば街は豊かになってスリなんかする必要もなくなるはずだ。」と。

“腐れの王”と対峙した勇者とアニエスだが液状の体には剣も魔法も通じず追い込まれて行く。早くも旅の終わりかというその時、尾けていたスリの少女が小さな核を“腐れの王”の体から抜き取った。それを破壊することで勝利した勇者は、スリを仲間に加えることにする。これが、デボラとの出会いであった。

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「あれが、デボラの街……!?」



 少し離れた丘の上から街を見て、エマニュエルは驚きの声を上げる。そこはかつて四大貴族のうち一つ、バイヤール家が治めていた街であった。広大な小麦畑の広がる豊かな農業地で、実りの時期になると一面が黄金の海のようになると評判であり、ドレメールという街の名もそこから取られていた。しかし、エマニュエルの聞いていたその長閑(のどか)な印象とは異なり、そこは王都をも凌ごうかという大都市になっていた。塔のような建物が立ち並び、そしてそれらすら見下ろす、空に浮かぶ構造物。



「大きな建物がいくつも……それに、あの空に浮かんでいる御殿は一体何なの……?」



 それは飛行船と呼ばれる種類の物であったが、エマニュエルにとってはまったくもって未知の存在だった。しかし、それが特別なモノであるということは、都市中心に係留された威容をもって感じ取ることができた。



「きっと、デボラが居るのはあそこね……」



 エマニュエルは巨大な飛行船を見据えて丘を駆け下り、目の前の大都市へと向かう。小麦畑の外縁に達した彼女だが、街門への道を歩くうちに、彼女は妙な違和感を覚えた。



「(なんだか皆元気がない……見たところ麦の実りは良いのに……)」



 風の街と呼ばれるだけあって、麦穂を波のように揺らしながら風が吹き抜け、いくつもの風車を回す農地。そこを行き来する農民は何度も見かけたのだが、その顔は一様にどんよりしていて、表現しがたい重たさを帯びていた。農民の暮らしが決して楽ではないことは王都出身のエマニュエルも知っていたが、それでも豊作になればそれだけ収入が増え、農民も喜ぶ物だった。

魔物が姿を消して以降は耕作地も増え、姉たちとこっそり遊びに行った収穫祭では鳥や豚の丸焼き、パンにケーキに果物が振舞われ、ビールを飲んで酔っ払ったアネットと共に笑顔で踊ったのをエマニュエルは覚えている。しかし、このドレメールの農民たちがそのように笑顔を見せるさまはどうにも想像がつかなかった。



「(こんなに大きな建物が並んでいるなら、豊かな街のはずなのに……あら?)」



 疑問を感じながらも街に近づくエマニュエルは、道端に一人の男がうずくまっているのを見つけた。歳は40そこら、怪我や病気はしていないが俯いたその表情は暗い物だった。



「もし……どうなさいましたの?」


「あ、ああ……あんた……どこの家のもんだ……? お、俺になんか用かい?」



 声をかけたエマニュエルを、男は値定めするように見ると媚びるような卑屈な声で問いかける。エマニュエルは少し返答に困った……まさか王家の遺児ですと答えるわけにもいかず、結局無難な返答をすることにした。



「魔王が居なくなって平和になったでしょう? なので私、旅をしていますの」


「なんだ、旅人かよ……暢気で良いよな」


「……何か、お困りなのですか?」



 暢気と言われてムッとしたが、声をかけておいてさっさと立ち去るのもはばかられ、事情を訊いてみるエマニュエル。男はうっとうしそうな表情を浮かべたが、それでも言いたいことはあったのか口を開く。



「仕事だよ……仕事をクビになっちまったんだよ! あ、明日からどうやって生きて行けば……」


「まあ……ですがそれでしたら、こんなところでうずくまっているよりも、新しい仕事を探せばよいのではないですか?」



 収入を得る手段を失うというのは誰にとっても辛いものではある。それはエマニュエルにも理解できることであり、かけた言葉もまっとうな物であったが、無責任な物でもあった。しかしそれに対する反応は納得でも反発でもなく、むしろ怯えに近い物だった。



「む、無理だ……俺はもう43だし、何か特別なことができるわけでもない……俺は……俺はもう終わりだあ!」


「あ……!」


 悲鳴に近い声を出して走り去る男。エマニュエルは困惑しながらも、その背中を見送るしかなかった。



「これだけ大きな街なら、お仕事なんていくらでもありそうなものですのに……」



気にはなったが、かといって自分の目的をおろそかにするほどの事でもないと思えたので、エマニュエルは再び街へと歩き出すのだった。


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ドレメール


 王都東部、平原地帯に位置する都市。王国の穀倉地帯として知られていたが、魔王の放った“腐れの王”により農業は大きな打撃を受けた。勇者により“腐れの王”が討たれてからは、それまでの分を取り戻すかのように、豊かに麦穂を実らせている。

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今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。


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